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科学と、合唱活動の近い将来について。アメリカ4つの合唱団体による共同提言

※ 本記事はこのまとめページおよびここからリンクされている7つの動画の全文翻訳で構成されており、すべて無料で読めます。とはいえ、それなりに労力を使って作成しましたので寄付は歓迎です。

まえがき

本記事は、アメリカのバーバーショップハーモニー協会Webサイトに掲載されている記事(https://www.barbershop.org/covid-webinar-summary)およびそこからリンクされている4つの合唱関係団体(NATS, Chorus America, ACDA, BHS)が共同で開催・作成したウェビナーの編集後動画の全文翻訳です。翻訳公開の許可は正式に取っています。

一人の歌い手として、集まって歌えない状況を非常に悲しく思っています。合唱を愛するすべての人に参考にしてもらえるのではないかと思い全文翻訳をすることにしました。サマリーだけでも役に立ちますが、詳細を見たい方はどうぞ動画翻訳もご覧ください。

今後もウェビナーは更新される予定ですが、同じように全文翻訳するかどうかはまだ分かりません。ニーズにもよると思います。最初に全文翻訳に踏み切ったのは、今後の合唱活動再開の議論のための前提知識として、この量のインプットが役に立つのではないかと考えたためです。またサマリーだけの翻訳ですと「恣意的な話題の選択があるのではないか」「語られていないディテールに真実が隠れているのではないか」と思われることもあると思いますので、必ずしも日本に関係の無いアメリカ固有の情報もすべて訳出するようにしました。

免責および注意事項

1.私は英語のパーソナルコーチを生業の一つとしていますが翻訳者としてのトレーニングを受けたことはありません。この翻訳はボランティアとして行ったもので、翻訳の正確性、記事の正確性を私が保証するものではありません。翻訳に関する修正意見がおありの場合は kiya@kiyag.com までメールでお知らせください。

2.翻訳ポリシーは「正確性をできるだけ犠牲にしない範囲で日本語として可能な限り読みやすく」としています。私の個人的な解釈による ―それは動画の声のトーンやジェスチャーなどから判断したものを含みます― 意訳として受け取られかねない割り切りもそれなりに含まれています。

3.聞き取った英文を併記していますが私の聞き取りが正確でない可能性はあります。オリジナルをご参照ください。また、元動画は、整理されたスピーチではなく会話文ですので、そもそも英語的に正確でなかったり、かなりの量の言い直し、言いよどみなどを含みますから、そもそも「正確な翻訳」というものが困難です。これらの言い直し・言いよどみのうちいくつかの部分は英文に反映させておらず省略しています。また英文には capitalization(文頭などの大文字化)や punctuation(句読点の付加) の処理を加えていません。動画翻訳の中で()付で表記している部分は原則として訳注です。

4.本ウェビナーは2020年5月5日に開催されたもので、内容は当時の情報に基づくものです。またアメリカ固有の事情による情報も含まれます。まさにこのサマリに書かれているように「これらの話題について議論したり参照したりするときは文脈に注意して」ください。

以下(↓)から翻訳部分です。

ウェビナー: 科学と合唱の近い将来について

"これは長距離走です。短距離走ではありません。"  科学者および芸術分野のリーダーで構成されるパネリストは、私たちが合唱の将来を考えるとき何を知るべきなのかを整理してお伝えします。

動画翻訳へのリンク

パート1.はじめに 

編注:簡単な案内だけですので、パート1を見る必要はそれほどないと思います。パート2からご覧ください。

パート2.COVID-19の感染経路

パート3.科学とデータは合唱の未来をどう予測するか

パート4.ハルステッド博士、ミルトン博士との質疑応答セッション

パート5.COVID-19は人々の文化活動への参加意思にどう影響しているか

パート6.段階的な復旧とレディネス(準備)計画

パート7.これからどうなるのか?


