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ひきこもりおじいさん#53 想像の中で

『初めまして。いつもザ・ラジオショーを楽しく聴いています。ラジオネーム・信ちゃんといいます。
今回は、お助け奉行のコーナーで、是非調べて欲しいことがあり投稿した次第です。それは「西雲閣」という料理屋と「さっちゃん」という人物についてです。実は先日、私は勤務する喫茶店にひとりで来店したある中学生と知り合いました。その中学生には同居する祖父がいたのですが、その祖父は普段からほとんど外出もせず家に閉じ籠ることが多く、また些細な事で急に態度が豹変し、家族に対して激昂することもあり、その中学生は祖父のことを怖れていたそうです。そんな祖父が今年の二月に亡くなり、ある日祖父の部屋を掃除していた所、本に挟まった古びた用紙を見つけたそうです。そして、その用紙には祖父が幼少時代に住んでいた「西雲閣」という料理屋の場所が描かれた地図と裏面には「ごめんなさい、さっちゃん」という短い言葉が書かれていました。中学生はその用紙を見て何か感じるものがあり、亡き祖父のことを理解する為にも、その料理屋と短い言葉の本当の意味を知りたいと思い、ひとりで東京にやって来たようです。偶然出会ったとはいえ、私も同じ長野県出身なので、少しでもこの中学生に協力したいと思い、今回葉書を書きました。ただ何しろお店が営業していたのは、七十年も前のことであり、場所は上野の池之端周辺にあったことぐらいしか分かっていません。
どうかお助け奉行のスタッフ・リスナーの皆さんの力をお借りして、この「西雲閣」と「さっちゃん」についてどんな些細な情報でもいいので、何か分かりましたら教えて下さい。宜しくお願いします』
葉書を読み終えた隆史は目を閉じて、想像の中でこの葉書が読まれているラジオ局の風景を思い描いてみるが、具体的なイメージは全く湧いてこない。現実は隆史の陳腐な想像を軽くジャンプして、飛び越えていった。

#小説 #おじいさん #さっちゃん #池之端 #想像

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