吉野家の経済学


 安部修仁・伊藤元重著「吉野家の経済学」を読みました。安部氏はアルバイトからのたたき上げで吉野家の社長・会長を歴任された実業家、伊藤氏は経済学者で東大名誉教授です。お二人が対談して意気投合し、本書の発刊に至ったとのことでした。

 牛丼は過当競争にさらされているイメージで、吉野家も一時期は並が280円まで下がりました。すき家が290円にしたところに吹っ掛けたような金額ですが、本書はその280円に切り換えた辺りのエピソードが盛り込まれていました。私がアルバイトをしていたころは400円でしたが、そこから3割引きなんて未だに信じられませんが、綿密な計画があったことが分かりました。

 そもそも、400円の時代でも100円引きセールというのがあり、客数は大変なことになるのですが、売上も上がって利益もしっかり確保できるような設えになっていました。そうしたところも踏まえて、一部の店舗で300円台を二、三種類、200円台を四種類の価格設定で販売する実験をしたのだそうです。200円台は250円、270円、280円、290円でしたが250円ではお客がき過ぎてパンクしてしまう、いやセールの時に実際パンクしたエピソードもありました。270円と280円では客数に対したさがなく、280円と290円では大きな差が、また290円と300円でも大きな差があったとありました。伊藤氏曰く「同じ10円でも全然意味が違う」ということでしたが、そうしたことを踏まえた上での280円という設定だったのでしょうね。

 創業当初から、チェーン展開し倒産も経験しと、吉野家の歴史についても詳細に語られていました。最初のお店は築地で、2代目社長になってその1店舗で年収1億という目標が掲げられました。それ自体も無理な目標だったようですが、何とか達成できました。しかし、それ以上の伸び悩んでいるところで、コンサルタントから「2店舗目を出せ」と言われ、それが眼からウロコだったというから面白いです。安易に売り上げを上げようとして多店舗展開をしなかったからこそ、店舗毎にしっかりと利益を出す仕組みを構築できたのではないかと思いました。

 1度は倒産を経験するも、そこからの復活劇も面白かったです。創業者と権利を争う出資者も登場する等、ちょっとドラマになりそうなストーリーでした。しかし、登場する皆さん、よく働きます。私ももっと見習わなければなりません。店舗での実際の作業の話などもあり、自分がやっていたこともあってイメージしやすかったので、懐かしくもためになる一冊でした。

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