【リーダーシップ】サーバントリーダーを志向するマネジャーが直面する「パラドクス」とは?(鈴木, 2022)
インクルーシブ・リーダーシップと似たような、支援的なリーダーシップとしてサーバント・リーダーシップがあります。今回は、サーバント・リーダーシップを志向するマネジャーが、現場でどのようなパラドクスに直面するかを整理した文献を紹介します。
どんな論文?
この論文は、サーバント・リーダーシップ(SL)と管理職行動論の2つの視点から、マネジャーが日常業務をこなしながら部下を支援する上で直面する葛藤や制約、論点などを整理したものです。
SLとは、自分の利益よりも部下の成長や幸福を優先し、支援と尊重を通じてチーム全体の成功を目指すリーダーシップの形です。
本稿では、以下3つのメカニズムからSLを捉えています。
メカニズム1.他者志向の信念:
SLの核心は、リーダーが自分自身や組織の利益よりも、フォロワー(部下)の自律やウェルビーイングを優先する信念とのこと。この信念に基づき、リーダーは部下の成長や学習を支援し、尊重する行動を選ぶ。
リーダーの他者志向的な信念は、部下との信頼関係を構築し、部下が自分の能力を最大限に発揮できるようにするための基盤となる。
メカニズム2.一対一の相互作用:
SL志向のリーダーは、部下との個別の対話を重視し、一対一の相互作用を通じて部下の望みや状況を深く理解しようとする。この個別対応により、リーダーは部下に対する適切な支援を行い、部下の成長やウェルビーイングを促進する。具体的には1on1ミーティングなどを通じて、リーダーは部下の課題や目標を把握し、具体的な支援策を提供する。(ILにも通ずる)
メカニズム3.向社会的なアイデンティティ:
SL志向のリーダーは、部下の自律や成長だけでなく、彼らが社会や組織に対して積極的に貢献できるように導く。リーダーは、部下が社会的な意義や目的を見出せるようなビジョンを示し、それに共感し納得できるように努めます。これにより、部下は自分の仕事に対する誇りや意欲を持ち、社会的な責任感や貢献意識を持つようになる。
このように、抽象的な概念であるSLを、3つのメカニズムから具体的にとらえることで、より行動レベルでの上司ー部下間の作用を描写しています。
SLと管理者行動論の視点を掛け合わせる
こうした、フォロワー目線のSLですが、一方、マネジャーは多くの役割を持ち、非常に忙しいため、部下を支援する時間の捻出が難しいという課題があります。
そこで、本稿では、SLと管理者行動論を組み合わせ、SLを志向するマネジャーが直面する矛盾や葛藤を明らかにしています。
管理者行動論とは、マネジャーやリーダーが日常業務でどのような行動をとり、どのように時間を使い、どのような人々と関わっているかを詳しく研究する分野です。ざっくりと言えば、管理職の役割や活動の種類、それによる多忙感や意思決定などを捉えるものです。
SLと管理者行動論の知見を重ね合わせて整理した結果、マネジャーがSL志向を持つということは、
部下の支援や向社会性を引き出すSLを取ろうとする一方で、
その広範な役割や多忙な仕事のペース,不確実性に付随する不安,あるいは上司や組織との関係などから
多側面で矛盾や軋轢,葛藤を孕む,極めてパラドキシカルで困難
なことが見えてきました。つまり、現実の組織・職場におけるSLの実践が,様々な制約に直面する大変な過程、ということです。
SL志向マネジャーの直面する「パラドクス」とは?
不確実であいまいで、困難な時代においては、答えを一意的に決められず、白黒つけられない「パラドキシカル」な状況にあふれており、中でも、管理職はそんなパラドックスの中で、リーダーとしての在り方を問われます。
論文タイトルにもある、SL志向のマネジャーが抱える「パラドクス」とは、SLを志向するマネジャーが直面する矛盾や葛藤を指します。
具体的には、以下のようなパラドクスがあります:
時間と手間の矛盾: マネジャーが部下一人ひとりと時間をかけて対話し、支援を行うことは重要ですが、そのための時間を捻出するのは困難。多くの業務や会議、トラブル対応などに追われる中で、部下への丁寧な支援を行う時間を確保するのは難しい。
役割の多様性と集中の矛盾: マネジャーは情報収集、資源配分、対外関係の構築など、多岐にわたる役割をこなさなければならない一方で、SL志向を実践するためには部下のサポートに集中する必要がある。この多様な役割と集中の間でバランスを取ることが求められる。
支援と業績達成の矛盾: SL志向のマネジャーは部下の自律や成長を支援することが重要だが、同時に組織の目標達成や業績向上にも責任を負う。支援と業績の間での優先順位をどのように設定するかが課題となる。
こうした矛盾を明らかにするところまでが本稿の射程で、これらの具体的な乗り越え方は今後の課題、とされています。
感じたこと
リーダーシップ論と、管理者行動論(そのような分野があることを初めて知りました。)を掛け合わせると、現場管理職に適用される、現実的なリーダーシップ理論のために必要なことが見えてくる、そんな気付きが得られる文献でした!
たしかに、研究は一般性・普遍性をもたらすために、多少抽象的になってしまうきらいがあるのですが、管理者の行動特徴を示した学問分野と掛け合わせることで、より現場に即した具体性のある論考になる、というのは学びになりました。
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