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【書評】日本史で学ぶ経済学

「なぜ、経済学を歴史で学ぶのか、それは歴史が考えるヒントの宝庫だから」と著者は言う。
第五代将軍徳川綱吉は、徳川政権の財政難を克服するために人員削減を断行した。
一方で、第八代将軍徳川吉宗は、同じく財政難を克服するために人員を増やした。
綱吉と吉宗の政策で、財政難は克服できたのかどうか、史実は雄弁に物語ってくれる。
本書は、歴史の様々なエピソードを経済学で解釈した書だ。

本書の編著者

横山和輝著「日本史で学ぶ経済学」東洋経済新報社刊
2018年9月21日発行

本書の著者の横山和輝氏は、1971年静岡県生まれ。1994年神奈川大学経済学部卒業。1999年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。2006年博士(経済学、一橋大学)。現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第1章 貨幣の経済学
introduction ▶貨幣の過去から貨幣の未来を読み解く
なぜ鎌倉・室町時代に中国銭が流通したのか? ――貨幣の一般的受容性
江戸の両替商が生んだ決裁サービス ――貨幣の決済完了性
国際金本位制と暗号通貨の共通点 ――通貨が国境を越える時

第2章 インセンティブの経済学
introduction ▶人と組織を動かすインセンティブ
日光電気精銅所の「働き方改革」 ――金銭的インセンティブ
律令制が衰退した原因はどこにあるのか ――垂直のインセンティブ関係
日本の特許制度の成り立ち ――発明のインセンティブ

第3章 株式会社の経済学
introduction ▶財閥と系列から学ぶ株式会社の特徴
株主と経営者のインセンティブ関係 ――所有と経営の分離
財閥の誕生 ――同族株主による事業拡大
財閥の解体と系列の誕生 ――昭和の日本的経営の正体

第4章 銀行危機の経済学
introduction ▶銀行危機は常に現代的関心事
なぜ銀行危機が起きるのか? ――ゲーム理論による分析
銀行危機が生じさせる3つのパターン ――2つの金融機能不全
昭和金融恐慌はなぜ起こったのか? ――予防策を考えるヒント

第5章 取引コストの経済学
introduction ▶社会の非効率性を生み出す取引コストとは?
三井高利と荻生徂徠の共通点 ――取引コストの正体
吉宗はいかに政権運営の基礎を固めたか? ――組織の取引コスト
享保改革による取引コストの効率化 ――全国的な取引コスト削減

第6章 プラットフォームの経済学
introduction ▶古くて新しいプラットフォーム・ビジネス
商人と座の誕生 ――日本の「商売」の原点
織田信長のプラットフォーム政策 ――加納楽市令の場合
安土楽市令に見る織田信長の城下町構想 ――楽市・楽座から城下町へ

第7章 教育の経済学
introduction ▶先生は経済発展の原動力
明治・大正時代の小学校教育 ――教育と経済成長の関係
教員育成機関「師範学校」の現実 ――地域が先頭に立った教育政策
学校教育に進出した女性教員の活躍 ――100年前の男女共同参画

本書のポイント

本書は基礎編と応用編に分かれ、双方で7:つのトピックを紹介している。
基礎編では、貨幣、インセンティブ、企業システムという、経済学やビジネスにとって基礎的な3つのトピックについて、いくつかの史実から説明している。
応用編では、昭和金融恐慌、享保改革、楽市・楽座、学校教育という4つのトピックを掘り下げ、文献史料やデータを読み込みながら経済学の基礎用語を学ぶ構成になっている。

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