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シンガポール支社は、クイーンズタウンの高層ビルの11階を1フロアー借りていた。総数七十名の内、日本人スタッフは十五名、あとはアシスタントなどの現地およびマレーシアからの通勤者であった。

支社に着くと、受付がmすぐに応接に通してくれた。不思議に思うと、宗君が私が食糧供給先にの相談に、斎藤副社長を訪ねたい旨、連絡を前持って入れておいてくれていた。急な訪問は怪しまれるとの気遣いが、嬉しい大泉だった。

応接で、メイルをチェックしていると奥寺から、1通のメイルが届いていた。内容は、何も書かれておらず、添付ファイルが一つあるだけ。添付をひらけようとすると暗証番号の入力を聞いてきたが、どうしようと考えていると、今度は

携帯のメッセージにまた、奥寺から、今度は、番号が『112287』とあった。メイルではなく、携帯からだとすると、内容は、会社には見られたくないことかと思い、添付ファイルをUSBに一旦写し、そして、私用のiPad airに入れてから、暗証番号を入力して開いて見た。するとはじめに、詫び文が書かれていた。



『大泉。すまなかった。お金が必要だし、とにかく出世したかったので、斎藤の話に乗った。これで罪滅ぼしにならないが、一応、極秘情報を送る。』

と書かれたレポートの続きには、今回、淡路で起きた事件の真相の一部が書かれていた。



結局、ヒ素は当然嘘で、淡路の問屋に出回ったのは、初めに大泉が予想したとおり、通常の出荷タイミングより少し早く出荷し、現地に商品を供給したため、品質管理部で見つけた、製造工程で起こしたコンタミ、高濃度の亜鉛と鉛が混入したものが出回ったためだった。

亜鉛と鉛は、取りすぎると、神経障害を起こす。限度濃度の10倍が混入していることを、最終出荷検査で見つけたが、機器の故障と思い、商品出荷をそくじ停止しなかった。3回測定して同じ結果だったので初めの検査から、2時間経過してから出荷停止指示がでたのだった。その2時間の差で、あれだけの人的被害が出てしまった。

その後の対応がまた恐ろしい。奥寺の報告を聞いた竹村社長と近藤総務担当役員が、すぐに連れ立って、総理官邸の事務次官に会いに行き、どうにかしたいと相談している。これは、今回の中国での植物工場プロジェクトは実は政府からのようせいで、中国との関係強化とコントロール力を持つためのものだったからだ。

さっそく、事務次官は、公安などに手を回し、今回のヒ素による水質汚染をでっち上げて、食品コンタミ問題を揉みけしたのだった。



 揉み消し工作の最後には、書かれていたことで、これまでに起きていた一連の出来事が、 初めから仕組まれていたことを知り、怒りがこみ上げ、思わず、唸る大泉。


 となると、今すぐ、このシンガポール支社を出た方がいいと直感が訴えていたので、書類とiPad air を鞄にしまい、ソファーから立ち上がり、応接から、すぐに受付に来た時に、斎藤が、応接に入っていくのが見えたので、急いでエレベーターに乗って、支社を後にした。


 あの様子からすると、宋君は敵ではないようだなと少し安心する大泉は、ここまですべてを疑いぶかくなっているのかと自分を少し嫌になりかけたが、奥寺のことがあるので用心にこしたことはなく、脇を締めてかからないと、足下からすくわれると、自分に言い聞かせて、次の行動に移るために、チャンギ国際空港に向かった。





 チャンギ国際空港から、上海には、2時間程度のフライトだった。2便繰り上げて乗ったので、エコノミークラスで、まずい昼食を取る羽目になったが、とにかく

早く事実を示す証拠を抑えないと、ひょっとしたら、すべて廃棄されてしまう。もう少し早く奥寺が打ち明けてくれていれば、シンガポールに向かわず、上海に先に入ったのだが、と少し心配し始める大泉。



 上海国際空港から、タクシーで(5時間はかかるが)すぐに植物工場に向かった。

タクシーの中、携帯メイルに、宗君から、メッセージ時が入った。



『先ほど、社内メイルで、奥寺さんが亡くなられたと訃報が回ってました。品質管理部の同僚から、自殺だとききました。取り急ぎ。』



 携帯を上着の内ポケットに仕舞いながら、昔、一緒に仕事したころこのことを思いだしながら、無念さと仕方がなさが入り乱れる大泉。しかし、だからと言って、私が生贄になるわけにはいかない、と気持ちを持ち直して、次の行動計画をメモし始めると、自然と闘志が湧いて来た。奥寺もたぶん被害者だ。





 植物工場の全容は、広大すぎてまったくわからない。大泉が工場につくと、待ち構えてたかのように工場長のチェンさんが出迎えてくれた。工場建設では、大泉も少し協力し、数回訪れて、チェンさんとは何回か仕事をしたことがあり、お互い、懐かしく笑顔で握手しながら、お互いをたたえ合った。そして、工場内の会議室に通され、問題を起こしたとされる水の専門家はすでに解雇されているようだった。


