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東京、桜前線がやってきた。
いつの間にかマフラーや手袋が要らなくなって、
去年クリーニングを終えて仕舞い込んでいた、薄い春物のコートに袖を通す頃。
桜前線は南風とともに凄い勢いでやってきて、
薄桃色のちいさく可憐な花を枝いっぱいに咲かし、
決まって静かな春の雨とともにその花を散らして、
濡れた地面に、川面に、美しい桃色の絨毯をつくる。
気温が20度を超える、よく晴れた日。
お昼休み、愛用の赤い自転車に乗って、コンビニで買ったおにぎりとオレンジジュースを片手に、近所の公園へと繰り出した。
イヤホンから流れる音楽に歩調を合わせて、
自転車を引きながらゆっくりと桜の木の下を歩く。
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木の下でシートをひいてお弁当を食べる老夫婦。
生まれたばかりの小さな赤子を抱くお母さん。
ころころと笑い合う女子高生たち。
スーツのまま、ぼんやりと木を見上げるサラリーマン。
みんな、この季節を待っていたんだなあ。
なんだか嬉しくってたのしくって、たくさんカメラのシャッターを切った。
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至るところで、春の気配がする。
眠っていたものが起き出し、動き出す。
日差しが眩しく、緑の色が少し濃くなって。
街ゆく人びとの服の色も、表情も、心なしか少しだけ明るい。
「春だなあ。」「春だねえ。」
つい、声に出して言いたくなってしまうような。
桜前線はこの後、日本中を駆けてゆく。
故郷にももうすぐ、桜が咲くだろうか。
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