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ひきこもりおじいさん#79 静寂

当時の東京市街で幸恵が行きそうな場所は全て探しましたが、幸恵は見つかりません。仕方なく近くの駐在所や警察署に事故や事件に巻き込まれたのではないかと探しにも行きましたが、それらしき人は見つかりませんでした。そして、事態は最悪の結末を迎えます。
その日の夜遅く、駐在所の巡査が家を訪ねてきました。何でも身元不明の女性らしき溺死体が隅田川で発見されたらしいのです。だから一応確認して欲しいとのことでした。その話を聞いた瞬間、私には嫌な予感があったのです。とにかく私達家族は急いで、上野警察署に向かいました。残念なことに、私の予感は最悪な方に的中し、そこで変わり果てた幸恵と遺体安置所で対面することになったのです。両親が泣き叫ぶ中で、私はすぐには事態が飲み込めず、呆然として涙すら出ません。暫くすると遺体安置所に報せを聞いた正ちゃんが、必死の形相で飛び込んできました。正ちゃんは幸恵の遺体を見るなり、抱きついて狂ったような咆哮をあげ、そのまま一晩中泣き叫んでいました・・・」
そう言い終えると八重子は、天空を仰ぎ見るようにゆっくりと上を向いた。病室内は誰もが沈黙し静寂が支配していた。

#小説 #おじいさん #捜索 #遺体安置所 #静寂

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