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ニャン太の話②

途方に暮れたという表現はよくある。でも僕が生きてきて一番途方に暮れたのがこの時である。

一軒ずつ知らない家のインターホンを押してこんな猫知りませんか、お宅の子じゃないですか。

なんの手ごたえもなく日が暮れた。

いろんな家を回ってると中には、なんで猫なんか飼うんだ、ウチの庭を荒らすようなやつらだぞ、と、わけわからんこといってくるおばちゃんもいた。

土地というのは人間が勝手に仕切ってここは俺の土地だ、とかってやってるだけなので他の生物や植物にはまったくカンケイないので、こういう人間を見ると僕はアホだなあと思う。

それはさておき、僕ら兄弟は突然来た1匹の生物を抱えて途方に暮れたのだ。

途方に暮れることができたのはひとつの命を軽んじることができなかったからだと思う。

おそらくこのぼさぼさの猫は捨てられてしまったのだろうけど、面倒だから同じように捨てたら解決、とは思わなかった。

特に話し合った記憶もないけれど、どうにもならなかったのでぼさぼさの猫を連れて帰った。連れて帰って、こんがらがりきってしまったような毛をなんとかしようと風呂場で格闘した。

からまった毛をつかんで切り落とそうとすると痛いのかすごく嫌がる。こっちは皮膚を切ったらどうしようと思うのですこしの毛を切るだけでも結構時間がかかる。

結局ほとんど切れずに終わった。

毛を切るとき僕は猫に話しかけていた。

そんな様子をみて兄は「やっぱお前は獣医に向いてるのかもな」

とかなんとか無責任なことを言ってた。

僕はろくに勉強もせずに獣医を諦めていた。

でもその言葉は今も覚えている。

「ニャン太」と、父が適当に名づけていた。

家にはすでに2匹の猫がいて、2匹は兄妹で他人にはなつかない猫だった。

当然というか、ニャン太にもなつかなかった。というか思いっきり避けていた。

ニャン太もニャン太で、ご飯を食べに来るときは兄妹猫を押しのけて食べたりするからますます嫌われていく。

たまに僕の布団の上で寝た。

そんなときいつも布団にきていた兄弟猫たちは絶対こなかった。

「まかろ」

と鳴く猫だった。

ぼさぼさで、近づくとにおいもして、妙な泣き声で、嫌われ者のまま、何年か家にいたけどいつの間にか出て行ってしまった。

かわいげのない猫だった。なでると噛み付いてくるし、あまがみもできないもんだから痛いし。

今思えば病院にいくなりして、トリミングでもしてやれてたらなにかがちがっていたかもしれない。

多分愛情とかそういうものだけでなんとかなる範囲を超えていたのかも。

病院という外部の力が必要だったんだと思う。

優しくしてやれなかった。前の飼い主と同じようなことをしてしまったのかもしれない。

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