1997年5月12日 『メコン河クルーズ』

1997年5月12日 『メコン河クルーズ』

 今日から1泊2日でルアンパバンまでの道のりをメコン河クルーズで進む。このクルーズはラオスでの目玉だった。ラオスなどという国には、おそらく2度とくることはないだろう。ラオスはほとんどの土地を森林に囲まれ、人口はわずか485万人しかいない静かな国である。今回はその広大な土地を木製の大型ボートでゆっくりと下るのである。

船旅には重本さん(26歳、男性)と上奈路さん(22歳、女性)と一緒に乗ることになった。ラオスにいると自分がまるでタイムスリップしたかのような錯覚に捕らわれる。ラオスの雰囲気は“昭和の雰囲気”とかそんな感じではなく、もっとはるか昔に遡ったような不思議な感じがするのである。

夜はメコン河の途中にある本当に小さな町に舟を泊め、舟の中で泊まることになる。泊まるといっても舟の中の板間にみんなで雑魚寝である。俺は幸い寝袋を持っていたので、寝袋にくるまって寝ることにした。

夕方にその町に到着し、就寝までは時間があるので俺たちは町を散策することにした。ラオスの片田舎にあるこの町にはどうやら電気が通っていないようである。いくつかの船は泊っている宿場町であり、川沿いには商店も並びラオスでは比較的大きな町なのであろう。
しかし電気はなく、各家ではランタンのようなもので灯りをとっていた。

夕暮れどきから日没まで、地元の商店だの小学校だのをまわり、早めに舟に戻ることにした。完全に暗くなってしまったら、道も懐中電灯なしにはもう歩けないのである。

ようやく舟まで戻ってくると、川沿いには蛍が出ていた。しかも日本で見るような数匹の蛍ではなかった。数百、いや数千、数えきれないほどの蛍が視界一面に拡がっていた。蛍のわずかな灯りもこれだけ集まると川全体が明るく見える。

我々は声が出ない感動に包まれていた。まるでこの世ではないような景色に圧倒されていた。おそらく数年後にラオスを訪れたとしても、もうこの景色は見られないのではないか。ラオスの国も年々変化している。電気がない世界だからこそ、蛍の灯りもまぶしく見えるのである。我々は一生忘れないように、いつまでもその景色を無言で眺めていた。


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