【2024年都知事選】候補者たちの姿から見えた希望と課題。民主主義の危機に私たちができること。
2024年7月7日、東京都知事選挙の投開票が行われました。
結果は、現職の小池百合子氏の3選という、ある程度予想されたものではありましたが、今回の選挙戦は、これまでの都知事選とは異なる様相を呈しており、多くの課題や希望が浮かび上がるものとなりました。
私自身、投開票日の前日、7月6日に、小池氏、蓮舫氏、石丸氏、安野氏、田母神氏の5人の演説に実際に足を運び、それぞれの陣営の熱気や有権者の反応を肌で感じてきました。そして、その経験を通して、日本の政治、そして民主主義の未来について、深く考えさせられることとなりました。
今回は、都知事選を通して見えてきたものを、それぞれの候補者の姿と共に振り返りながら、これからの政治に求められる役割について、より深く掘り下げて考えていきたいと思います。
私が一番伝えたいのは、選挙戦自体の振り返りよりも、これからの政治や主権者教育なので(都知事選を振り返りたい方は1から6までも読んでいただきたいですが)、7から読んでいただいても分かるようにしました。
1:小池百合子氏:揺るぎない支持基盤と、見え隠れする「権力の疲労」
現職の小池百合子氏は、圧倒的な知名度と、これまで築き上げてきた実績を背景に、選挙戦を優位に進めました。
小池氏の演説は、現職としての実績をアピールし、特に聴衆をひきつけるわけでもなければ、別に悪い点もなく、生で小池さん見れた、という感じのライトな感じの人が多いように見えました。
実際、小池氏は、待機児童問題や新型コロナウイルス対策など、これまで数々の課題に取り組み、一定の成果を上げてきましたが、自ら都議会自民党を「伏魔殿」と批判していたにも関わらず、小池氏自身の政策決定過程もブラックボックス化しているのでは、という批判も出ていました。
このことは、あとでも触れますが、「R」マークを持って抗議する人たちが蓮舫さん陣営に見え、蓮舫さんへのネガティブなイメージや、「小池さんかわいそう」といった空気になっていたようにも思います。
2:蓮舫氏:国政での経験と政策提案力、しかし拭いきれない「過去のイメージ」
蓮舫氏は、国会議員としての豊富な経験と政策通としての実力から、今回の選挙戦でも、待機児童問題や高齢者福祉など、具体的な政策を掲げ、現実的なビジョンを提示していました。また、私が聴いた5人の中では最も演説がわかりやすく、一番聴衆をひきつけていました。
国会での「強い」蓮舫氏のイメージを連想してしまいますが、実際の演説では、ビジョンや具体性にも富んでいて、また国会中継などの印象とも違う柔らかい印象もあり、聴いた人の心はめちゃくちゃ掴んでいました。
しかし、蓮舫氏の場合は、過去のイメージが彼女への投票を躊躇させる一因となっていたように感じます。それは、蓮舫自身の演説よりも、例えば辻元清美氏による応援演説が「都知事候補蓮舫」ではなく、「与野党対決」を引っ張っているように見え、「批判ばかりしている人」というイメージの払拭に失敗していたように思います。
なお、今回の蓮舫氏の得票は約128万票と、前回、同様の立ち位置にあったと言える宇都宮健児候補の得票(約84万票)と比べると大きく積み増していました。
3:石丸氏:若者を熱狂させた「ネット選挙」の可能性
今回の都知事選で最も注目を集めたのが、(元)広島県安芸高田市長の石丸氏でしょう。既存の政党やメディアに頼らず、YouTubeなどを通じて、若年層を中心に支持を集めました。
石丸氏の演説は、政策論よりも、むしろ「政治屋の一掃」や「古い政治からの脱却」といった、感情に訴えかけるメッセージが中心となっていました。
彼の主張は、既存の政党政治に不満や閉塞感を抱える若者たちの心に響いたと思われます。
石丸氏の街頭演説には、従来型の政治集会には見られないような熱気に満ち溢れていました。
YouTubeでリーチしている人が多く、YouTuberも石丸さんの街頭演説をアップすると、再生数がのびるからこぞってきているというループができたようでした。
石丸氏の選挙戦が示した既存メディアによらない「ネット選挙」の可能性は、非常に大きなものがあります。
都知事選での石丸氏の支持拡大は、ネット選挙が(従来のようにニッチな支持層の取り込みに留まらず)、マスに支持を広げる最有力手段として機能していたということです。
(関連動画の視聴回数は石丸2億回、小池蓮舫も1億5千万回ほどと、都知事選自体がYOASOBIの「アイドル」と同規模の広がり。)
既存メディアのリーチが低い30代までの人数自体も増加していて、そもそも都知事選でtiktok、YouTubeでほとんど石丸氏にしか接していない若者も多数いたはずです。
また、維新支持者の約50%、国民民主支持者の約50%弱、れいわ支持者の約30%は石丸に投票したとのことも、興味深い結果です。
4:田母神氏:強硬保守層の元気がなかった
田母神氏は、保守層を中心に根強い支持を集め、のはずが、いわゆる保守・右派層の得票は伸び悩んでいたようです。一緒にすると炎上しそうですが、田母神氏27万票、桜井氏8万票、35万票であり、2014年の田母神氏の61万票からかなり減ってしまいました。演説は、支持者の温度感がめちゃくちゃ高いので盛り上がっており、高齢男性に加え、若者もそれなりの聴衆がいたように思います。
5:安野氏:市民参加とテクノロジー活用、「新しい政治」への模索
参加型マニフェスト(リクエストを誰でも提案できる。提案と変更箇所などを紹介。2週間で208件の課題提起と、80件の変更提案がなされ、そのうち65件を実際に政策マニフェストに反映)や選挙期間中に6000の質問に回答した「AIあんの」、ポスター掲示をグーグルマップでピンにしてゲーム感覚で実施し、結果1万4千箇所のポスターをボランティアだけで貼ったり、など、「参加型の政治」を提示しました。
