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大学生日記 #23 珍味

「これ全部タダなんだぜ。凄くね?」
裕太が目を輝かせて言った。
「これのことか裕太の言ってたのは」
「そう。ここってさ規模の割には試食品が多いんだよ。しかも土日の夕方は特に種類が多くなるんだ」
いつのまに裕太はそんな情報を仕入れてきたのだろうか。疑問はあったがお金のない貧乏学生の広司にとっては無料で美味しいものにありつける試食品の食べ歩きは、まさに最適な暇つぶしだった。しかもここの食品売り場の試食品コーナーは、全部で十箇所以上もあり、メインディッシュ、デザート、飲み物、ご飯ものから山海の珍味まで量も種類も実に豊富だった。
「こういう情報とかさ、裕太はどこで知るの?」
「ああ、それはほら。よく朝刊の折り込みチラシの中にオダキューOXのチラシも入ってるんだよ。配達で余った新聞やチラシをよく持って帰ってきてるからさ」
何でもない事のように裕太は言ったが、自分の身の回りの些細な事からでも情報を集めて自分の生きる力にしようとする裕太と仕事が大変だとか苦しいとかそんな発想しか出来ない広司とは、生き方に大きな違いがあるのは厳然たる事実だった。
「ほら!あそこで何か旨そうなステーキ配ってるから、まず行ってみようぜ」
「う、うん」
羨望にも似た視線を裕太に向け、そのアクティブな言動に後押しされるように広司はその試食品のコーナーに足を向けた。

#小説 #試食品 #生きる力 #羨望

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