スピーカーの資料へのリンク(英文)

ドナルド・ミルトン博士:  COVID-19の感染経路と合唱の未来について

ルシンダ・ハルステッド博士:科学とデータは合唱の未来をどう予測するか

コリーン・ダイレンシュナイダー ―コーラス・アメリカの観客調査 ― COVID-19は文化活動の参加意思にどう影響しているか

モリー・クインラン・ヘイズ、アーツレディ:レディネス(準備)と計画

ホストと登壇者

2020年5月5日、バーバーショップハーモニー協会は合唱の未来についてのウェビナーを謹んで共催します。私たちは歌い手、教師、指揮者を守るためにファクトベースの解決策を求めています。

主要な合唱団体のリーダー:

・キャサリン・ダホミー(コーラス・アメリカ CEO)

・アラン・ヘンダーソン(全国歌唱指導者協会 NATS 常務理事)

・マーティ・マンソン(バーバーショップハーモニー協会)

・ティム・シャープ(アメリカ合唱指揮者協会の常務理事)

医学のスペシャリスト:

・ルシンダ・ハルステッド博士(耳鼻咽喉科医 サウスカロライナ医科大学 声と嚥下のためのエヴリン・トランメル研究所の創設者兼医学部長、舞台芸術医学協会PAMA 会長候補)

・ドナルド・ミルトン博士(感染性バイオエアロゾル、呼気分析、呼吸器疫学関連分野の第一人者)

芸術マーケティングおよびリーダーシップのプロフェッショナル:

・コリーン・ダイレンシュナイダー(IMPACTS Research and Development社)

・モリー・クインラン・ヘイズ(ArtsReady)

・トム・クレアソン(Arts Readiness)

二時間半にわたるライブセミナーは幅広い話題をカバーしました。パネリストたちは、すべての芸術団体にとって、これが長い道のりの最初の一歩だと認識しています。”これはマラソンです、短距離走ではなく” アメリカ合唱指揮者協会のティムはこう述べました。彼自身がCOVID-19の感染経験があります。

バーバーショップハーモニー協会(BHS)による注意書き

バーバーショップハーモニー協会は、メンバーの安全性をすべてに優先します。この会議は、我々が直面しなければならない現実に目を開かせてくれるでしょう。専門家による研究と提言、そして楽観主義と革新への決意をうまくバランスさせなければなりません。変えられるものは変え、変えられないものは受け入れて、変えられるものの良い面に注目しましょう。誠意と協和の精神はバーバーショップの世界の根底にあります。

このサマリーを読んだりウェビナー動画を見るにあたっては以下に注意してください:

プレゼンテーションは「最終版」ではありません。多くのデータがまた出てくるでしょう。この対話は私たちが「今後何を理解しなければならないか」を理解するのに役立ちます。

これらは絶対的な指示ではありません。すべての責任ある団体がそうしているように、私たちは学び続け、ベストプラクティスを追求しつづけます。

これらの話題について議論したり参照したりするときは文脈に注意してください。その判断は難しいことですが、あらゆるアイデアは「もしもこうだったら…」という希望を刺激してしまうものです。私たちは空が落ちてしまったのだと思い込むこともできないし、全部がバラ色だと思うこともできません。事実に忠実であり、お互いに誠実であることが、良い希望をもたらします。

視聴者からの視点

BHSの役員であるブライア・ブラウンは、音楽教師である夫ラヴィ・ラグラムと一緒にライブウェビナーに参加し、長いコメントをくれました。そのサマリーを動画と資料への手引きとしてここに紹介します。

ブライアは言いました「私たちは全部を観ました。目が覚めるようなものでした。以下はBHSのリーダーとメンバーが特に考慮しなければならないものです」

「安全」とされる活動のピラミッドの中で、グループで歌うことは最も安全でないとされています。屋外のカルテット活動で背中から風が吹いていない限り(Irish Blessingごめん!※)

訳注:Irish Blessing という歌の歌詞に May the wind be always at your back (どうか風がいつもあなたの後押しをしてくれますように)という部分がありそれを揶揄したものです

以前のようにグループで集まって歌うのはハイリスクと考えられています。合唱は、密閉された空間に呼気が循環するため、今できることの中でも最も危険なことの1つです。空調のフィルタリングや天井の紫外線装置などいくつかの技術が助けになるかもしれませんが、コストがかなりかかります。特に教会など古いスペースでは。

多くの生物学的な理由から、歌い手はスーパー・スプレッダー(超感染拡大者)とみなされています。練習中に深く息を吸い大きな声で歌うことは、話すことよりも遙かに高いレートで感染粒子を放出します。たった1回の練習で大量の感染者が出るような怖い話を多く聞くのはこのためです。データによると「多くの深刻な感染は教会、練習室、ホールからのものです」となっています。6フィートの物理的な距離を保っていても、歌うことでそれは意味がなくなり、部屋中がウイルスの粒子ですぐに埋め尽くされます。