 広大な砂漠をバックにしたおっきく派手なシャンデリアが不釣り合いなガラス張りの会議室にとされた大泉。手持ちぶ沙汰にしていると、ドクター・チャンが、秘書らしきチャーミンングな女性を連れ立て会議室に現れた。


「いや、本当に久しぶりですね。大泉さん。一緒に仕事させていただいた後、すぐに取締役になられたとお聞きしておりました。おめでとうございます。しかし、また、今日は、急な視察で、こちらは、なにも準備できてないので、少し戸惑ってました。目的はなにかありますか。それとも別件で近くにこられたのでたまたまでしょうか?」と単刀直入に質問するチャンの顔と目をじっと見つめる大泉。チャンの目の奥の不安が明らかに増大していくようすが手に取るようにわかる。


「 いやいや。そうなんです。もともとここを訪問する予定はしていなかったのですが、たまたま、上海のインターネット関係会社がデータ整理をしてくれる会社とのミーティングが突然先方の予定でキャンセルになり、チャンさんのこの工場のことを思いだし、急遽です。ですから、目的もなにも、工場視察をお願いできればと思います。」と、日本でのことを隠してみたが、つうじたのだろうか、といぶかしむげにチャンをみたいがそれでバレるといやなので、終始、笑顔でチャンと対面し続けることにした大泉は、さすがに疲れることを実感した。


 チャーミングな秘書にだしていただいた、冷たい烏龍茶を二人で飲み干し、工場見学に向かうため、クリーンスーツをつける二人。植物工場内は、際立ってクリーンな空気で保たれているため、服などからのコンタミを嫌う。そこで、すべての入場者が、このクリーンスーツをつける決まりとなっている。あの、水学者も例外ではなく、このスーツをつけていた。大泉はふと、ポケットにメモ帳をしまおうとしたが、どこにもポケットが無いことにきづいた。たしか、あの女性は、ポケットにヒ素を入れる容器を携帯し、それが、工場内の水路に落ちたために発生したと報告書に記載されていたことを思いだし、ますます、今回の事件が単なる一人の作業者のミスでなく、組織的に何か不可思議なことが起きていることを感じる大泉だった。


 工場内に入ると機能的に配置された、作物と栄養や水を供給するパイプと水路が整然と並べられているのがよくわかった。建設時に大泉がみずから、ドクター・チャンを説き伏せて、産業らしい工場とはどのようなものか、説明し、納得した上で、建設のための投資を了承した経緯があった。今もその思想がちゃんと受け継がれ、増設時にも守られていることに少し敬服していると、チャンがそばに寄ってきて、トランシーバーをオフに、直に肉声で話かけてきた。


「大泉さん。私の友です、あなたは。だから、迷わず話します。御社の竹村社長から、大泉がいくから、とにかく、邪魔をしろと。しかし、わけがわからず、いろいろ調べていると貴方の部下の宋さんが教えてくれました。申し訳ない、貴方が、この件で、苦境に立たされているとは思ってもみませんでした。私はてっきり、すべてを分かってここに来られたのと。しかし、実際は違っていました。どうでしょうか。私は、自分のことはあまり考えず、日本からの指示で、こちらの若い研究者の責任にしましたが、実際は違います。あれば事故ではなく、意図的な行動で起こされた犯罪行為です。

 しかし、用心してください。中国政府も関係してますので、下手に動くと貴方は囚われ処刑されてしまいます。ですから、一刻も早く中国を出て日本に帰ってください。詳しいことは貴方に私からメイルします。それで、一部ですが真相がわかると思いますよ。」と、言って、トランシーバーをオンにして、いい眺めでしょう。ここは最高ですよ、なにより、安全。チャンは遠くを虚しく眺めながら、誰に伝えるともなく、話つづけていた。


 ドクター・チャンとの再会をおこなう楽しむ暇もなく、チャンのアドバイスにしたがい、速やかに日本に帰国することにした大泉は、タクシーで、上海国際空港に向かった。大きく広がる砂漠は、大泉の乾き切った心の中と違い、明らかに、光り輝いていた。





上海国際空港では、ラウンジには入らず、直ぐに関西国際空港に向かう一番早い便にのり、その日の夕方には、日本についていた。空港からいつものリムジンバスで三宮に向かう途中、携帯メイルに宋君からメイルが入る。



『竹村社長から電話があり、状況評価の時期を早めたいとのこと。明後日の土曜日に東京本社にて。どうされますか? 何か掴みました。』と。



 困った。今の状況では奥寺の件を出すしかない。もみ消させないためには第三者の立会いが必要になるが、だれもがいやがるだろう。大泉は自分が追い詰められていることがよくわかった。おそらく、上海、中国のこうどうから、何かを掴んだとにらみ、早めに潰すことにしたのだろう。ここで負ける訳にはいかない。奥寺も潰されたのだから。しかし、どう考えても、あまりにもビハインドだ。いろいろ思案しても良い方法は見つかりそうにない。



三宮について、そのことを家にメイルすると、いつもは返事がないのに珍しく、家内から返信メイル。

『今日はホテルに泊まって。一郎が、ハシカにかかったの。確か、貴方は罹ったことがないて言ってたので、うつると大変なんで、はっきりするまで、家にいない方がいいと思う。』と。


