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なぜ超望遠レンズで花火を撮ることにこだわるのか

実は超も含めた望遠域にこだわるにはいくつか理由があります。勿論「こんなの撮れるんだぜ」という功名心もあるんですが、それは割合的には低くて、一番の理由を今日は書いておこうかなと。

超望遠領域での花火撮影にこだわる一番の理由は「花火写真飽和時代」における、一つの有効な回答になるんではないかと思っているからなんです。そしてそうした写真が今なら撮りやすくなっていることが認知されれば、表現の可能性を広げ、市場価値を作り出し、写真家が参入できる新しい「価値のレイヤー」を作り出せるんじゃないかと思っています。近接撮影と合わせて、「花火写真」の裾野そのものが広がることになります。この記事の結論は以上です。詳細は以下。

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これまでの多くの花火写真は、比較的近い場所から撮れる定番の構図がすでに出揃ってて、そこに行けば明らかに成功度の見込みの高い撮影が出来ます。あるいはまだ見つけられていなかったとしても、そういう写真は必然的に有名になるので、次の年には一気に広がります。行きやすい場所でいい写真が撮れるなら、みんな行くんです。これは仕方ない。花火というのは、「綺麗に撮る」ってことだけを目指すなら、それほど難しいジャンルではなくて、ある程度の技術があれば、後は場所さえ確保してしまえばいい写真が撮れます。だからこそ人気なんですね。

そして次の日何が起こるのか。似た構図の似た見栄えの写真が、ずらりとSNSに並ぶことになる。今やおなじみの光景です。これを僕は「花火写真飽和時代」と考えています。僕自身もそのような流れの一端を担ってしまったからこそ、なんとかしたいなと、ここ数年思っていました。近接から撮る花火がだめだと言いたいわけではないんです。そこは決して誤解しないでください。でも近接で撮るのが、すごく難しくなってきたというのは、自分で撮っていて思うんです。差異化がすごく難しい。何か一つ、二つ、三つくらいの工夫を施さなければ、多くの似た写真の中に埋もれてしまう状況です。

こうした状況に対する一つの有効な回答が、(超)も含めた望遠レンズを使った花火撮影なんですね。

最大のメリットは、まずは撮影ポイントに人がいないということです。大体8キロ以上、時には20キロ近く離れた高所から狙うから、他の写真家どころか、見てる人にさえめったに会いません。昨日のPL花火も、僕は約15キロ以上離れたポイントから撮影していたんですが、僕以外で撮影している人は一人もいませんでした。

それが意味するのは、もしその撮影が成功して、例えば大きく認知されることになれば、「あなただけの表現」としての花火写真が一枚出来上がるということなんです。その年、その場所を選び、誰も撮ったことのない画角から、たった一枚を撃ち抜く。花火は、それが放射する光も出てくる煙も、毎回その年限りのもの。一期一会のものです。そのような花火を他の誰もいない場所から撮れば、この世界が続く限り、その場所からの写真を撮ったのはあなた一人ということになります。勿論、近くから撮った写真と大して見た目が変わらない場合もあります。でも、全然見え方の違う写真になることもしばしばあります。その様な写真ができあがったときの感動は、他では得難いものなんです。

しかも楽です。行くのもギリギリでいいし、帰るのもすんなり帰れる。花火大会におなじみの、あの「死ぬほど長い待ち時間」は、限りなくゼロに近づけられる。高所で撮ることが多いので、現地に着いてからの山登りとかはしんどいんですが、でもそこまでガチの山登りとかはほとんどしないので、帰りはサクサクっと帰れます。ちょっとしたトレッキング込みで、良い撮影になります。

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ただ、撮影自体のリスクは極限的に高いです。

なにせまず、誰も撮ったことのない場所からの撮影なので、実際花火が始まるまで、「どの様に見えるのか」がまずわかりません。昨日も、事前の「妄想ロケハン(主にGoogle Mapですね)」では、花火はPLの塔のすぐ左あたりに上がると思い込んでました。ところが実際には花火はPLの塔から結構離れたところから上がりはじめ、終始その場所で射出。あまりにもPLの塔と花火が離れ過ぎていたために、ほぼ全部のデータが使い物にならない失敗写真を量産しました。危うく撮れ高ゼロです。そして超望遠花火撮影は、この「撮れ高ゼロ」率がめっちゃ高いんです。

ところがこの失敗と思ってた塔と花火の距離も、最後の最後、ラストの超巨大花火が、こちらの予想以上のサイズと光量だったために、最後の一枚は逆に素晴らしく映える構図になりました。でも、その様な成功が収められるかどうかは、その瞬間になるまで撮っている本人にさえわからないんです。しかも撮った直後は、露出オーバーで失敗したと思い込んでた程です。