新しい研究結果によると、COVID-19は症状を呈する「前に」「最も」感染力が強くなるとされています。歌い手や観客に対し、気分が悪かったら自分の判断で練習や演奏会に来ないでくださいということは、感染したことにすら気付いていないときに最も感染力が強いのだとしたら、おそらく役に立ちません。

歌のために安全とされるバリアのような方法(マスク、防護服)は今のところありません。N95マスクは可能性がありそうですが、それでも現実的な解決策ではありません。理由は以下の通りです。

 1.マスクを有効に使うためにはフィットテストされていなければなりません。

 2.医療関係者ですら十分な量のN95マスクを入手できていません。コーラスが必要な量確保できることはなさそうです。

 3.歌っている最中にマスクをするのは酸素の吸入を妨げるので危険です。このマスクは二酸化炭素を鼻の付近に留めます。誰にとってもそれを長い間吸っているのは望ましくありません。喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、心疾患を患っていたり、単純にお年を召していたりする場合は特にそうです。我々のコーラスの話のようじゃありませんか?

 4.ほとんどの医療プロフェッショナルはN95マスク装着後数時間で頭がクラクラしたり頭痛がすると言っています。彼らは歌っているのではなく単に話しているだけです。

合唱団では練習会場での検査を検討できるかもしれませんが、そこには問題点が多くあります。

 ・大量に受けられるような検査は今のところ何もありません。医療関係者ですら十分な検査は受けられていませんので、合唱関係者もしばらくの間は難しいでしょう。

 ・おそらく、躊躇するくらいコストが高くつきます。

 ・プライバシーの問題があります。

 ・合唱団には非常に正確ですぐに結果が出る検査が必要でしょうが、そのような検査は今のところ既に症状が出ている場合のみ有効です。すぐ上に書いた、無症状者がより感染力が強いかもしれないという注意を見てください。

 ・大規模な検査が可能だったとしても、偽陰性の問題があります。ドア前の検査はリスクを低下させるかもしれませんが、完全にはできません。

 ・全メンバーによる同意書のようなものがおそらく必要です。誰か一人でも賛成しない状況であれば、練習の実施は不可能でしょう。

コーラス・アメリカはマーケティング会社に相談し、状況が許せば、人々は特定の活動に戻ってくる意思があるかどうかについて調査しました。回答された多くの活動の中で、閉鎖空間での演奏会はリストの最下位でした。

データによると、人々がコンサートに戻っても良いと考える条件は以下の通りです:

 1.ワクチン

 2.観客数の限定

 3.行列がないこと

 4.会場全体で手指の消毒薬が使えること

 5.現地での健康調査

 6.屋外の会場が望ましい

保険ポリシーの変更。保険契約の更新が迫っているとして、合唱がハイリスクと判断されているこの状況で、保険は有効のままでしょうか? 保険会社は今後何を要求するでしょうか。それが何になるか私たちはまだ知りません。

州をまたいで移動するような歌手たち。それぞれの州がいつ開放されるかによらず、歌い手が移動するということは、異なるルールが適用されている場所から来ることがあるということです。ある歌手はCOIVD感染が少ない地域から来るかもしれませんし、別の歌手は温床とされている場所から来るかもしれません。ウイルスが世界中を移動することになります。

通常の活動に戻ることをずっと考えるより、合唱団は自らの資産や運用能力の保持、緊急事態への対応方法について検討するべきです。地元の保健所と連絡を取り合い、自らの地域の状況に合わせて動きましょう。

私が得られた教訓:

・透明性のあるコミュニケーションを頻繁に。素晴らしいコミュニケーション方法の追求。

・身軽に。守れないかもしれない大きな約束をしない。

・これは長距離走で、短距離走ではない

・何人かの歌手が ”黙って”しまい、全くコミュニケーションをしてくれなくなるかもしれない状況に備える

・デジタル環境などで、精神的につながる別の方法を推奨する

今後わたしたちはどこに向かうのか?

まだ多くのことを検討しなければなりません。協会としては、どのようなことが必要になろうとも、みなさんがバーバーショップを楽しみ続けられる方法を模索していきます。(イベント、資料、講義などをまとめていますので見てください

私たちの誰もができる良いことは、バーバーショップ人生の一番重要な部分につながり続けることです。それは、友人であり歌仲間です。私たちは一緒助け合いながら音楽を作るためにある団体です。対面であろうが、Zoom上であろうが、お互いの信頼関係が私たちがこの状況を耐えることを助けるでしょう。歌い続け、一緒に居続けましょう。

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