外資系コンサルティングファームでの物語-chapter1

プロローグ

午前6時、六本木。季節は冬。
頭上にはまだ日が出ていない暗い空と高速道路が織りなす灰色の世界。
「寒いな・・・」
黒のトレンチコートを着たがっしりした体躯の男がポケットに両手を突っ込みながら歩いている。

「これから帰るよ」
オフィスから徒歩10分のマンションまでの間の唯一の信号に引っかかったところで、東カレデートで釣り上げた歯科衛生士の彼女にLINEを送る。
まだ信号は赤。
しかし睡眠時間1,2時間の生活が続いている男にそれ以上の文章を考える気力はなかった。
「早く帰って寝ないと・・・」
信号が変わるやいなやアイフォンをポケットにしまい家路を急いだ。


9時半にオフィスの中のプロジェクトルームに戻ると女性コンサルタントの香取が先に来ていた。
「大河さん、おはようございます!」
彼女も大河と同じくプロジェクトの途中でアサインされたコンサルタントだ。
大河よりも2週間遅れでアサインされた。
彼女にとっては入社したばかりなので初めてのプロジェクトである。
「おはようございます」
「今日は良い天気ですね!」
炎上中のプロジェクトにもかかわらず元気なのは、総合商社出身で体力があるからなのか、入社したばかりでまだ元気なのか、無理しているのか。

10時を過ぎた頃にはマネージャー含めて5人が揃った。
本来のプロジェクトメンバーは6人。
もう1人の山田は体調不良で出勤できたりできなかったり。
プロジェクト開始当初は、マネージャー南野、定量分析が山田、定性分析が美馬、の3人体制だったらしい。
パートナーの東野は何を思ってそんな無理な体制、要はコストで受注したのか。
パートナーの見積もりが甘いとプロジェクトは見事に炎上する。
中には無理を承知で、自分やプラクティス(業界や専門分野などに基づく部門みたいなもの)の成績のために受注するパートナーもいる。
東野の場合は前者も後者も当てはまりそうな、あまり評判が良くないパートナーだった。
ちなみにパートナーとは、一般企業で言う役員のようなポジションのこと。

案の定、無理が祟ったせいかは定かではないが、山田が体調を崩し稼働が不安定になる。
メンタルがやられたのだ。
そこでまずアサインされたのが大河で、定量部分を山田と分担することになった。
分担といっても山田に負荷をかけられず、実態は大河1人のワークになる。
更に美馬の部分も補佐がいるということで香取がアサイン、
更に更に香取だけでも足りず浦野もアサイン、
計6人体制となった。

プロジェクトのお題は、とあるファンドからで「外食チェーンのDue Diligence(通称DD)」だった。
DD×東野、燃える条件は整っている。
ファームの中では始まる前からそう見られていた。
「入社して2つ目のプロジェクトなのに、なんでこんなプロジェクトにアサインするんだ」
大河はこの炎上プロジェクトの3ヶ月前に中途で入社したばかりだった。
「入社したばかりのコンサルタントをあんな炎上中のプロジェクトに、しかも途中から放り込むなんて、成長させる気がまるでないよね」
「さすがにひどいね」
そんな声が周りのコンサルタントから聞こえてきて、なおのこと鬱になった。


入社

大河は、このファームに入るまでは日系の大手金融機関に勤めていて、良い評価を得ていた。
新卒で入って最初の配属が本店営業部、そしてニューヨークに異動と、絵に描いたようなエリートコースを歩んでいた。
しかし変わり映えのしない業務内容、成果を上げても昇進も昇給もしない旧態依然とした組織が嫌になり、
「自分は特別な存在。こんな会社に収まる器じゃない」
「将来は経営者になる」
「手っ取りば早く稼いでモデルみたいな女と付き合うにはここじゃダメだ」
そんなことを考えて、外資系コンサルティングファームに狙いを定め、転職活動を開始、見事に希望の戦略ファームからオファーをもらった。
給与は現状維持程度だったが、
「すぐに成果を出してプロモーションすれば一気に200-300万円ほど上がりますよ」
と言われ、意気揚々とこのファームに転職することを決めた。


ニューヨークから帰国して、六本木のマンションの契約をし、合コンを開いてくれそうなANAのCAに帰国報告を入れ、いよいよ入社日を迎えた。

最初の1ヶ月間は研修だった。
パワポ研修は所謂「ワンスライドワンメッセージ」に始まり、色使いとか、適切なグラフの選び方とか。
エクセル研修は様々な関数とか、ピボットテーブルの使い方とか。
そしてコンサルと言えばのロジカルシンキング。
3Cとか4Pとか基本的なフレームワークもさらりと触れた。
その後は事例を用いたワークに。1週間1テーマ×3週間だ。

前職時代の意識が消えきらない大河は、どこかなめたままこれらの研修に臨んでいた。
前職でも最初は研修だったが基本的に寝ていたものの、いざ現場に配属されればしっかりと結果を出せたからだ。
コンサルの研修は前職のそれとは異なり、頭が疲れるほど脳みそを使うことを要求されたものの、本気を出し切ることはなかった。
まして先輩コンサルタントと関係を築く努力も怠った。
「せっかく外資系コンサルタントの剣を手に入れたのだから、おじさん達と飲むより女の子と飲みに行くでしょ」な思考回路だった。

そんな状態で研修までは乗り切り、いよいよ初めてのプロジェクトにアサインされる。


人生初の挫折

(続く)


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書くの初心者で、文章下手ですみません。。
ネタ自体はあまり世に出ない面白い物だと思うので、温かくご支援いただけますと幸いです。
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