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小笠原滞在記 Day 10 「終わりの前に」

小笠原の滞在も10日目になった。おがさわら丸に乗っていた時間もカウントに入れるなら11日間。ここまで地元を離れて、「旅」をしたのはいつ以来だろう。思い返してみると、多分大学1年生の時に、イギリスを半月かけてぐるぐる足で回った時以来のことだ。あの時、僕の人生の転機になる出会いがあった。それについては、一度書いている。

旅は人をつなぐ。自分の生きている時間と空間から少しの間離れ、いずれ帰ることを運命づけられている根無草の旅人の感覚が、人を呼び寄せ、つなげるのかもしれない。20年以上も前の旅先での出会いが、今の僕を作っているのだとするならば、今回の小笠原の旅も、10年後、20年後へと繋がっていくような繋がりを作ってくれたんじゃないか、そんな予感がしている。

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だから、朝ごはんを食べた後は、最後にもう一度街の中を歩いてみたくなった。旅の記憶は、写真に残したくなるような絶景だけで成り立っているわけではない。むしろ、10日間の滞在中、毎日歩いたなんでもない道や風景の方を、後から何度も何度も思い出す。4回行ったイタリアも、いつだって思い出すのはそんな風景だ。23時を超えてぶらぶらと散歩したヴェネチアの細い道、真っ昼間からワインボトル一本開けてふらふらになって歩いたフィレンツェの大通り、マフラーを落としたらイタリア人が500メートル先から追いかけて持ってきてくれたローマのコロッセオに至る道。旅が終われば忘れそうな細部ばかりが、なぜか壮大な絶景よりも強く強く心に残っている。人も場所も、何気ない一瞬に大事な瞬間が詰まっている。それを多分、時に人は愛と呼ぶのだろう。

最後の最後に行くことができた、ホテル近くの曼荼羅COFEEさん

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散歩中のなぎちゃんにもばったり出会う

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曼荼羅COFFEEは、僕の「離島仲間」の写真家、ともやくんの推薦だった。

どう言うわけか彼とは離島の話だけをする仲なんだけど、彼が前に小笠原に来たときにとても印象に残ったカフェで、勧めてくれた。こうやって細くて長い縁がつながっていく場所、それが小笠原なんだろう。

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滞在中に3回も行った中華料理の「海遊」さん

その前にはまるでアルバムの赤盤青盤セットみたいなペンションが対面にある

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そこから少し本通を歩くと、「鯨のぼり」がはためく観光協会。こんなにトロピカルな役場、なかなか他にない。

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歩いているうちに、「あっ、そうだ」と気づいたのが、大通りから見える鳥居の存在。初日に行こうと思って、結局いけたのは最終日。想いを果たせてよかった。階段を上がったところから下を見ると、海の印象がまた違って見える。まるで自分が映画かアニメのワンシーンに入り込んでしまったような印象。

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こうやって、自分が10日間歩き続けた風景を、最後にもう一度確認していく。そうやって、10日目が終わりを告げていく。

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2月の夕暮れは、夏のような天候の小笠原でもやはり早い。気づけば、周りはいい色に。この日の夕暮れも印象的だった。毎日のように爆焼けしていた空ではなく、最後にもう一つ違う顔を見せてくれた。

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穏やかな夕暮れから、

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濃いブルートーンへ。最後は穏やかな夕暮れだなあとしんみりしていたら、急に空が動き始める。まるで色彩をシャッフルしているように、雲が分かれ、色が分離していく。そして目の前に、みたことがない彩色を伴った美しい夕焼けが現れた。

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これが小笠原の空。これが小笠原の海。役者が違う、そう思いませんか?

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くれゆく小笠原の空に心を奪われて、最後の夕焼けが終わっていく。僕らは明日、この島を去る。その実感が、少しずつやってくる。


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