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②第1章 『論文書け!って言われても・・ 若手医師のための論文執筆の基本(仮)』

注意!
この記事は6/18に投稿した「医学論文をできるだけ簡単に書こう!」の焼き直しです。
すでにご覧になっている方は今日の記事は読み飛ばし推奨です。
なぜなら長いから。1万字超えです。

はじめに

1章 本文の書き方
2章 本文以外の書き方
 2-1表紙/アブストラクト
 2-2図表
 2-3統計
 2-4謝辞など
3章 なぜ論文を書くのか 
 なぜ論文を書くのか
 業績とは
 テーマの決め方
 必要な道具
4章 投稿と査読対応
 投稿先
 査読対応

論文を書け!って言われても・・ 若手医師のための論文執筆の基本(仮) 目次


少し目次を修正しました。
本文の書き方が長くなってしまったので、ここは章をまるごと使うことにしました。


第1章 本文の書き方

この章では具体的な本文の書き方について説明しています。
ですから「すでに研究テーマが決まっていて、データもある程度出揃っている、あとは書くだけ」という先生方が対象です。

まずは大まかな論文の構成を理解しておくことが重要です。
「1つの論文に1つのテーマ」の原則に基づき、最終的には自分の研究結果から導かれる結論=言いたいこと に向かって話を進めます。
その途中途中にイントロ Introduction、マテメソ Materials and Methods、リザルト Result、ディスカッション Discussionという各セクションが続くのです。

もう少しこれらのセクションを具体化します。
『イントロで広い話題から次第に自分の研究に話を向けさせ、研究の目的を述べ
マテメソで研究の方法を詳しく説明し
リザルトで結果を示し
ディスカッションで研究結果を他の研究と比べながら結論を導く。』

これが論文です。シンプルだと思いませんか?
シンプルだとわかれば、それに従って淡々と作業を積み重ねていけばいいのです。

では、ここからは論文を書くために必要な作業について考えておきましょう。
必要な要素は次の4つです。

  1. レファレンス集め

  2. レファレンスまとめ

  3. 日本語で本文作成

  4. 英文化

この4つを順にこなしていけば論文は必ず書けます!
ちなみにレファレンスreferenceとは参考文献のことです。
この中で優先度をつけるならば、超重要なのがレファレンスまとめと日本語で本文作成です。レファレンス集めの重要度は普通。そして、英文化の作業の重要度は極めて小さいです。ここが重要で、後述しますが「英語で論文を書く」ときに英語力は不要です。
むしろ重要なのは先行研究や関連研究のレファレンスをきちんとまとめる作業と、
日本語で論理的な文章に仕上げる作業です。
ひとつずつ解説していきます。


1-1 レファレンス集め

まずは、関連する研究のレファレンス(reference, 参考文献のことです)を集めましょう。最初は5本程度で構いません。多すぎると後のレファレンスまとめの作業が大変になりますので、集めすぎは注意が必要です。
ここでポイントとなるのが、鍵となる論文です。自分の研究に関連したコアになる重要文献が必ずあるはずで、それをまずは探しましょう。
探すヒントは、有名な臨床試験の論文、学会の教育講演で引用されている論文、教科書で引用されている論文です。
なかでも個人的にオススメするのが教育講演の引用論文です。教育講演の講師は相当のプレッシャーです。学会での教育講演では偉い先生方もたくさん聴講する可能性がありますから、講師の先生は変なことは言えません。ですから、必ず重要な論文をピックアップしてくれています。これを利用しない手はありません。

そして、その鍵となるコア論文から周辺の論文を探していきます。
ここで役立つのがConnected Papersです。Connected Papersとは論文同士の関連性を視覚的に示すことができるツールです。月額約760円ほどの有料サービスですが、月5回までなら無料で利用できます。

では、どんなサービスなのでしょうか?言葉で説明するよりも、まずは次の図をご覧ください。

ここでは私が過去に書いた"Preliminary result of carbon-ion radiotherapy using the spot scanning method for prostate cancer"という論文を使用しました。
まずConnected Papersのトップページでコアとなる論文を検索します。すると、その論文と関連のある論文の一覧が上図のように表示されます。図の中心で紫色で示されているのが検索した論文です。関連する論文が一覧で表示されるだけでなく、それぞれの円をクリックするとAbstractまで表示される優れモノです。
さらには、円の大きさは引用回数を表し、円の色が濃くなるほど掲載年が新しくなります。つまり円が大きくて色の濃い論文を優先的にピックアップしていけば、重要なレファレンスを集め漏らすことはありません。

