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疾走感と自分の浅はかさを感じる「ジャクソンひとり」

定期的に訪れる本が読めない時期が明けて、まともに読了したのがこちらの作品。
安藤ホセ著「ジャクソンひとり」
あーおもしろかった。
第59回文藝賞受賞作。多分去年かな。


気持ち良さ、時々自己嫌悪

主人公はブラックミックスでゲイの青年。人種も性的嗜好もマイノリティのため、日本は非常に生きにくい環境。身長も高いし肌の色も違うので、とにかく目立つ。
正直なところ、ブラックミックスとか黒人とかゲイとか、この言葉が差別表現に当たるのかどうかも判断できないくらい、自分が理解できていないことに気づく。
生まれた国でメジャーな属性で生きていても、それぞれの小さな違いで鬱々とする時代。格差とか個性とか優劣とか毎日何かしら感じているのに、その非ではないくらい大きな違いを感じている人たちがどう生活しているのか、リアルに想像することができなかったんだろうな。
海外出身の友人はほとんどいないし、もしかしたら無意識に合わないだろうなと避けていたとしたらゾッとする。
その割に、作品中で主人公が復讐めいたことをする行動や仲間を見つけて生活に楽しさを見出す展開には共感。ワクワクしたし疾走感もあったし、嬉しかった。
なんということでしょう。。
まあそれでいいんだけど、都合良く自分の立場を良い側に置いているなと。
ときおり自分の浅ましさにぐえっとなりつつも、ぐんぐん読み進めた。
全力で走って気持ちいいんだけど、小石が足裏をズキズキしてくる感じ。

特徴的な「視点の移動」

珍しいなーと思ったのが、視点について。
小説内では基本的には主人公に視点が固定される。他の人の視点になったとしても章ごとや区切りを作って視点を移動させると思うんだけど、この作品では文章の中でシームレスに視点が移動する。(と思ったんだけど間違っていたらごめんなさい…!)
一応段落は変えてあったと思うけど、主人公視点だと思ったら、他のメンバーの視点になり、さらには敵対する人の視点にもなったり。
冒頭部分から視点の移動がちょこちょこあって、はじめは混乱した。。
プロじゃない人の作品だとたまに視点がぶれることがあって読みにくいなと感じることがあるけれど、今回はそれが良かった気がする。
あ、「神視点」といわれる方法はこんな感じなのかな、、読んだ記憶がないから分からん。
とはいえ、”視点が変わるのねー”と一度飲み込んでしまえばそこからは迷うことなく読み進められた。

主人公はジャクソンだと思うけど、同じブラックミックスでゲイの仲間3人の視点にもどんどん切り替わる。作品中でこの4人は実際に入れ替わって生活してみたりもするし、なんとなく4人まとめてジャクソン感がある。
どうせみんな海外の人の違いを区別できるわけないよね、、なんてことを示されていてドキッとする。
日本だけでなく、欧米の人たちは、日本人・韓国人・中国人の見分けがつかないっていうのもよく聞く話だし、どこの世界もそうなのかもな。

新しい体験だった

いろいろと衝撃的な作品だったな。
物語もおもしろいし、中編くらいで一気読みできるボリューム。事件も起きるし展開も早くてスピード感もある。
ただ自分の知識の無さや思い込み、無意識化の差別意識みたいなのを勝手に感じてうぐー…っとなった感じ。

ひとつ新しい情報として知ったのは、大麻は手作りクッキーに混ぜて摂取するってこと。そして土の匂いがするってこと。笑
以前海外旅行中にあるお店の前で初めて嗅いだ匂いがあって、一緒にいた海外在住の友人に「これ大麻だよ」って言われたことあったな。もう覚えてないけど土の匂いだったかなあ。。今後の人生で経験することはなさそうだけどメモ。


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