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眠れない夜

 眠れない夜というものは誰にでもあるのではないでしょうか。現にいま午前4時、私は眠れない夜を過ごしています。
 昨日の夕方、虫歯の治療をした歯が痛くて眠れないのです。治療の時にしていた麻酔と昨日の夜に飲んだ痛み止めのリレーが切れた夜中の3時。眠りが浅くなっていたのか、新聞配達のバイクの音で私は目を覚ました。それから歯の痛みを思い出してから今に至ります。朝まで眠っていられたらどんなに楽だったろうと考えるのですが、考えている時点で眠りと覚醒の中間地帯を抜け出して私の頭は目覚めていくのです。眠ることに関しては赤ん坊よりも下手な大人の私は、送り忘れたメールのことを思い出したり、来週に控えている商談のことを思い出したりするのです。目の前に確かにあるのは暗い部屋の天井か自分のまぶたのみで、その黒いスクリーンには何も写っていないはずなのに、脳が勝手に嫌だった過去やまだ起こってもいない未来を映し出す。こうなると眠ることに関しては完全に敗北しています。行き場がなくなった私の思考は、いまこうしてmacを開き、スクリーンの明かりに照らされながら書き物をしています。
 李白の「静夜思」はもしかしてこんな思いだったのかもしれません。故郷を離れて長江のほとりを放浪する彼にも眠れない夜があったようです。はるか背後に残してきた故郷のことを思うと、もしかしたら酒を飲んで無理やり眠った月夜もあったかもしれません。霜と見紛う月光に冷えるなと思いながら毛布を深く被ったかもしれません。
 1000年以上前の彼の寒さになんとなく共感する本日の早朝でした。


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