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2024年度 野球規則改正①

今回は昨年の12月15日に発表された、2024年度野球規則改正について見ていきたいと思います。

詳しい解説を、と思いましたが、2ヶ月後の後出しジャンケンということもあってか、すでに解説をされている方のブログなどをチェックしていたところ、大変素晴らしい記事を見つけましたのでまずご紹介させていただきます。

こちらは先日もメジャーリーグのルール改正の方でご紹介させていただいた「numの野球・サッカーのルール解説」さんによる解説です。

本塁からバックネットまでの距離とか、タイブレークとか、ピッチクロックとか、いろいろ野球のルールが話題になっていますが、それらが野球規則においてどのようになったのかを解説したいと思います。

なお、当ブログでは、ルール本文を理解することを何よりも大切にしているので、以下、改正内容そのものを引用した上で解説を行っていきます。

「野球規則の改正:2024年度の9項目の変更点を解説」numの野球・サッカーのルール解説より

とあるように、変更を一つひとつ丁寧に解説してありますので、ご一読いただければと思います。私はこれらの変更の中から私の経験を交えて少しでもみなさんのためになる、違った角度からの情報を提供できれば幸いです。


2.01 競技場の設定

(1)2.01を次のように改める。

①第6段落を次のように改める。(下線部を改正)

 本塁からバックストップまでの距離、塁線からファウルグラウンドにあるフェンス、スタンドまたはプレイの妨げになる施設までの距離は、60フィート(18.288メートル)以上を推奨する。

②最終段落の末尾に次を加え、【注】を追加する。

ただし、内野の境目となるグラスラインは、投手板の中心から半径95フィート(28.955メートル)の距離とし、前後各1フィートについては許容される。しかし、投手板の中心から94フィート(28.651メートル)未満や96フィート(29.26メートル)を超える箇所があってはならない。

【注】 我が国では、内野の境目となるグラスラインまでの距離については、適用しない。

③【付記】を削除する。

「2024年度 野球規則改正」日本野球規則委員会

「野球場」と「ボールパーク」

昨年オープンしたエスコンフィールドはもちろんですが、プロ野球で使われている球場では2番目に新しい広島のマツダスタジアムが「従来の“野球場”というより”ボールパーク”化した」、と表現されているのを耳にした方は多いのではないでしょうか。

色々調べてみたところこのような表現に使われる「野球場」とは「杓子定規で作られたもの」。「ボールパーク」とは「最低限のルールは守りつつ、その範疇で違いができるのをよしとするもの」と定義づけられるのではないでしょうか。

野球だけではなかった

「球場のサイズが違うのは不公平だ」と考えるのはもっともな意見です。ただよく調べてみると、サイズの違いがあるのはどうやら野球だけではないようです。

また、こちらに説明されている、「スポーツの原点」を考えると合点がいきます。

野原で競技をしようとすると、どうしても立地条件で制約が出てきます。池や川や道路や壁や農園で広さに制限がでてくる。斜めに傾いている。風や日差しが片方には競技内容によっては不利になる。でも、他の地方で遊ばれていたあの競技をここでもやってみたい!

ということで、野外野原で遊ぶ競技は大まかな広さがあれば良いとするのが全てです。

Quora「野球場の大きさはなぜ一定ではないのですか?」 Gomiさんの回答より

ボストンにあるフェンウェイ・パークはみなさんもご存知の、グリーンモンスターがある球場です。

グリーンモンスター

こちらのブログにあるように、このフェンウェイパークは立地条件の制約により生まれた一風変わった形の球場の一つであり、左翼にある大きなフェンスは距離が近くなってしまったことへの妥協案であった、ということがわかります。あまりテレビで見ていると気づかないものですが、上空写真を見ていただいてもわかるように、実際に球場に行くとその歪さがわかります。ちなみに私が個人的に思う一番歪な球場は昔ニューヨークにあったポロ・グラウンズです。

マイナーリーグの球場でも同様のケースがあります。コネティカット州ハートフォードにあるドンキンパークは右翼までの距離がフェンウェイパークよりもさらに2フィート短い、308フィートとなっています。こちらは右翼には”壁”ではなく、写真のような二層の観客席が用意されています。

ドンキンパークのライトフェンス

単なる壁ではなく二層式になったのは、その分のスペースを観客席に充てることでより多くの観客動員を見込むことが理由でしょう。もちろん一階と二階の間にはネットがあり、ホームランにはならないようになっています。

一階席と二階席の間に張られたネット

この二層式スタンドプランは本来のプランではなく、計画を進めていく中でライト方向の土地の買収がうまくいかなかったか、予算が足りなくなったかで仕方なくライトフェンスを前にしなければならなくなった、というようなことを聞いた覚えがあります。ちなみに、当初右翼フェンスまでの距離として計画されていた333フィートマークがジョークとしてコンコース内の壁にあります。

審判員の観点から見る

審判員という立場では、こういった球場で試合を担当するにあたりまず、グラウンドルールをきっちり把握しなければなりません。そしてグラウンドルールを把握するためにはインプレーでアクションが起こりうる箇所の球場の構造を知っておく必要があります。

例えばドンキンパークで言うと、ライト二階席の細長い電光掲示板の上に黄色い境界線(当たればインプレー)があります。そこに当たってそのままフィールドに戻ってくればインプレー、当たってから後ろの手すりにあたればホームランとなります。

