【パーセリング】回答者のバイアスを考慮した「バランス化されたアイテム・パーセリング」とは?(Weijters et al., 2022)
今回は、パーセリングの具体的な一手法に関する主張を論じた文献を紹介します。
どんな論文?
この論文は、アンケートなどで回答者が内容にかかわらず「同意」しやすい傾向(同意バイアス)を補正するための方法としてのパーセリングを提案するものです。
同意バイアスとは、アンケートや調査で質問に対して、内容に関わらず「同意する」傾向が強い回答パターンを指します。
たとえば、同じ意味を持つ2つの質問「私は社交的です」と「私は内向的です(逆アイテム)」があった場合、どちらにも「同意する」と答える人は、実際の性格よりも同意バイアスに影響されている可能性があります。
こうした、逆の意味を持つ質問の両方に「同意」するといった、回答が一貫しない傾向がある場合、実際の性格や態度を正確に測れなくなることが問題となります。
そこで本研究では、「バランス化されたアイテム・パーセリング」という方法を使い、同意バイアスを打ち消すことを提案しています。
具体的には、通常の質問(ポジティブな質問)と逆の質問(ネガティブな質問)を均等に組み合わせてパーセル(複数の質問項目をまとめた指標)を作成することで、通常の質問と逆質問のバイアスが互いに打ち消し合い、正確なデータが得られるとのこと。
この方法は、通常の方法に比べて簡単に同意バイアスを補正できるため、心理学や組織研究など幅広い分野で役立つと主張されています。
バランス化されたアイテム・パーセリングの利点
なぜ、この手法が考えられたかというと、適合度の問題から、逆転項目が使われなくなっている、という筆者らの問題意識があるようです。
ここで登場する「後天性反応」とは、測定されている本来の構成概念以外の要因が、回答に影響を与える現象を指します。
逆項目では、回答者に対して通常の項目とは逆の思考を促すため、回答者に混乱や誤解を与える可能性があります。このような認知負荷の増加により、回答者が一貫性のない応答を示しやすくなり、その結果、方法分散が増加します。
また、逆項目に対する応答は、回答者の回答スタイルや理解力に大きく依存します。これにより、逆項目と通常アイテムで異なるパターンの反応が生じ、結果的に測定データに方法効果を導入してしまうことがあります。
こうした、逆項目による「後天性反応」の影響を排除するために、質問の時点で逆項目を使用しない、という対応が取られることもあるようですが、それでは本末転倒なので、逆項目を使用し、かつバイアスを排除できる仕組みが大事である、というのが本論文の主張です。
バランス化されたアイテム・パーセリングを使える条件
ただし、この方法は使用条件が決まっています。以下が条件です。
①半分(同数)が逆アイテムで構成されていること
②8つ以上の質問項目があること
①については、「バランス化」とあるので、想像に難くありません。つまり、通常アイテムと逆アイテムの2つを組み合わせてパーセル化することで、バランスが取れるので、同数が必要となります。
②については、因子分析を行う際の適合度(モデル識別)の問題が関連します。複数の項目(アイテム)を1つにまとめる際には、4つ以上の項目数がないと、モデルが識別できず、適合度が検出されないという問題が生じます。
8つ以上の項目があると、2項目で1パーセルを作るとすると4パーセルできるので、モデル識別の問題をクリアできる、というわけです。
(とはいえ、3つの因子で1概念を構成するような論文もあります。その場合は、因子負荷量や信頼性などを用いて論じています)
他のパーセリング手法との比較
この論文では、もう一つのパーセリング手法である「Isolated Perceling」と、バランス化されたアイテム・パーセリングの比較を、シミュレーションデータを用いて行っています。
これら2つの方法を比較して因子分析を行い、適合度を調べたところ、バランス化されたアイテム・パーセリングの方がモデルに適合している、という実証結果が示されています。
感じたこと
パーセリングに関する理解が深まってきた一方で、いくつかのパーセリング手法の中で、どのような場合に、どのようにパーセリング手法を選ぶべきか、という文献があまり見当たらないのが悩ましいところです。
その中で、通常アイテムと逆アイテムが同数かつ8個以上のアイテムを用いる場合は、この「バランス化されたアイテム・パーセリング」が使えそう、という示唆が得られたのは収穫でした。逆に、この方法により、回答者の同意バイアスを排除することを念頭に、同数となるように設問設計するという手もあるように思います。