 これを見て大泉はピンときた。いえにかえろう。そして、ハシカにかかったことにして、休みを取って、調査活動をしよう。と良い案だと妻に感謝しながら、JRで、自宅方向(垂水方面)に向かった。ただ、本当にうつるとやばいのも確かで、そこをどうするかだな。一応、家の前まで行って、妻に車を借りて、移動しよう。それだと何とか会社を騙せるかもと思う大泉だった。


 自宅について、妻にわけを話、車を借りて、市内から少し離れたビジネスホテルに入ると、今での調査結果のまとめを始めると、不思議と心のざわつきが止んで、集中することができた。


 やはり次は、国内の製造工場の調査がどうしても必要だ。ただし、それは今はできない。だとすると、ドクター・チャンからもらったデータから、推察するしかない。淡路に行って、誰かが証言してくれると何と時間稼ぎにはなる。明日は淡路にもう一度いくか。と大泉はかんがえているがこれも慎重に行動しないとすぐに竹村にバレるような気がする。


 翌朝、体調が悪い、ハシカかもしれないと携帯メイルで、宋君に連絡を入れて、竹村へのほうこくを遅らせてもらうように頼んだ。





 ハシカを理由に竹村からの要求を延期させることができた大泉は、姿を変えるために、頭を剃って、坊主になり、ラフな格好で出かけた。これだと、サングラスも欠けているので、大泉とはわからない。パソコンで、偽の名刺を作り、ジャーナリストになりすました。これだといろいろ調べてもしょーがないと思ってももらえるだろう。


 妻のMINIクーパーで淡路島の汚染地区に向かった大泉は、いつもは使うナビは接続を外し、自分のスマートフォン(個人用の秘密の携帯)に入っているGooglemapでナビを設定し、走り出した。用事にこしたことはない、妻の車も会社の保険に入っているのでひょんなことから、誰かが気がつかないとはかぎらない。


 淡路島の北側にある、玉ねぎ農家を訪問した。ここは、この間の水質汚染で、被害を受けていたが、直接当社との取引がなく、大泉の顔は割れてなかった。

「こんにちは、朝日ジャーナルの環境ジャーナリストの明美と申します。あのできれば水質汚染のことを取材させていただきたいんですが、いいでしょうか?」と家の玄関を開けて、でてきた初老の男性に名刺を渡しながら、お願いしてみると、その男性は、どうぞと大泉を手招きして、家に招き入れた。

「やっときたか。これまで、家にはだれも取材に来なかったんだ。周りの特に、大根などの家にはいくのにな。たぶん、食品会社の取材調整で、あぶないところにはいかないようにしてたんだろうな」と男性はニコニコしながら、大泉を居間に招き入れ、お茶を継いだ。

「で、あんたは何が聞きたいのかね」と大泉に目配せしながら、お茶を進めて、話す男性。

「あの、水質汚染ですが、あれば本当でしょうか。あんだけの汚染は今まで世界中の環境問題を取材し続けてきましたが、初めてで、しかも、かいけつがあまりにもあっさりしている。あれは嘘じゃないかと、私はにらんですんですけどね」とメモをかばんから出しながらはなす大泉。



 農家の男は、大泉の言葉にニヤッとして、お茶を一杯すすってからおもむろに切り出した。

「あれはな、嘘じゃ。わしゃそう思う。何でかって、そりゃ、わしのとこも地下水を組み上げている。同じ水源じゃ。飲むなと言われたが、飲ませた。ほら入り口にたむろする野良犬がいたじゃろ。あれらにご飯と一緒に飲ませた、何もなかった。それで、わしも飲んでみたが、大丈夫だった。そのことを親戚に、あの地域で一番被害が出たという村に住んでいるんじゃが、言ったんや。すると。何も話すなと一言言ってから、何も話さんし、すぐに追い帰された。 あれは嘘じゃ」と、言い、また、茶をすする老人を見つめながら、お茶をに手を伸ばすが、のまずに見つめる大泉を見て、男性が続けた。

「そうじゃ、汲み上げた水で作ったお茶じゃ。」ほれ、と飲み干す老人をみながら、大泉が言った、

「あの、水をもらえますか、持ち帰って調べたいのですが。」


 



 水を手にしたものの会社にはすぐには行けないので、どうするか考えていると、ドクター・チャンから携帯にメイルが入ってきた。


『大泉さん。

この間はありがとう。懐かしかった。例の件ですが、こちらの調査で少し進展がありましたので情報を送ります。作物の製造工程で、分子内にある物質が蓄積されているようです。それはごく微量で、分子構造を今解明中ですが、まだわかりません。その物質が、日本の食品製造工程の一部で、先日、使用変更されたガスの成分に不純物があり、それと反応して、毒物が生成されるようです。このことは、日本品質管理部がつかんでいるようです。以上ですが、お役にたてればなによりです。気をつけてください。チャン』


大泉の直感は当たっていた。やはり。さ、これからどうするかだ。

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