また、私が試合を担当したときはこの”応急処置ネット”にたるみがあり、打球が当たってそのまま返ってこないこともありました。打球が跳ね返ることを知っているかどうかで判定に対する自信は何百倍も変わってきます。

2.03 塁

(2)2.03の最終段落を次のように改め(下線部を改正)、【注】を追加する。

 キャンバスバッグはその中に柔らかい材料を詰めて作り、その大きさは18インチ(45.7センチ)平方、厚さは3インチ(7.6センチ)ないし5インチ(12.7センチ)である。

【注】 我が国では、一塁、二塁、三塁のキャンバスバッグの大きさは15インチ(38.1センチ)平方とする。

「2024年度 野球規則改正」日本野球規則委員会

開幕戦の三塁線ファウル判定

あれは忘れもしない2021年シーズンの開幕戦。あのルイビルバットで有名なケンタッキー州ルイビルで三塁塁審として出場した際、あまり気にも留めずにいつも通りに試合が進んでいたそのとき。際どい打球が三塁線上に飛んできました。最後の一バウンドでファウル地域に外れた打球を「ファウル!」と判定した瞬間、何か感じる違和感。

「ベース、デカっ!!!」

たった3インチの違いですが、慣れてないとその違いは思いのほか顕著なものです。

ケガの防止と盗塁の増加

こちらでは大まかに触れられていますが、具体的にケガの防止とは、おもに一塁での選手の交錯を減らすという狙いがあります。先日の2024年度のMLBルール改正の記事でも触れたソフトボールの一塁ベースが”ダブルベース”になっているのと似ています。

盗塁に関しては、このベースの拡大で塁間4.5インチも縮まりました。MLBはファンに対してアンケートを行なっており、いわゆる「フライボール革命」や「マネーボール」、「セイバーメトリクス理論」に端を発した”盗塁しない風潮”が、”見ていて退屈な理由”ということが判明しました。ファンはとにかくより多くのアクションを求めているということで、盗塁に白羽の矢が立ったという寸法です。

昨年はこれに加えてマイナーリーグで、現行のルールでははみ出している二塁ベースをダイヤモンド(正方形)の中に収めて、一・二塁と二・三塁間の直線距離をさらに縮める、という試みがなされました。

”一企業”としてのMLB

北米には野球を含む4大スポーツ(アメフト、バスケットボール、ホッケー)があり、さらに近年急成長を遂げているサッカーも加えると、その市場規模は1600億ドル(約18兆円)にものぼると言われており、その熾烈な競争の中でより多くの顧客獲得を目指す、という企業的な考えのもと、近年の斬新なルール変更が行われていると考えて自然でしょう。

これまでは起きた事象に対して競技の公平性を保つために新たなルールを追加する、という比較的”受け身な”姿勢だったルール変更が、今や変わらないと思われていた規則まで抜本的に変えているという”積極的な”姿勢になり、そのようなルール変更までも「前にならえ」するわけにはいかない、という日本側の姿勢は十分に納得できます。Official Baseball Rulesとは、あくまでMLBのルールであるので、その企業理念を共有しない日本の野球は別であると考えるべきだと私も思います。ただ、アメリカ人特にMLB関係者に「ベースボール=MLB」という考えが強いのは間違いありません。なので国際大会、少なくともワールド・ベースボール・クラシックにおいては、これからどんどん積極的に変わっていくであろうMLBのルールに則って試合が運営されるということは100%断言できるでしょう。野球発祥の国・アメリカ合衆国と野球輸入国・日本。グローバルな時代においてより日本野球の存在感を示すためには、何か攻めの一手を打たなければいけなくなる日が来るのかもしれません。

2.05 ベンチ

(3)2.05の「各ベースラインから最短25フィート(7.62メートル)離れた場所に、」を削除する。

「2024年度 野球規則改正」日本野球規則委員会

日本の球場はファウル地域が広いところが多いので、このルール変更から影響が受けることはないでしょう。

直接プレーに関わるルールではないので、実際に意識してみたことはありませんが、ここ20年以内にできたマイナーリーグの新しい球場はホームプレートからダグアウトまでがとても近く感じます。ちなみに前述で紹介したフェンウェイパークはベンチから打席まで割と距離があり、ボールボーイは通常ベンチ横で待機するものですが、時間短縮のためにホームベースに近いところで待機しています。

昔はベンチにも客席にもネットや柵はなく、その分距離でカバーしていたのでしょう。近年はまずベンチ前に柵ができ、さらにMLBやマイナーリーグの球場でもそれまではバックネットしかない球場がほとんどだったのが、ここ数年で各チームに、内野席すべてに規定の高さのネットの設置努力を促し、現在は義務となっています。視界を遮られるという懸念はあったものの大きな問題にはならず、これによりケガのリスクが減った分、より近い場所でファンに臨場感を楽しんでもらえるようになりました。日本でもいわゆる「エキサイトシート」を今まで広くとっていたファウル地域に増設したり、客席の高さを選手目線にまで持ってきたりなど、共通の取り組みが見られます。

余談ですが、昔から甲子園は日本の伝統的な球場なのに、ファウル地域こそ広いものの、客席の目線はメジャーリーグのように選手に近い特殊な球場であると感じていました。

甲子園球場
最前列でもグラウンドから2mは高い位置にある横浜スタジアム

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