そう、(超)望遠撮影のリスクって、いい意味でも悪い意味でも予測不可能性が極めて高いんです。天候の影響なんかももろに受けます。遠くになればなるほど、花火と撮影ポイントとの間には天然のNDフィルターとも言える「空気」が折重なって行きます。夏はさらに空気が濁りやすいので、超望遠で撮影するには不向きの季節なんですね。だから時には、上がっているはずの花火が、空気の濁りのせいで見えないということもあるほどです。でもこれもまた、良いことと悪いことの両方に影響します。昨日のラストのPLのスターマインは「大爆発」と称されるほどの光量のため、近接で撮っているとほぼ確実に露光オーバーするのですが、昨日は空気がけっこう濁っていたために、天然のフィルターが光を和らげてくれました。

超望遠花火というのは、このようにリスクばかり抱えた予測不能な撮影なんです。でもですね、だからこそ、成功したときの喜びはすごく大きいし、それが世の中に認知された時、「あなただけの一枚」が出来上がる

その場所を選定する事前の検討、そこから見える風景を花火と合わせようと考えた構図的意図、主題と副題を構図内に収める距離的感覚、光を抑えて暗闇を取り込むバランス、現像によるテーマの明確化。どれもすべて、前例がなく、そして後に続く類似例も無い中でのあなたの一枚が完成する。ほら、なんだかゾクゾクしませんか?

そう、この「写真に独自性を与える」というのが、飽和しつつある花火写真というジャンルにおいて、多くの人に「表現の場と機会」を与えるんじゃないかと僕は希望を持っているんです。

日本は山がちな国なので、半径10キロも射出ポイントから離れたら、撮影候補地はおそらく無数にあります。その場所それぞれに、おそらくは「表現の可能性」が潜んでいる。それを自ら見つけだす冒険家の様な喜び。成功すれば拍手喝采。どんどん「違う写真」が出てくれば、有名花火大会後のSNSの写真は、バラエティ豊かな今と違う見え方になるでしょう。というか、今でも少しその傾向が出始めています。それは、近接・望遠、様々なスタイルの写真家に撮って相互にwin-winの状態を作り出します。表現が多様化すれば、飽和は緩和されて、また新たな「近接花火」の価値も再定義される。花火写真の価値のレイヤーが、幾重にも増える可能性を秘めている。

つまりですね、僕は「超望遠花火」というジャンルを広め、その価値が認知されることで、新たな市場を作り出したいんです。花火写真が流通する市場を作り出すこと。それが僕が「超望遠花火撮影」にこだわる理由なんですね。

そしてこれが一つのジャンルとして人気が出れば、花火大会の一番いい場所に、ガチ三脚が朝からずらりと並ぶおなじみの光景が少し緩和されるんじゃないかと思ってるんです。自分もかつてその中の一人だった身として、撮影している人と見に来ている人が、双方に気持ち良く花火を楽しめる方法は無いものかと考えていたんですが、「撮る」と「見る」を区分けしちゃうのが結局近道だと思いました。超望遠花火にこだわるのは、そういう副次的な理由もあります。マナー問題的な部分。

ということで、リスクばかりだし、成功する可能性はかなり低いんですが、楽しいです。成功すればめっちゃ最高の気分です。ぜひいろんなところでの撮影を試みてください。

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ただし、最後に大事なことを言っておきますね。めちゃめちゃ大事なことなので、ぜひこれは意識に置いておいてください。

1.危険なことはやめましょう(入ってはいけない場所とか、危険な岩場とかで撮るのはやめましょう)

2.危険なことは絶対やめましょう(ファイトクラブのブラピの真似です)

3.十分に準備しましょう(特に熱中症とか、虫獣対策は必須)

4.自分の体力を過信しないでおきましょう(機材持っての山登りはかなりきついです)

危険なことだけは絶対に避けて、基本は「町中にある200-300メートルくらいの山」とか、「ちょっと丘の上にある展望台」とか、そういうところを狙います。距離は10キロ前後から始めるのが一番いいです。目安は4キロ離れたら100mmで、スターマインが入るくらいと思っててください。勿論、花火のサイズにもよりますが、大体そんなもんです。10キロだと250mm前後の距離になるので、超望遠が必要になってきます。

てことで、皆さんレッツトライ!

記事を気に入っていただけたら、写真見ていただけると嬉しいです。 https://www.instagram.com/takahiro_bessho/?hl=ja