見出し画像

【リーダーシップ】リーダーシップの効果は、上司と部下の「社会的距離」に影響を受ける?(Cole et al., 2009)

前回に引き続き、リーダーシップの波及効果に関するメカニズムを深堀していきたいと思います。今回は上司と部下の「社会的距離」の影響を扱います。

Cole, M. S., Bruch, H., & Shamir, B. (2009). Social distance as a moderator of the effects of transformational leadership: Both neutralizer and enhancer. Human Relations, 62(11), 1697-1733.


どんな論文?

本研究は、上級管理者の変革型リーダーシップとフォロワー(部下)の成果との関係に対する社会的距離(階層的距離)が影響する方向と強さに関する実証的な知見を得ることを目的としたものです。

ヨーロッパのある企業における調査の結果、社会的距離が、リーダーの変革型リーダーシップ行動とフォロワーの模倣行動との関係を調整することを示しました。具体的な調整効果は以下の通りです。

  • 社会的距離が近い場合、フォロワーはリーダーの行動を模倣する傾向が強くなる

  • 社会的距離が遠い場合、フォロワーはリーダーの行動を模倣する傾向は弱まる一方で、リーダーの行動がフォロワーの感情的な雰囲気や集合的効力感に強い影響を与えることが明らかになりました。

※感情的な雰囲気(emotional climate)とは、職場における感情反応を示したもので、本研究では、「興奮している」、「熱心である」、「怒っている」、といった30の項目で構成された設問の平均値が用いられています。

※集合的効力感(collective efficacy belief)とは、フォロワーが所属する仕事ユニットのメンバーがタスクを成功裏に遂行できるという信念と定義されています。

すごく簡単にまとめると、

リーダーと近い場合:部下はリーダーの行動を真似しやすくなり、部下の変革型リーダーシップ行動の度合いが高まる

リーダーと遠い場合:部下がリーダーの行動を真似することは少なくなるが、リーダーが部下に与える「気分の良さ」や「自分たちもできる!」という気持ちが強くなる

これは、社会的距離のあるリーダー、つまり、階層が上のリーダーについては、その存在感やビジョンがフォロワーに影響を与える可能性があることを示唆しています。このため、リーダーはフォロワーに対して一貫したビジョンや目的を伝え続けることが重要、とのこと。


社会的距離とは

ここで、論文における社会的距離について補足を加えます。

社会的距離とは、リーダーとフォロワーの間の地位、階級、権威、社会的地位、および権力の違いを指し、これらがフォロワーとリーダーの間の社会的親密さと社会的接触の程度に影響を与えるものとして、先行研究で紹介されているようです(Antonakis & Atwater, 2002)。

※もう少し広い概念としての社会的距離は、社会学分野で1920年代から論じられているようです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshioroji/46/3/46_3/_pdf/-char/ja

本研究では、組織内の上級管理者と一般従業員との間の階層的距離に焦点を当てて、リーダーとフォロワーの間の階層レベルの差として社会的距離を測定しています。

具体的には、リーダーの階層的地位とフォロワーの階層的地位の違いをもとに社会的距離を評価しました。フォロワーが所属する階層レベルとそのビジネスユニットの最上級管理者との間の階層的な距離を指標とし、これによりリーダーとフォロワー間の社会的距離を評価しています​​。

リーダーとフォロワーの間に大きな社会的距離が存在する場合、フォロワーがリーダーの行動やビジョンに個人的に同一化しにくくなるため、リーダーの影響力が低減することが示されています。

(一時期、「ソーシャル・ディスタンス」(社会的距離)という言葉がはやりましたね、、、もう全然聞かなくなりましたが)


感じたこと

上司と部下の距離が離れていることで、リーダーシップの影響が異なる、というのは、当たり前のように感じられますが、当たり前すぎて明らかにされてこなかったのかもしれません。

特に、変革型リーダーシップの場合は、カリスマ性だとか、理想的影響と呼ばれる特徴を持ち、ビジョンを示してフォロワーの価値観を変化させると言われますが、この特徴は、ミドルマネジメントというよりも、トップマネジメントに近い印象です。(ほかの特徴である、知的刺激や個別配慮はミドルマネジメントに近い)

そのため、社会的距離があっても(むしろ、あることで)強化される影響があったというのは、マネジメントレイヤーによって影響が異なる、という観点での発見として興味深いと感じました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?