こうした方法を利用しながら、まずは5本、なければ3本で構いません。鍵となる論文を集めましょう。最終的に論文で引用するレファレンスの数は、通常20〜30本以上になりますが、それはこれらのコアレファレンスの孫引きだったりするのです。ですから、最初からたくさんの論文を集める必要はありません。

この作業における所要期間の目安は1日から1週間程度でしょうか。もちろん、どのくらい研究時間を確保できるかによって左右されますので、あくまで目安としてお考えください。
この作業が終わったら、次はいよいよ重要な作業のひとつ、レファレンスまとめです。


1-2 レファレンスまとめ

レファレンスまとめとは、1-1で集めたレファレンスを読み、重要そうな部分や使えそうな言い回しを抜き出して、まとめておく作業です。
非常に地味で、クリエイティブではない作業です。論文を書くということに直接結び付かないので、一見無駄な作業のように見えるのですが、ここが大事です。私も過去に書いた全ての論文で必ずこの作業をやっていました。それは、極めて地味な作業ではありますが、論文作成において絶大な効果をもたらしてくれるからです。
このレファレンスまとめの作業によって
・論文の構成を理解できる
・レファレンスの理解度が深まる
・論文本文に使える英語表現を得られる
・考察を組み立てる材料が得られる

といったメリットがあります。
これらは、論文を書き進めるにあたり、必要不可欠な要素です。

では、具体的にレファレンスまとめの方法を紹介します。
まずは下の図をご覧ください。

図は私が実際に作成したレファレンスまとめのword文書です。
太字はレファレンスのタイトルです。必要と思われるレファレンスの本文をそのままコピペしています。このときに必ず文章末尾のレファレンス番号までコピペしましょう。図の文末の2や16-23が元の論文で引用されていたレファレンス番号です。この番号まで記録しておかないと、最終的にどの論文を引用すべきかわからなくなってしまいます。
さらに、コピペした英語の下に簡単な日本語訳をつけておきましょう。日本語を書いておくことで、パッと見でなんの話か瞬時に理解できるからです。


このレファレンスまとめの作業は主に2つの手順から成ります。ここからはその手順を紹介していきます。

レファレンスまとめ① レファレンスを読む

もちろん英文を自力で読んでも構いません。構いませんが、よほど英語が得意でない限り途中で挫折します。レファレンスを読む上で重要なのが、自分の研究や論文に利用できそうな部分を探すことです。そして何よりも、「自分の論文を書くこと」が最終目標です。英語の論文を一字一句理解する必要はないのです。

ですから、できるだけ「読む」負担は小さくしたいのです。
そこで英文を読むときはDeep Lなどの翻訳ツールを活用しましょう。
私はDeepLを愛用していますが、レファレンスを読む際は無料版で十分です。
ブラウザ版よりもアプリ版が便利なので推奨です。アプリ版をダウンロードしておけば本文をドラッグした状態で 「control + c + c」の順に押せば翻訳をしてくれるからです。

そして本文を読み進めながら、次の②の作業を並行してやっていきます。

レファレンスまとめ② 必要な文章をコピペする

①のレファレンスを読む作業で、拾い上げた文章を別のwordファイルにコピペしていきます。このとき、Introduction (イントロ)、Materials and Methods (マテメソ)、Results (リザルト)、Discussion (ディスカッション)の4つに文書を分けて作成します。

それぞれのセクションごとに英文をコピペして簡単な日本語訳をつけましょう。日本語訳もDeepLの翻訳からコピペしてもいいですが、文章が長くななると一覧性が低下し発見しにくくなります。
イントロの文書には、イントロのコピペだけにします。マテメソにはマテメソのコピペだけ。以下同様に繰り返します。
この作業を集めたレファレンス全てで行います。
レファレンス集めを5本までとした理由はここです。レファレンスが多すぎると作業量が非常に大きくなります。もう1つの問題点は、レファレンスまとめの作業は非常につまらない、ということです。大事な作業なのですがつまらない、それを理解した上で淡々と作業を進めましょう。

