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岩政監督の「4-4-2回帰」の先に未来はないのか?

2023明治安田生命J1リーグ 第11節の札幌戦は、苦しみながらも優磨の4戦連続ゴールを守り抜き1-0勝利。これで岩政アントラーズは3連勝となり、順位も8位まで上げてきた。

上向く調子を喜ぶサポーターがいる一方、「4-4-2に回帰するなら大岩・ザーゴ・相馬・レネでもよかったじゃないか、このサッカーを続けても未来がない」というコメントもちらほら見るが、個人的にはそうは思わない。

スタートポジションの形こそ同じ「4-4-2」かもしれないが、「それしかできない」のと「それを選んでやる」のには大きな差があるからだ。

大岩体制(2017-2019)

大岩体制は一つの時代の終焉だった。それは、献身的に走れるメンタリティ、球際で戦えるフィジカル、局面で上回れるテクニックなど、総合的な能力値の高い選手たちを集め、そのレーダーチャートの広さによる対応力とオールラウンドさで戦う「古き強きアントラーズ」の時代。

そのやり方であれば、能力の高い順に11人をスタメンに並べ、その能力の発揮を邪魔しないオーソドックスな4-4-2の布陣を敷くのは、最も勝率を高める妥当な戦い方である。

しかし、センシング技術とデータ分析技術が向上したモダンフットボールでは、単なる質での殴り合いでは簡単には勝てなくなってしまった。

2020年元旦の天皇杯決勝神戸戦のように、自分たちの戦い方がはまらなかったとき打つ手のなさ(交代選手が運良く当たることを祈るか、「ギアを上げる」か)からくる無力感は忘れられない。

鹿島がこの潮流に乗り遅れたのはこれまでのやり方がうまくいってしまっていたが故ではあるが、大きな転換を迫られたのは間違いない。

ザーゴ体制(2020−2021)

翌2020シーズン、「リフォームではなく建て替え」を掲げた強化部が招聘したのが、ブラジルでレッドブルグループのブラガンチーノを優勝、セリエA昇格に導いたアントニオ・カルロス・ザーゴ監督。

そのサッカーは、攻撃時は最終ラインからビルドアップし、奪われたらストーミング風味のハイプレスから即時奪還してカウンターを狙う、言わば「ずっと俺のターン」を理想とするもの。

初年度はルーキーの荒木遼太郎や新加入のエヴェラウドらの活躍もあり5位とまずまずの成績を納めるものの、ハイプレスをかわされてはあっさりと失点し、取り返そうと一か八かのファイヤーフォーメーションでさらに自滅するワンパターンから抜け出せず、翌2021シーズンに8試合を戦って解任となった。

相馬体制(2021)

ザーゴの後を引き継いだのがコーチから昇格した相馬監督。目の前のミッションは15位まで落ち込んだチームをまずは立て直すことであり、現実的に勝点を拾える戦い方にシフトしていく。

ザーゴの即時奪還のコンセプトは引き継ぎつつも、ハイプレスはやめて片サイド圧縮陣形で局所数的優位を狙う形にアレンジ。一時は小泉慶をトップ下に置く4-2-3-1も見せたがあくまでオプションの域を出ず、手堅く勝点を積み上げて最終的には4位でシーズンを終えた。

しかし、最終戦後の挨拶でキャプテン三竿健斗に「初歩的なことだけを追求してもタイトルを取り続けられるチームにはなれない」と言われたように、「建て替え」は一時後退。リリーフの役目を果たした相馬監督は2021年シーズン限りで退任した。

レネ・ヴァイラー体制(2022)

これでリーグタイトルは2016年を最後に5年間、2018年のACLを入れても3年間無冠が続く鹿島は、フットボールダイレクターを鈴木満から吉岡宗重に交代。「勝者のメンタリティー」の希薄化に歯止めをかけるべく、アンデルレヒトやアル・アハリを優勝に導いた経験のあるレネ・ヴァイラーをヨーロッパから招聘する。

レネに託されたミッションは、まずはタイトル。しかし、モダンフットボールの最前線であるヨーロッパでの指導経験を評価していることや、理論派で知られるレジェンドOBの岩政大樹をコーチに据えたことからも、あくまでも「勝ちながら建て替える」ことを狙っていたのは想像に難くない。

