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Sebastian Raza (2024)「社会学的研究における現象学の利用について」

Raza, Sebastian, 2024, “On the Uses of Phenomenology in Sociological Research: A Typology, some Criticisms and a Plea,” Journal for the Theory of Social Behaviour, 54(2): 185-215. https://doi.org/10.1111/jtsb.12415

この論文では、社会学において現象学がどのように利用されているか、どのように利用されるべきかについて検討されている。現象学を「思考のスタイル」(p. 188)として捉える著者は、本論文において現象学の4つの利用方法を検討している。すなわち、(1)経験的研究のデザイン、(2)経験的結果のクロスバリデーション、(3)理論構築、(4)概念の修正である(p. 188)。著者Sebastian Razaは、これらに関して現象学をどのように利用するべきか、どのように利用すべきでないかについて論じている。

(1)質的研究

質的研究における現象学の利用に関して、著者は「飽和(saturation)」と「インスピレーション」を対比している。現象学の「飽和的な利用」とは、現象学をある手続きの正当化に使うこと(例えばデータの収集や分析において「この研究は現象学的な括弧入れをしている」などと言うこと)である(p. 189)。これに対して著者は現象学を、インスピレーションを与える「建築術的な原理」として捉えるよう主張する(p. 189)。現象学をインスピレーションとして利用している論者としては、ハロルド・ガーフィンケルとイド・タヴォリー(Iddo Tavory)が挙げられている。特にタヴォリーのアブダクティブ分析は現象学とプラグマティズムにシナジーを起こすものとして評価されている(p. 191)。

(2)学際的なクロスバリデーション

著者は近年の認知社会学(cognitive sociology)の展開に触れつつ、認知科学と社会学の関係および認知科学と現象学の関係について論じている。著者は「社会学の(社会)心理学および(神経)認知科学への過剰同化」(p. 196)に否定的である。むしろ著者は認知科学および社会学理論に対する現象学の相対的自律性の重要性を主張する(p. 197)。

(3)理論構築

理論構築における現象学の利用に関して、著者は2つのアプローチを対比している。1つは現象学によって「抽象的な対象としての『社会的なもの』」を問うアプローチであり、もう1つは具体的な社会現象の解明のために現象学を利用するアプローチである(p. 200)。著者が重視するのは後者であり、これを著者は「中範囲の理論」と呼んでいる(ただしマートン的な意味ではなく、あくまでも抽象的な主題を設定する「グランドセオリー」との対比においてこの言葉が使われている(p. 202)。具体的な社会現象の解明のために現象学を利用した研究としては、ハンス・ヨアスのThe power of the sacredやハルトムート・ローザのResonanceが挙げられている。

(4)概念の修正

概念の修正のために現象学を利用する研究も「既存の理論的枠組みの限界やアポリア」(p. 204)から出発する。しかし、それが生産的なものになるためには、ブルデューのように現象学を「より大きな枠組みに組み込む」(p. 208)のではない仕方で、現象学を利用せねばならない。それに成功している研究として、筆者は再びタヴォリーに言及している。タヴォリーの研究は、「なじみのある問題や対象をなじみのない仕方で見る」ことで「さらなる経験的研究や理論的分析」を要求するような概念修正を行っているという。タヴォリーのほかにはフランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』が挙げられている。

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