そして、いざまとめ作業を始めると、はじめは全部重要な文章じゃん!と思うかもしれません。場合によってはほとんどの文章を抜き出すこともあります。それで全く構いません。普段流して読んでいると気づきませんが、論文を書くことを念頭において論文を眺めると、既に発表された論文というのは本当に重要な文章だらけなんです。すでに掲載されている論文ほど私たちにとって役立つものはありません。まさに宝の山です。

1本目のまとめが終わって2本目に入ると気づくことがあるはずです。あれ?結構同じようなこと言ってない?と。それを3本、4本とまとめ作業を繰り返すことで、論文の構成がだんだん見えてくるようになります。これは論文執筆にあたって非常に重要な収穫です。

このレファレンスまとめの作業が完了すると、みなさんが自身の論文を作るときに超役立つ最強のイントロ集、マテメソ集、リザルト集、ディスカッション集が完成します。さらには論文の基本的な構成についても理解するようになります。
これらは、実際に論文を執筆するにあたって、みなさんを助けてくれる強力な援軍になってくれるのです。

このレファレンスまとめ作業の所要期間の目安は1-3か月程度でしょうか。ここはじっくり時間をかけても構いません。一見進んでいないように見えてしまいますが大丈夫です。必ず論文執筆の下積みになっています。ですから少しずつで構わないのでレファレンスまとめの作業を進めてください。
レファレンスまとめが完了したら、ついに本文の執筆です。

1-3.日本語で本文作成

原則

英語で書くことを推奨しているケースもまま見られます。が、私は絶対に日本語作成を勧めます!その理由は主に2点です。1つは母国語でなければ理論的な思考は不可能であることもう1つはあとで何度も見返すときに便利だということです。
論文なので論理的に書かなければなりません。自分のネイティブでない言語でものごとを考えられますか?論理的思考をするのには使い慣れた母国語が必須です。
そして論文を書く作業は1日では終わりませんから、数日後や数週後、あるいは数か月後に渡って何度も何度も見返す必要があります。「あの項目はどこに書いてあったっけ??」というのをアルファベットの羅列から見つけるのは大変です。しかし日本語文ならすぐ探せます。
また恐ろしいことに、時間が経つと英語で書いた文章は自分が書いたはずなのに意味がわからなくなります。「これ何の話だっけ?」と考えるのは時間の無駄です。
ですから、本文を書くときは必ず日本語(母国語)で書くべきです。日本語ができたあとに、ゆっくり英語にすればいいんですよ。ですから、まずは日本語で文書を組み立てていきましょう。

ただし!日本語で論文を投稿するわけではありません。
日本語はシンプルに!
主語と述語をきちんと明示しましょう!
専門用語は日本語本文内でも英語で表記!

イメージは英語論文を日本語に翻訳したような文章です。これによって後に英文化するときに、適切な翻訳結果を得やすくなります。

また、日本語で本文を作成している時点でレファレンスも管理しておきましょう。
私はwordを利用して、本文とは別の文書で管理していますが、Mendeleyという文献管理ツールを使うと、よりスマートにできるそうですよ。私は利用したことがないので、申し訳ないのですが、ここは案内できません。

理想的には本文を書き始める前に、大まかな論文のストーリーや骨組みをノートなどに書いておくと、方向性を見失わず論文作成が進められるので有用です。しかし、私もそうでしたが、初学者に論文の骨組みを作るのはなかなか難しいことも事実です。
とはいえ、これまでのレファレンスまとめの作業によって、少しずつ論文の骨組みが見えてきているかもしれません。間違っていても構わないので、まずは目指すべき道をはっきりさせるために大まかな骨組みを立てましょう。本文を書いているうちに修正点が明らかになることがあります。そのときに必要に応じて骨組みを修正しながら書き進めればよいのです。