コロナ禍による入国制限で指揮が出遅れたものの、ベルギーから復帰した鈴木優磨と日本代表上田綺世の強力2トップを軸に、インテンシティーの高い縦に早いサッカーを展開。一時は首位に立ったものの、夏に上田綺世を海外移籍で欠くと暗転。CBやCFの層の薄さなど歪なスカッド編成のエクスキューズもあるが、強度低下をゴールで補えなくなったチームは形を見失ってしまう。順位こそ4位に付けていたものの、5戦未勝利となったタイミングで「総合的に判断の上」解任(契約解除)となった。

岩政体制(2022−2023)

そしてコーチから昇格し、新人監督としていきなりJ1鹿島の監督を務めることになったのが岩政監督。
レネから引き継いだ2022シーズンの後半は、リーグ戦でトライアルを重ねながら一発勝負の天皇杯でタイトルを狙うも、準決勝でまさかのJ2甲府に敗戦。

懸案だったCBに植田直通と昌子源が復帰、他にも知念慶、藤井智也、佐野海舟らポイントに実力者を加え、「常勝の看板を降ろし、新しい鹿島をつくる」と腹を据えた2023シーズンは、キャンプから4-3-3の布陣に取り組むが、プレシーズンマッチではJ2相手に全くと言っていいほど勝てず。

類稀なるボール回収能力を持つ佐野をアンカーに据え、ポイントを作れる知念を左、単騎突破できる藤井を右、真ん中に優磨を配した3トップに素早く当てる形にチューニングし、開幕戦こそ京都に2-0で勝利するも、ルヴァン杯GS柏戦からリーグ広島戦まで公式戦5戦未勝利、リーグに限っては横浜FM戦から神戸戦まで4連敗、続くルヴァン福岡戦も落としドン底に沈む。

「変幻自在の戦いで全局面を支配する」ことを目指す岩政監督は、攻撃時にポジションを流動的に変える前提から逆算した初期配置をしているように見える。それは裏を返せばスタートポジションが歪だとも言え、被カウンター時のバランスの悪さは諸刃の剣。
開幕戦のように「あえて」ロングボールを使うなら良いが、この時は結果が出ずに自信を失い、数少ない成功体験であるロングボールしか選べずに自らボールを失って首を絞めてしまっていた。

神戸に1-5と大敗し、「逆に吹っ切れた」岩政監督はリーグ新潟戦から布陣を4-4-2に変更。優磨をゴール前で本領発揮させる相棒として垣田裕暉との2トップを形成し、運動量と連動性を兼ね備える仲間隼斗と名古新太郎を両SHに、CBには楔のパスを差し込める関川郁万を据える。
守備で立ち戻る場所ができた鹿島はここから3連勝を果たした。

この先に未来はないのか?

4-4-2のブロックで中央を締め、ミドルプレスから連携でカウンターを繰り出す戦い方は、そこだけを見ればそれこそ大岩監督や相馬監督時代に逆戻りしたように見えるかもしれない。

それでも、「それしかできなかった」過去と、試行錯誤を経て「それを選んでやっている」今には、大きな差がある。

これまでは、志向する「プランA」のサッカーが行き詰まった時、メンバーを入れ替えるか、「プランA」の強度自体を上げるアプローチしかできなかった。それで打破できずに「プランA」に自信を持てなくなると、チーム自体に白けた空気が流れ、監督交代でスクラップ&ビルドせざるを得なくなるという繰り返しだった。

しかし、岩政監督は「新しい鹿島をつくる」として「プランB」から始めることができた。そのチャレンジは途中で壁にはぶつかったものの、様々なトライアルを経た上で選び直した「プランA」は、それしか選択肢がなかったときとは納得感が違う。なぜBでは駄目でAを使うのかを腹落ちした状態で戦えば、それだけプレー判断も早く正確になる。

加えて、「プランB」もまだ捨てたわけではないはずだ。逆もまた然りで、Aの理解が深まれば深まるほど、その差としてBの利点も腹落ちする。そうやって、後出しジャンケンできるオプションをひとつずつ積み重ねていけば、その結果として「全局面を支配する変幻自在な戦い」が実現されるだろう。

これは前任者たちと比べて岩政監督が特段優れていると言いたいわけではない。その時々の状況やプライオリティの結果、前任者たちには「プランB」から始める猶予がなく、岩政監督にはたまたまそのチャンスとタイミングが巡って来ただけかもしれない。少なくとも、岩政監督より能力も経験も上の監督は山ほどいるだろう。

それでも、「就任=クビへのカウントダウン」であるプロの監督業で、自分のキャリアに傷が付くリスクを負ってまで鹿島の積年の課題解消に取り組んでくれる監督は岩政監督の他にそうそういない。

岩政監督が、このやっと見えてきた光の先に「新しい鹿島」とタイトルを見せてくれることを祈っている。

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