#会社員でよかったこと

 私は会社員になったことはありません。公立高校の教員でした。そして、いわゆる進学校に勤めていたこともあるのですが、自分の経験も含めて今の大学進学にものすごい抵抗があり「高校は大学進学のために勉強する場ではなく、自分は何ができるのか・したいのかを考える所であるべきだ」と教頭に言ったことがありますが、教頭から「阿呆か、そんなことしとったら受かる大学も受からんわ」と怒鳴られて「阿呆教員」と名付けられました。そしてわずか5年で工業高校に左遷されました。
 しかし、私は中学3年生の進路相談で第一志望を工業高校としていたのですが、家からの通学が困難との理由で普通科に進学して大学の工学部に行った方が良いと言われました。そして高校で勉強している内に工学部よりも理学部物理学科の方が良いと思い進学して教員になった経緯がありましたので、いわゆる左遷でも嬉しかったのでここで16年間お世話になりました。
 そして最後の4年間は進路指導に携わりました。ちょうどリーマンショックが起こったときで、それまでの指導主事はまだ在任中なのに指導主事を辞めると学校側に伝えたため私にお鉢が回ってきたのです。工業高校で就職希望の全生徒が就職できない事態になれば、生徒数減少も考えれば、学校存続も危うくなります。進路開拓にあける毎日が続きましたが、会社訪問・企業人との会話を続けているうちに気がついたことがたくさんありました。
 例えば会社訪問をすれば、求人があるときには必ず求人票を本校にも渡してくれることでした。最初は生徒数の三分の一くらいしか求人票が来ないし、企業は他の高校にも求人しているとのことでした。採用されるか否かは本人・各科の責任もありますが、採用試験を受けることができないのは私の責任です。景気の良いときは大企業に生徒が集中していたのですが、こんな時には地場産業にお願いに行くと多数の求人票が届きました。親の見栄もあってか、就職せずに専門学校に行く生徒も増えたおかげで在任4年間は希望生徒全員が就職できました。
 ここで保護者に言われたことは「工業高に行ってこんなとこしか就職できんのか」でした。しかし会社訪問をして分かったことは、今残っている企業は規模の大小に関わりなく社会に必要な技術を持っていると言うことです。
 また就職できても短期間で止める生徒が多いことでした。生徒の意識としては会社に時間を売り、その代償として給料をもらう。保護者は少しでも有名・大規模企業に子どもを就職させたいでした。この両方の意識を変えたいと思いました。
 生徒には「就職するということは、時間を金で売ることではないんやで。企業の持っている技術を教えてもらえる上にお金までくれるんやで。勤めた企業の全ての技術を習得して、金さえあればこの会社を自分で作れると思たら辞めてもええで」と言い、保護者には「会社の規模は社員の努力でどうにでもなります。今あるどの企業にも社会に必要な技術を持っているから生き残っているのです。その技術をしっかり身につけたら一生安泰です。そして勤めていた企業が倒産しても、取引のあった大企業から引き抜かれて大企業の社員になった卒業生もいます」と伝えました。私も最初からこのように言っていたわけではないので、時間切れで保護者・生徒に浸透することなく転勤になったことが悔やまれます。

#会社員でよかったこと

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