閃光

 永瀬隼介著「閃光」を読みました。もう10年レベルで積読してあった一冊です。厚いので逡巡していたのかもしれませんが、ようやく手に取りました。なぜ読もうと思ったのかも定かではありませんが、表紙にある三億円事件の容疑者の写真のインパクトにつられたのでしょう。とはいえ、それもかなりぼかしが入っているものです。

 小金井市の玉川上水のほとりで遺体が発見され、小金井中央警察署に捜査本部がおかれます。本庁捜査一課のベテラン刑事・滝口はたいした捜査にも加わることなく定年をまつばかりという状況ですが、この事件の被害者の名前を聞くと、「自分を捜査に加えろ」とねじ込みます。滝口はかつて、三億円事件の捜査に加わり、被害者の名前は三億円事件の容疑者のものでした。そこから、滝口は所轄の若手・片桐とコンビを組みベテラン刑事の執念の捜査が始まります。

 一方で、犯人側のストーリーと、謎のホームレスのストーリー、事件当時のストーリーが同時進行していきます。三億円事件は容疑者の父親が警察官であり、その容疑者が自殺を遂げたことから、捜査が緩くなったという設定ですが、実は容疑者グループに黒幕が1人、それが警察官僚の妾の娘、ここに行きあたったことで、捜査が緩んだという真相がわかってきます。

 盗まれた3億円は保険で補填され、怪我人等もいないことから「被害者のいない事件」とも言われているとありましたが、そこは「いやいや、保険会社もそりゃたまらんでしょう」と突っ込みたくなりました。しかしながら、やはり被害者は存在し、その被害者の息子が犯人グループに復習するという復讐劇も加わってきます。三億円事件とのかかわりにこだわる滝口・片桐は捜査本部を外されますが、独自に動いて犯人グループに接触を図ります。一方で、その動きによって復讐劇が誘発されてしまったとも言えます。

 最後をどうまとめるのかものすごく気になりましたが、なんて言うか警察という組織の恐ろしさを知る滝口の言っていることを信じると、なんとも嫌な読後感となります。いやいや、滝口は考え過ぎだろうと思える部分もありますが、おそらく彼が主人公という位置づけで間違いないのでしょうから、著者の言いたいことも、警察組織に対する批判的なことなのかもしれません。

 全編通して楽しく読ませて頂きました。参考文献も気になるので、もう少し三億円事件を深堀してみたいと思います。

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