汚くてすごく恥ずかしいのですが、一例として私の研究ノートを載せておきます。

「四肢の軟部組織腫瘍(STS)を重粒子線治療(CIRT)で治療した成績」について執筆前に考えた論文の骨組みです。自分さえ分かれば良いので、読めないとは思いますが。このように骨組みが決まると、のちの論文作成の作業は極めて楽になり、方向性を見失わずに済むのです。


では、ここから先はいよいよ具体的な本文の記述方法について考えていきましょう。


1-3-1 イントロ Introduction

極端な話、イントロは他の論文の寄せ集めで成立します。ほとんど全ての文章にレファレンスがつく、といっても言い過ぎではありません。ですから、先にレファレンスまとめで作成したイントロ集が猛威をふるいます。

イントロの基本の流れは『はじめに広い話題→だんだん話題を絞って自分の研究に寄せる』です。

例えば前立腺癌の放射線治療のひとつである重粒子線治療に関する論文を書こうとします。そうするとイントロは、次の3段落くらいになります。

1段落目:病気や治療一般の話。
例)前立腺癌は男性で○番目に多い(引用)。前立腺癌の治療は〇〇だ(引用)。放射線治療は良好な成績が報告されている(引用)。最近の放射線治療では・・・(引用)
のように、レファレンスをつなぎ合わせて、だんだん自分の研究内容に話題を寄せていきます。

2段落目:自分の研究内容に寄せて、これまでに分かっていることと、まだ分かっていないことについて言及する。
例)近年の放射線治療では・・・(引用)と言われている。だが〇〇についての研究は少なく、検討が不十分だ(引用)。
このように、わかっていることについて述べたうえで、わかっていないこと(=今回の研究で明らかにしたいこと)を明確にすることが重要です。

3段落目:だからそのわからないことを研究した、と目的を述べる。
例)そこで今回我々は〇〇について研究した。〇〇を明らかにした。

注意点はイントロで詳しく文献の内容を述べていくと、後半のディスカッションでネタ切れあるいは重複を起こします。内容の重複はスマートではないので、できるだけ避けましょう。
そのため、イントロでは具体的な数値などには言及せず、総論的な内容のほうが望ましいと考えられます。それでも具体性を持たせたい場合には〇〇の5年生存率は〇〇-〇〇%だ(引用複数)のように記載しておけば、のちのディスカッションで個別に言及できます。
いずれにせよイントロはさらりとしていたほうが読みやすく好印象ですよ。


1-3-2.マテメソ Materials and methods

マテメソの各段落の構成要素は次のとおりです。
1段落目:研究対象、倫理
2段落目:治療方法、実験方法
3段落目:事象の判定やその判定方法
4段落目:統計学的な解析方法

このくらいが必要な部分です。

マテメソのセクションは定型的な文章が多いです。
したがって、先に作成したレファレンスまとめが、ここで非常に役に立ちます。レファレンスとして選択した先行研究のマテメソは、皆さんの研究と類似するところも多いはずですよ。
それを参考にしつつ、マテメソを書いていきましょう。

以下、各段落について解説を加えます。
1段落目:研究対象、倫理
どういう人やモノを研究の対象にしたか明記する。倫理的な配慮が必要な場合もこの段落で明記しましょう。倫理についての記載はほとんどの研究で必要なので、院内の倫理審査は必ず事前に通しましょう。
倫理コメントは投稿する雑誌によっては別の独立したセクションに記載することを要求されます。それは投稿先を選定後に調整すれば構いません。

2段落目:治療方法、実験方法
何かの治療による影響を観察するなら、治療内容の詳細を示します。実験ならば実験方法を明示しましょう。
ポイントは再現性です。
同じ研究をやろうとした人が、この部分を読んだときに同じ研究を再現できるか、を念頭に詳しく書く必要があります。

3段落目:事象の判定や、その判定方法
どういう結果や事象を比べたか、そして結果の判定方法や比較の方法を述べます。たとえば、再発ならば、再発の定義やその判定方法を明らかにしましょう。その場合、最初までの期間を計算することになりますが、「いつから」期間を計算したかも明記します。(例 治療開始日から起算した など)

