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大学生日記 #18 終焉

ベンチに座ったままどれくらいの時間が経過したのだろうか。広司が顔を上げると目に入る景色は夕闇に包まれ始め、その後に訪れる夜の闇が周囲の景色を徐々に侵食していた。広司が腕時計で時間を確認すると、時計の針は午後の六時半を指していた。ついさっきまで周囲には散歩をする人が何人もいて、子供達の遊び声がうるさいくらい響いていたのに、今は公園内は誰もおらずひっそりと静まりかえっている。あの親子連れも家路についたようで、その姿は見えなかった。西川原公園は同じ場所なのに、夜になると昼間とは全く別人のような寂しい印象を広司に与えた。
いよいよ胸騒ぎを覚えた広司は焦るように立ち上がると、結衣を求めて周辺を探し始めた。そして思い出したように結衣に電話を掛けたが、着信に結衣が応答することはなく、広司の耳には虚しくコール音が響くだけだった。広司は辺りを探しながら、なぜもっと早く結衣を探さなかったのかという後悔の念が風船のように膨らみながらも、同時に結衣に会わなくて済んだという安堵感も存在していた。そんな矛盾し相反するような気持ちを上手く自分の中で消化出来ない広司は、どうしたらいいのか途方に暮れた。
結局、結衣は見つからずベンチに戻ってきた広司は、その時初めて周囲が完全に夜になっていることに気付いた。風もなく近くの大きな水銀灯の淡い光だけが、柔らかくその付近を照らして、夜桜を闇の中から見事に描き出していたけれど、不思議なくらい現実感は欠如していた。そしてただ広司の意思や気持ちを無視したまま、残酷なくらい時間だけが過ぎると、その経過と共にはっきりと広司は結衣との関係が終焉を迎えるという確信にも近い予感を抱いた。

#小説 #時間 #消化 #夜桜 #確信

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