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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILの新たな尺度開発に挑戦した論文(Al-Atwi et al.,2021)

久々にIL関連の論文の紹介です。どうしても無料でのアクセスができなかったのですが、あの手この手でなんとかして手に入れることが出来ました。
イラクの学者らによる文献です。

Al-Atwi, A. A., & Al-Hassani, K. K. (2021). Inclusive leadership: scale validation and potential consequences. Leadership & organization development journal, 42(8), 1222-1240.


どんな論文?

この論文は、リーダーが全てのメンバーを尊重し受け入れる「インクルーシブ・リーダーシップ(以下、IL)」の尺度を新たに開発し、その効果を調査したイラクの学者らによるものです。

ILが、メンバーのインクルージョン認識を高める、という理論モデルはRandel et al.(2018)によって整理され、以下のモデルのわかりやすさから多くの研究で参照されています。

Randel et al. (2018) Inclusive Leadership Realizing positive outcomes through belongingness and being valued for uniqueness

ILの研究では、既に多くの定量研究がなされているCarmeli et al.(2010)の尺度が多く使われてきました。本研究は、IL⇒インクルージョンという、Randelらのモデルから、ILの尺度を新たに作成したものです。Randelらの論文については、以下の投稿も参考にしてみてください。


尺度開発プロセス

今回の尺度は、メンバーのインクルージョン認識を高めるIL、というRandelらのモデルを通じた新たな尺度開発に向けて、以下のような過程が踏まれています。

1.専門家パネルの組成
知識と経験を持つ20名の専門家を選定。多様な視点を反映するため、学術界や実務界から専門家によるパネルメンバーが集められた。

2.尺度の生成
専門家パネルが、先行研究レビューを通じて、36の設問を作成。

<Facilitates Belongingness:帰属意識を促進するIL行動:22項目>
グループメンバーを支援する(7項目)
正義と公正さを確保する(7項目)
意思決定を共有する(8項目)

<Values Uniqueness:独自性の発揮に価値を置くIL行動:14項目>
多様な貢献を奨励する(9項目)
グループメンバーが十分に貢献することを支援する(5項目)

3.初期調査の実施
作成された設問項目を使用して、235名と333名の参加者を対象とした2回の調査を実施。これにより、収束的妥当性および弁別的妥当性を確認。

4.データ分析
調査結果を基に、IL尺度の信頼性と妥当性を検証。項目間の相関や因子分析を行い、尺度の構造的整合性を評価、最終的に25項目の設問に収れんされた。

5.最終調査と検証
最終的な尺度を用いて、363名の教職員を対象とした調査を実施。ILが仕事のパフォーマンスに与える影響を検証し、尺度の実証的な妥当性を確立。


補足:ILが仕事のパフォーマンスに与える影響

上のプロセスの5番目に記載されている、仕事のパフォーマンスとは、熟達性(Proficiency)、適応性(Adaptability)、積極性(Proactivity)の3つから構成される要素です(Griffin et al., 2007)。

尺度開発においては、既存の理論から導き出される、多変数との関連性を統計的に検証することで、基準関連妥当性を示すことが求められるようです(Hikakin, 1998)。
今回の研究では、インクルージョンの知覚を通して、以下の図のような関連性が導かれました。


感じたこと

ILの尺度については、代表的なCarmeli et al.(2010)がありますが、その後に発表されたRandelらの理論モデルとは整合しておらず、インクルージョンを高めるリーダーシップ、としての要素としては弱いと指摘されています。

その意味で、本文献が示した新たなILの尺度は重要だと感じます。まだ報告されて日が浅い現段階では、他の実証実験で用いられる度合いは少ないようです。

また、25設問という設問数の多さも気になります。できれば、リサーチを行う側としては、10設問くらいだとありがたいのですが、、、



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