4段落目:統計学的な解析方法
統計はつまづきやすいポイントのひとつです。しかし統計についてもレファレンスまとめにヒントがあります。つまり、先行研究とだいたい同じような統計解析を使用することになるはずです。統計についてどの解析方法を使用すべきかは指導医と相談しましょう。
どの統計解析方法を使用すべきかわからない場合は、推奨されるべきは統計の勉強です。ただし統計の勉強はやってみるとわかりますが結構大変なので、似たような研究デザインの先行論文の統計解析方法を流用するのは十分可能です。


1-3-3.リザルト Results

ここも簡単なセクションのひとつ。
マテメソが用意できた時点で、リザルトの順番が決まります。すなわち、マテメソに対応する順に、自分の研究結果の結果を淡々と書き連ねるだけです。
書き方はレファレンスまとめがここでも非常に役立ちます。定型文が多くなるセクションなので、他の論文を参考に、数値を自分の研究結果に置き換えるだけでも成立します。

リザルトの段落は研究デザインによって様々です。
例えば後ろ向きの臨床研究では以下の構成になることが多いです。
1段落目:患者背景
2段落目:治療効果
3段落目:有害事象

これは非常に大雑把な括りですから、ご自身の研究内容によって適宜調整してください。そして、これらのリザルトの各段落に、この論文の肝であるTableやFigureが適宜挿入されることになります。

リザルトのセクションでは結果の解釈は絶対に記載しないでください。
研究で得られた数値や、統計学的解析の結果のみを記載します。書くのは事実だけです。結果の解釈は後のディスカッションで議論すればよいのです。


1-3-4.ディスカッション Discussion

いよいよ最後のセクションです。同時に最後にして最もつまづきやすい部分でもあります。しかし、ディスカッションの構成を理解すれば難しく考える必要はありません。早速見ていきましょう。

ディスカッションの基本構成は以下の通りです。
1段落目:結果のまとめ
2段落目から5段目くらい:諸家の研究との比較
6段目くらい:Limitation

以下、解説していきます。

1段落目:結果のまとめ
自分の研究でわかったことを簡単にまとめましょう。3-4文くらいで十分です。もし先行研究があまりない分野なら、「我々の知りうる限り、〇〇に関する研究は世界で初めてだ」と述べていいです。
新規性をアピールするためには有効な文言ですから、私は結構言い切ってしまうことが多いです。だって私の知る限り、なのですから。投稿した後の査読で修正指示があったら修正すればいいのです。

2-5段落目くらい:諸家の研究との比較
ここでもレファレンスまとめが活躍します。先行研究でどういう結果が出ているのか詳細に述べます。それらの結果と、自分の研究の結果はどこが同じか。あるいは、どこ違うのか、その要因はどこにあると推測されるのか、を中心に書きましょう。ですから、リザルトで述べてきた順にディスカッションを組み立てていけばよいのです。
そして言いたいこと別に段落を分けましょう。1つの段落に1つのテーマと考えてください。イメージは、ここまで自分の研究テーマに絞ってきたことを、他の研究ではこう言ってるよ、と話題を広げていく感じです。
例えば臨床論文なら、治療方法について議論する段落、治療成績について議論する段落、有害事象について議論する段落などが大きい分類にはなりますが、内容によっては大きい分類をさらに分けて論じましょう。例えば有害事象なら、ある有害事象について1段落、別の有害事象について別の1段落、のように分けます。その段落ごとのテーマを明確にしながら、過去の文献と比較して自分の研究について述べるのです。


6段落目くらい:リミテーション Limitation
リミテーション。研究の限界です。
ここまではわかったけど、この研究には限界があるよ、ということを述べます。と言われても難しいですよね?私もよく悩みます。
定型的には以下の文言で始めます。「この研究にはいくつかのリミテーションがある。それは〇〇、〇〇、〇〇だ」。その上でそれぞれのリミテーションについて一言述べる。それだけでも十分論文として体裁を保てます。
具体的な内容は、それぞれの研究内容に左右されるので説明が難しいのですが、私がよく使っていたリミテーションは「単施設の研究、うしろ向きの研究であること、対象患者数が十分でない、観察期間が十分でない、治療方法が一様でない」などの記載が含まれることが多いです。
そして決め台詞の「今後も症例の集積(あるいは長期の観察など)を要する。」などの文章を最後に記載して、今後の課題を記しましょう。


