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【書評】江戸の食空間 屋台から日本料理へ

江戸前の魚にころもをつけて揚げ、串にさして提供した屋台の「てんぷら」や、古くからあった「なれずし」が、せっかちな江戸っ子のニーズに合わせるべく「はやずし」を経て誕生した「にぎりずし」は、江戸の庶民が生んだ味だ。
天麩羅、鮨といえば現在は高級和食というイメージが強いものになっているが、江戸時代に生まれた「てんぷら」、「すし」、そして「そば」は屋台から生まれたファストフードだった。

本書は、食材や調理方法、発酵技術の発達により生まれた江戸の味や、意外に質素だった将軍の食卓、初鰹狂奏曲、料理茶屋「八百善」の戦略など、多彩で華麗に発達を遂げた江戸の食空間について語られている。

本書の編著者

大久保洋子著「江戸の食空間 屋台から日本料理へ」講談社刊
2012年11月12日発行

本書の著者の大久保洋子氏は、1943年生まれ、群馬県出身。実践女子大学文家政学部卒業。実践女子大学教授。専攻は食文化論・調理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第一章 江戸のファストフードのにぎわい
1 花形としての屋台
2 ファストフードの王者、てんぷら
3 すしーー「押す」から「握る」へ
4 そば屋、一、二町ごとに一戸

第二章 江戸の味の誕生
1 江戸百万都市
2 食欲をそそる醤油と砂糖
3 下り酒、年間百万樽
4 江戸庶民の食べ物ベストテン

第三章 将軍の食卓、町人の食卓
1 てんぷらを食べられなかった将軍
2 誇りたかき武士の食卓
3 町人の食事アラカルト

第四章 大江戸グルメブーム
1 「初鰹協奏曲」
2 庶民の食生活をのぞく
3 和菓子の世界

第五章 究極の料理茶屋、八百善
1 料理茶屋の出現
2 八尾善の戦略

第六章 日本料理の完成
1 本流としての本膳料理
2 懐石料理の誕生
3 外国料理の影響力

本書のポイント

「幕府が開かれた初期の段階の江戸は、河川の流れを変えたり、湿地帯を埋め立てたりと」、町には単身で出稼ぎに来ていた男性労働者で溢れ、毎日の食事を確保することに精一杯だったことから、煮売り屋(現在の惣菜屋)
が大繁盛となり、串をもちいて食べやすくしたてんぷら、田楽、蒲焼、だんごや手でつまんで食べられるにぎりずしなどのファストフードや餅菓子・饅頭などが人気となったそうだ。

一方で、貴族をはじめとする特権階層の人々が築き上げてきた伝統的料理を集大成したのも、江戸時代であったそうで、本膳料理及び会席・懐石料理などの日本料理の様式が確立したことで、それらが少しずつ庶民層にも浸透して、後世にも継承されていったことや、逆に庶民の考案でヒットした料理が高級化して料理茶屋などに取り入れられていったことなどが語られている。

著者によれば、「江戸という都市は、長い歴史のなかで一つのまとまった姿をとっており、完結した面白さがある」そうで、「草創期から成熟期、さらに爛熟期と、江戸の文化を庶民たちが大いに作り上げていったところに魅力がある」と述べている。
江戸の民衆が作り上げた食文化を知ることができる好書。



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