女だって・・・。開高健に、『風に訊け』に、爆笑している。
私は軽く落ち込みやすい方だと思う。その9割がどうでもいいようなこと。ふと寂しくなるような、いわゆる「気分」というやつだ。
たとえばこんなこと。
仕事なんかでちょっと言い合いになり、嫌な気分に苛まれる。うまくいかないことが続くと、周りがやけに幸せそうに見える。自分だけ取り残されたような寂しさとか、ふと襲われる孤独感。
ちょっとした隙間風ていどのものではあるけれど。
ぷるるさんという、愉快豪快ながらウルウルな感動話も書かれるnoterさんがおられる。
彼女の記事には、ため息が出るような日には佐野洋子の『ラブ・イズ・ザ・ベスト』を読むと書かれていた。
やられた。そうそう、それそれ、まさにそれ。
『ラブ・イズ・ザ・ベスト』は元気が出る。クヨクヨしていたことが馬鹿らしくなるような晴天が心に澄み渡る。
嬉しくなって記事にコメントしたのだけれど、筆が滑った。「私は開高健にも助けられてますよ」などと書いてしまい……。しくじった……。
元気回復するための、佐野洋子は特効薬。
そして開高健の一冊(『風に訊け』)は秘策である。いや、ヒミツ事項であったのに。このことを人に話すと卑猥で低俗と思われかねない。
『風に訊け』への情熱を漏らした過ちは、これが初めてではない。
コニシ木ノ子さんという、掴みどころのない深遠さを放ちまくるnoterさんがおられる。
彼の記事に開高健への熱い思いが綴られており、またそれが2篇3篇あるので嬉しくなり、こちらのコメントでも筆が滑った。
記事では代表作などを話題にされていたのに、「私は『風に訊け』の文章術が傑出していると思います」などと……。
ずいぶん長い前置きになった。
私はただ、開高健の『風に訊け』の話しがしたいだけなのだ。卑猥単語オンパレードな『風に訊け』の面白さを、低俗本と思うことなかれと、ただ話したいだけなのだ。
佐野洋子本と同様、クヨクヨもすんすんも吹き飛ばしてくれるパワー全開本なのだから。
この本は、1982年から週刊プレイボーイで連載された人生相談コラム「風に訊け」をまとめた1冊である。いわゆる男性の「性」を中心とした悩み相談で、滅法くだらない質問ばかりがてんこ盛り。どれもお笑いネタのようなもの。性の悩みや「人肉の味はいかがでしょう」などの相談への回答に、開高健ならではの軽妙にして愛ある語り口調、欲望と見切りの人生譚が楽しめる。
自分が落ち込んでいるときに、どうでもいいような人の悩みを読んでみる。相談のアホらしさを笑い、開高先生の人生譚にしみじみし、すっかり自分も立ち直っているという寸法だ。魔法のように易々と元気が出る。軽い気持ちで明日を生きようと思えるのだ。
『風に訊け』の内容を紹介したいのは山々だが、卑猥な単語と表現ばかりで引用するのは難しい。155篇掲載の悩み相談の中から、かろうじて掲載できるものを選んでみた。
●相談タイトル「女房そっくりの女。」
相談者は27歳妻帯者である。
妻のことを愛しているのに女ができた。その女は妻そっくりで、妻とは週3回、妻そっくりの愛人とも週3回の関係を続けているがどうすればよいかという相談。
こんな出だしから始まり、フランス王朝の話し、与謝野晶子が浮気の心理を語った「二心 ふたつながらに 偽らじ」の解説、吉原の逸話などを交えた読み応えたっぷりの回答エッセイとなっている。
いろんな例を挙げながら、相談者はきっと愛人と別れて恋女房のところへ戻るのだろうと予測し、こう続く。
ひとりの女に落ち着いた後、相談者がどのような心境になるかを語り、最後にはそれをしみじみ感じることで「一片の英知が君の頭のすみっこのフケぐらいにはできるだろう」と結んでいる。
くだらないネタのような相談も、ひとつの人生。回答を読みながらその成り行きを想像させる文章を追い、ああ、私自身にも悩みがあったっけと遠い記憶のように思い出す。そしてそんなことはもうどうでもいいわとハッキリ決別しているのである。
『風に訊け』の序文にはこう書かれている。
ムリ。面白くて次々と読んでしまう。もしあなたが『風に訊け』を手に取られたら、私はこう予測させていただきたい。
400ページ弱の分厚い文庫本だが、きっと記録的最速スピードで読了されるに違いないと。
ただし、電車の中や公共の場でページを広げることだけはお控えを。
▼ぷるるさんの記事はこちらからもご覧いただけます。
▼コニシ木ノ子さんの記事はこちらからもご覧いただけます。