1-3-5. 結論 Conclusion

結論です。雑誌によっては結論のセクションがないこともあります。その場合はディスカッションの最後に書きましょう。

ここまでの内容を3文くらいでまとめます。
3つの文の構成は①調べたこと ②わかったこと ③課題くらいなものです。学会の抄録の締め文と似ていますね。ですからここは簡単にまとめましょう。


長くなりましたが、これで本文は完成です。
全体の分量としては、本文のみでWordで通常の余白、フォント10.5で書いたときに、120行から多くて200行くらいになるでしょうか。ひとつの目安にしてください。
さて、この段階で指導医に論文を見せるかどうかは、一考の余地があります。日本語で論文を書くことに否定的な意見 を持っている可能性があるからです。ただし修正するときにも、日本語で修正した方が圧倒的に楽で、質も担保できますから、この時点で指導を受けたほうがいいと思います。「私は英語が得意ではないので、頭を整理するために日本語で書きました。先生と論文の構成を詰めてから英語にします。」などと説明すれば通常は大丈夫だと思いますが。
なお、私の個人的な経験から言えば、指導のときには日本語で先に見せてもらうほうが圧倒的に楽なので好きです。


所要期間は3-6か月程度でしょうか。ここが「論文を書く」ことの最も大きな作業なので、じっくり取り組んでください。


1-4.英文化

もうここまでくれば怖いものはありません。
作った日本語本文をDeepLに放り込んで英語にしてもらいましょう。翻訳作業はChatGPTでも可能かもしれません。
DeepLの翻訳の精度について検討した"Validation of the Reliability of Machine Translation for a Medical Article From Japanese to English Using DeepL Translator"という有名な論文があります。
すみません。調子に乗りました。私の論文です。有名ではありません。
ただ、検証した結果では、医学論文において日本語を英語化するツールとしてDeepLは非常に優秀だといえそうです。
この研究で明らかになった、よりよい翻訳をしてもらうための日本語論文のコツが簡潔な文章で書くこと、主語と述語を明確にすること、専門用語は日本語本文内でも英語で書くことだったので、この章の冒頭で紹介させて頂きました。

さて、とりあえずDeepLに英語にしてもらったら、1度は英文を自分で読んでみましょう。通常は問題ありませんが、意味が変わってしまっていることがあります。その場合は、再度DeepLに翻訳しなおしてもらいましょう。

そうして完成した英語の論文は、正しい英語になっているのでしょうか?文法的には問題ないのでしょうか?
私のような英語ネイティブではない人間には判定できません。自信がなければ、仕方ないので英文校正サービスを利用することになります。ただし英文校正は有料です。文章の量や納期によって料金は異なりますが、校正費用は5万円前後と考えておきましょう。ちなみに私はEnagoという校正会社を利用しています。
費用について、大学院であれば、研究費があるはずなので指導医と相談してください。市中病院も補助があるかもしれないので、まずは総務課などに尋ねましょう。
そして、実際に英文校正を受けるときは、カバーレター Cover Letterを作ってもえるオプションの加入を検討しましょう。カバーレターとは投稿するときに雑誌の編集者に宛てる手紙です。若干面倒です。ですからお金で解決することを勧めます。私は自分でカバーレターを書いたことはありません。
なお、校正後の文書も必ず内容を確認しましょう。たまに意味が変わってしまっていることがあります。その場合は再校正を依頼しましょう。

英文校正を利用しない(できない)場合はGrammarlyを利用しましょう。有料サービスが好ましいようですが、私はGrammarlyを使っても最終的には校正をかけていたので、どの程度の質が担保されているかはわかりません。


以上の作業で、英語の論文ができあがりました。
英文化はすごく簡単な作業です。本当に素晴らしい時代になりましたね。

所要期間はDeep Lに翻訳させて、英文校正を依頼するだけなので、1週間から1か月程度あれば十分です。



つづく。
*文字数カウント
①1800字。
②10000字。


書いてみた感想

本にしようと思ったら意外と改変が多くて大変でした。
ですが、これで言いたいことを出し切れました。
あとは他の要素を適宜書き連ねていきます。


読んで頂いて誠にありがとうございました。
ご意見やご質問を頂けたら是非お願い致します。

髙草木

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