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小笠原滞在記 Day 4 & 5 「写真家、大いに戸惑う」

小笠原に来て4日目、5日目にもなると、小さい島だから撮るものがなくなるのでは無いか?と考えている人がいたら、ちょっと待ってほしい。実はこれを書いているのはDay 9に当たる2月8日の夕刻で、1時間後には再び撮影に出る。今日は朝の3時に一度起きて夜の写真を撮り、4時に寝て7時半に再度起きてから山の頂上二つを渡り歩いてノスリを撮ってきた。そこから帰ってきて昼ごはんを慌てて食べて、データの整理をして、今これを焦りながら書いているのだが、もうすぐ夕焼けが始まるから再び撮影に出なくてはいけない。

簡潔に言うと、時間がない

撮るものが多すぎて、ずっとシャッターをきり、ビデオを回し、次の計画を立てて、天気図と睨めっこしている間に、明明後日にはもう帰る日が迫ってきている。戸惑っている、大いに戸惑っている。こんなはずではなかった。「ワーケーション」と名付けたからには、ちょちょいと写真を午前中に撮ったら、あとは夕方頃まで南国のビーチでビールでも飲んでゆっくりするような毎日かと思っていたのだが、多分僕はこの数年で一番働いている気がする。旅の仲間である北村穣さんと市川渚には、「変なアドレナリンが出てる」と言われるほどだ。

と言うわけで、Day9までに撮影した写真はゆうに1万枚を超えて、そのデータ処理だけでも帰ってから頭が痛いほどにシャッターを切っているせいで、記事の更新も遅れてしまった。そしてカッコ悪いことに、もう4日前のことなんてほとんど記憶から抜けてしまっている。一体何をしてたっけ... そうだ、健さんと山上で語り合ったんだった。

Day 4に関しては、日経COMEMOに寄稿した、下のちょっと真面目な記事にまとめたことにしておくので、そちらをご一読いただければ嬉しい。今回滞在しているホテル PAT INNのオーナーの瀬堀健さんの超かっこいい写真があるので、ぜひみて欲しい。

Day 5、5日目。何をしてただろう。あまりにもたくさんのことがあって、思い出すのに苦労する。そうだ、この日は一日、ひたすら海辺で撮影をした日だった。極上の海の記録、記憶。

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おっと、これは電波望遠鏡。午前中には山に行ってたんだった。この電波望遠鏡を前にして、子どもみたいにはしゃいでしまったのだった。海はこっちだ。

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道沿いに点在するビーチに降りては、市川なぎちゃんにモデルになってもらって、撮影する。風は気持ちよく、光は眩しく、海は輝き、太陽は記憶を漂白するほどに真新しい。撮った写真の全てが、自分が撮ったとは思えないほどの、特別な輝きを帯びている。

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上の方で、「4日前のことなんてほとんど記憶から抜けてしまっている」と書いたが、それはもう今日だって同じようなものだ。朝からあまりにもたくさんのことがあって、後から後から素敵な記憶が上書きされていく。それほど「特別なこと」が毎日起こるのが、小笠原なのだ。記憶が追いつかない、シャッターも追いつかない。

でも本当は違うことにだんだん僕は気づいている。本当は、こう言うべきなんだろう、「普通の毎日が特別」。あら、なんともエモい、どこかの代理店が作った夏休み向けのキャンペーンのような文章。でも、本当にそう。

小笠原の普通の日々、そして多分小笠原だけではなく、自分の住んでいる街にいても、本当は普通の毎日が、いつだって特別なんだろう。小笠原にいる時みたいに本気で周りを見渡してみれば、同じように記憶が追いつかず、シャッターも追いつかないほど、いろんなことが起こっている。それを僕は、あれこれと言い訳をつけて、見えないないふり、退屈なふりをしてやり過ごしている。

小笠原に来て開放された。何から、多分、自分から。あれこれ言い訳して、日々を灰色に塗り込める自分から。ワーケーションだから半分はバケーションのはずなのに、こんなにも必死に、毎日楽しく、ギリギリまで遊びなのか仕事なのか良くわからない日々を、この小笠原で過ごさせてもらっている。僕はこの島で、僕自身にとても忠実だ。そんなことが起こるなんて、ここに来るまで想像さえしてなかった。そして思う、随分僕は長いこと自分のことを見てなかったんだなと。いやあ、申し訳ない。

ハロー、久しぶり、俺。

恐ろしい勢いで溜まっていくデータと、それを上回る速度で過ぎていく日々に戸惑いながら、僕はもう「次」のことを考えている。僕は今回、全部を過ごしたって、「夏の小笠原」をみられていない。それはハイシーズンのはずで、多分今回のこの極上の記憶と記録さえ塗り替えてしまうような光景が手付かずで残っている。そのことを思うと、ただただ僕は戸惑う。

嬉しさに戸惑う。

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記事を気に入っていただけたら、写真見ていただけると嬉しいです。 https://www.instagram.com/takahiro_bessho/?hl=ja