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何者にもなれなかった僕の「編集」という仕事について

 小さい頃から、何者かになりたかった。その何かをずっと探していた気がします。

 小学生の頃には映画「バックドラフト」の影響で消防士を夢見、親の仕事を見て建築関係に憧れ、高校生になると謎の使命感から医者を志して、医学部に進学しました。そんな傍らでバンドに打ち込んだり、洋服が好きだからとファッションやデザインに興味を持ったり、とにかくいろんなスターになろうとしていました。でも、飽き性の僕にはどれも向いていなくて、ほとんど夢を追うまでもなく挫折(というか次の興味へと目移り)してきました。

 大学卒業後の進路も見つからずにだらだらと大学生活を長引かせ、そのくせ学校には行かずにアルバイトに明け暮れて・・・。そんな中で「WWD」に出合って、面白そうだと、大学院を中退して偶然始めたのが「編集・執筆」でした。


 自分自身は何者でもないけれど、何者かの話を聞いてそれを言語化できる。その瞬間だけ何者かになれた気がする。そしてその何者かを一つに選択せずとも、自分の興味が赴く方向へと歩いてゆける。これは天職だと思いました。

 気になる人に取材して、そのあとそれをどんな構成でどうやって文字にしようって考えてる時のワクワクがたまらない。特にスタートアップや同世代で頑張っている人たちに話を聞くことが多いんですが、それはやっぱり彼らが事業をつくる根底になんらかの思想を持っていて、僕はそのストーリーを聞くことが好きみたいなんです。

 そうして、フリーランスになって、そんな形で取材を続けているうちに「思想を理解した上で言語化してくれるから別のメディア対応もお願いしたい」といった嬉しい言葉をいただくようになり、少しずつ企業(特に同世代のスタートアップなど)のお手伝いをすることが増えました。話をする彼らとしても、決められた時間で言語化をすることは自分自身の整理にもつながるらしいんです。

 この半年間、いろんなお手伝いをしていて気付いたことは、企業には驚くほどコンテンツが転がっているということでした。メディアにいた時にはあんなにネタ探しに奔走していたのに、企業では毎日が、いや全ての会話・やりとりがコンテンツになりうるポテンシャルを持っているのです。昨年広報と編集の類似ポイントについてお話をしたのですが、まさに、企業を編集視点で眺めるととても勉強になるし、面白いということに気がついたのでした。

 そうして、僕がたどり着いた一つの仕事が「広義の編集」でした。会社の思想や理念・ビジネスを言語化し、発信していくこと。会社は自社にしかない思想に沿ってプロダクトやサービスといったコンテンツを発信するメディアであり、そこには編集力が必要だと思うのです。これまでの職種でいえば、広報とマーケティングを包括する広い概念なのかもしれません。

 実際にこの半年間はsitateruでコミュニティーやイベントの運営を手伝わせてもらったり、HOTEL SHE,に編集者として関わらせてもらったり。もちろん、これまで通りメディアでの執筆も継続していますが、今回実施した「ゆとり本」のようなでかいプロジェクトも、書籍制作やイベントの計画はまさにアウトプットでしかなく、思想をビジネスと絡めながらいかにアウトプットするのかという「広義の編集」視点では、自分自身かなり勉強になっているなと思います。

 最近「企業の翻訳家みたいだね」と言ってもらえて、すごく腑に落ちました。ただし、ビジネスもクリエイションもエモーションも全て平等に扱って、あくまで客観的立場を貫くという姿勢だけは変えません。だから正社員にはならないし、あくまで外部としての「編集」作業なのかなと思うのです。

 フリーランスになりますという記事を書いて半年が経ちました。最近キャリアについて考えることも多く、最近もちょうどとある取材で「これからは編集者の時代だ」という話があったので、数カ月前に下書きして放置していたこの記事を思い出し、加筆して公開した次第であります(笑)。僕の編集力はまだまだですが、今目の前にある興味に対して必死で生きながら、これからも、いろんなことを裏側で支えていけるような人間になりたいなと思っています。

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