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「もふ」という猫の話④
連れて帰るのはやめよう
そう言い出した記憶はないけれど。僕らには連れて帰れなかった。
せっかく猫のごはんを持ってきていたので、「もふ」にあげることにした。
普通のドライフードだけじゃなく、ちょっとおいしいやつももってきていた。
無責任にごはんをあげてさよならをするのだ。
僕らは「もふ」に会いにきたので、「もふ」だけにごはんをあげたかったのだが、ごはんを出すと、どこからともなく、ものすごい数の猫が集まってきた。
結果的に10数匹の猫に囲まれることになった。
平等にあげたいというのもあるし、「もふ」に重点的にあげたい、という気持ちもある。
猫に囲まれて嫌な気持ちになるわけもなく、楽しいひとときだった。
集まる猫たちのなかでゴリラみたいなやつがいた。
ようく見てみるとたいして体格が大きいわけじゃないのだけど、なぜだかゴリラっぽいなと感じた。黒くて、動きが妙に俊敏で、他の猫が食べようとしていたものをささっと割り込んで食べていってしまうようなやつなのだ。
この猫が、本当に申し訳ないんだけどかわいいとは思えなかった。
猫をかわいいと思えないなんて異常事態だ。
「もふ」にあげようとして出したちゅーるを、そいつがぐわーっと食べに来るのでなかなかあげられなかったり。すごく困った。
その癖、他のどの猫よりも警戒心が強かった。
というかここまで警戒心の強い猫を見たのははじめてかもしれなかった。
最後までぜんぜんかわいいと思えなかったゴリラ猫であるが、その警戒心の強さが一体どこからきてしまったのか。なにが起こってそうなったのか、考えるとやはり楽しい気持ちは起こらないし、やさしくしてあげたくもなる。
そんなゴリラ猫との攻防を制し、無事「もふ」や「もふ」の子供にもごはんをあげ終えた僕らは車を置いた場所まで戻ってきた。
実はウチにはすでに猫がいる。あまり他の猫と仲良くできそうもない猫が。
部屋の数なども考えても、もう一頭飼うのは現実的じゃない。
ここで暮らしてて、幸せかもしれない。
ごはんをくれるおっちゃんもいる。
いいわけはいくらでも思いつくけど、結局僕らはなにもできなかったのだ。
でも今でも時々思い出すし、会いに行きたくなる。
もしあの日連れて帰っていて、今一緒に楽しく暮らしているなんていうこともあったのかな、なんて考えたりもする。
ちょっと時間を作って、またレンタカーでも借りてみようかなと思います。
おわり
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