選挙権のない若者が遠方からボランティアとして参加するなど、期待感の大きさも感じました。
また、他の候補者との一番の違いは、いい意味で「政治思想を見えなく」することで、「敵を作らない」というのも若い世代に共感を得られたように思います。
6:ネットの空気感・各政党支持者の動向
世代が下がれば下がるほど情報収集を既存メディアからネットに移しているとはよく言われることですが、X(Twitter)を一番長い時間使う層は、約4割が小池氏支持の傾向ということでした。
調査で、「民主党政権評価しない」とした人は、蓮舫氏に投票した人の中では2割程度だったのに対して、石丸氏・小池氏に投票した人は7割ということでした。民主党時代への不信感は根強いものがあったようです。
なお、立憲民主党支持者の約25%は石丸氏(約12.5%)と小池氏(約12.5%)に投票したそうです(7割は蓮舫氏)。
また、れいわ支持層は、小池氏(約10%)、石丸氏(約30%)、蓮舫氏(約40%)と、大きな傾向はなかったようです。
7:政治への信頼を取り戻すために:対話と共感、そして未来への希望を
日本の政治不信を解消する鍵は「対話」と「リスペクト」にあり
⚫️対決姿勢と分断に辟易する有権者たち
日本の政治は、対立と分断が常態化しています。選挙では敵対する陣営を叩き合うことが当たり前となり、有権者たちはうんざりしています。このような状況は、政治不信を招き、民主主義の危機を招いているのではないでしょうか。
⚫️政治家の役割は「民意を救う」こと
政治家の本来の役割は、国民の声に耳を傾け、その民意を救うことです。しかし、現状では、敵陣営を批判し、対立を煽ることに終始しているように見えます。与野党が超党派で連携し、建設的な対話を行うことで、国民全体の利益を追求する姿勢を示すべきです。
英国に見る「リスペクト」の重要性
英国では、新首相が就任演説で退任した前首相をねぎらうなど、お互いを尊重する文化が根付いています。これは、英国の民主主義の成熟度を示すものであり、日本も見習うべき点です。政治家同士がリスペクトし合うことで、国民からの信頼も得られるはずです。
⚫️政治不信から生まれるポピュリズムへの対抗
政治不信が高まると、ポピュリズムが台頭する危険性があります。ポピュリズムは、既存の政治体制への不満を背景に、単純な解決策を提示し、大衆の支持を得ようとします。しかし、ポピュリズムは、社会を分断し、民主主義を弱体化させる可能性があります。
⚫️ファンベースの構築で政治への関心を高める
政治への関心を高めるためには、政治家は従来の「基盤」とは異なる「ファン」を獲得する必要があります。SNSなどを活用し、政治家のビジョンや姿勢に共感する人々を集めることで、政治への参加を促すことができます。
⚫️世界的な「民主主義の危機」に日本も無関係ではない
世界では、若者の間で移民や難民を排斥する差別主義が拡大しています。日本もこの流れから無縁ではなく、格差や不平等に対する不満が高まっています。このような状況下では、自由主義陣営に対する「影響力工作」が行われやすく、民主主義の価値観が危機にさらされています。
⚫️主権者教育と対話で民主主義を守る
民主主義を守るためには、主権者教育を通じて、民主主義の価値や社会をより良くする方法を伝える必要があります。また、若者や市民団体との対話を積極的に行い、政治への信頼を取り戻すことが重要です。
政治家へのお願い
日本の未来を担う私たち若者世代の声を、政治の場に届けたい。私はそう強く願っています。
政治は、私たち一人ひとりの生活に密接に関わっています。しかし、現状では若者の政治参加は進んでいるとは言えません。政治を「自分とは遠いもの」と感じている若者も多いのではないでしょうか。
だからこそ、私は訴えたい。
⚫️若者の声を聴き、政策に反映する
政治家の方々(これは、地方議員を含めると約3万2000名以上います)、には、若者の声に真摯に耳を傾け、政策に反映する努力をしていただきたい。
⚫️与野党が連携し、リスペクトし合う
そして、与野党がお互いを尊重し、連携していく姿勢も不可欠です。建設的な議論を通して、より良い未来を共に目指し、リスペクトし合う姿を有権者や、未来の有権者に示す、そんな政治であってほしいと願っています。
⚫️主権者教育や若者の市民団体育成を支援する
また、若者の声が政治を変える力になることを示し、政治への関心を高めていくことが重要です。そのためには、主権者教育や若者の市民団体育成への支援を充実させていく必要があります。
⚫️学校内民主主義を推進する
また、学校現場における民主主義教育の重要性も忘れてはなりません。生徒たちが主体的に学校運営に関わり、意見を表明し、議論する経験を通して、民主主義の根本を学ぶことができるはずです。
私たち「笑下村塾」は、主権者教育や若者と政治をつなぐ活動をしています。政治への信頼を取り戻し、民主主義を守るために活動しています。
都知事選では、陰謀論や他陣営の誹謗中傷が目立ちました。面白半分の「悪ノリ」を含め「いいね」を稼ぎ、それらがエスカレーションし、知識人や国会議員もそれにのってしまう危うさがあると感じました。これは、反知性主義が広がる危険性があると思います。
だからこそ、私たちは「民主主義」の価値、社会をよりよく変える方法(正当な方法で)を伝える主権者教育や、社会を変えられる実感「行政や政治家が自分たちを取り残さず対話してくれていると感じられる」ことなどが必要だと考えており、今後もこれらを推進していきたいです。
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