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貸しコンテナ

 バス停と目と鼻の先に、貸しコンテナの店がある。
 店というか、かなり広い、砂利敷きの土地に、直方体のコンテナが20も30も並んでいるのだ。
 管理人とか、管理棟というものはない。
 中には、ふたつのコンテナがふたつ、平積みになったものもある。
 梯子を使って上るのか。しかし、それでは重たい物を出し入れできないのではあるまいか。
 夏のプラタナスがつくる、広大な日陰の下に、バス停はあった。
 私は、いつもそうするように、バスを待っている間、コンテナの群れをぼんやり眺めていた。
 自分もコンテナを持っていたら、と空想することもある。
 だが、いまは、この酷暑だ、コンテナの中は地獄にちがいない、としか思えなかった。そうだ。いま気がついたが、この地獄に耐えるものしか、コンテナには格納できないのだ。小動物を飼ったり、家出少女を匿ったりはできない――。
 女が歩いてきた。
 指先で、ふらふらと鍵を揺らして。
 キャミソールを着て、黒いサングラスをかけた、若い人である。
 彼女は、ある平屋のコンテナの扉を解錠すると、中へ入っていく。
 がちゃん、と扉が閉まる。
 なにか、コンテナから持ちだすにちがいない。鍵のほかは、手ぶらでやってきたからだ。
 腕時計を見る。
 バスが来るまで、まだしばらくある。
 女は――
 一向に、出てこなかった。
 コンテナの中は、相当な暑さのはずだ。長居はできないはずだが、しいんと、物音ひとつ立たないのである。
 別にどうでもいいはずなのに、私はじりじりと焦がれてきた。頭が熱い。見上げると、プラタナスの枝と枝の間から漏れた強光線の直下にあった。
 遠くに、バスが見えた。
 信号に引っかかっているが、間もなく到着である。
 キャミソールの女がなにを持ちだすか、私は結局見ることができなかった。せっかくだから、見たかった。なんとなく残念だ――。それで、終わるはずだったのだ。
 ところが。
 別世界のように涼しいバスの車窓から、女が見えた。
 キャミソールの女は、さっきの平屋とは対角線上にある、平積みコンテナの、上側のコンテナにいたのだ。扉の開いたところに座り、足をぶらぶら下げている。
 考えられない話だ。
 梯子もかかっていないし……
 こんな僅かな間に、平屋から、平積みの上側まで移動できるはずはない。
 だが、現にいるのだ。
 では、最初のコンテナと、あのコンテナとはつながっているのだろうか?
 どうやって?
 なんのために?
 キャミソールの女は、そのまま、ためらう素振りもなく、地面へ飛び降りた。
 さあっと、土煙が舞った。
 女が歩きだすのと、バスが発車するのとは、ほとんど同時であった。
 
 
 

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