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適用拡大の広報について

少し前のことですが、10月8日(木)に厚労省主催の「年金広報検討会」を傍聴してきました。議事内容は、「年金広報コンテストについて」と「被用者保険の適用拡大に関する広報について」の二つでしたが、主に後者について議論がされました。

資料は以下のリンクから見ることができます。

ざっと、資料の内容について見ていきたいと思います。

資料2「被用者保険の適用拡大に関する広報」(厚労省作成)

まず、資料2では、適用拡大について、事業主および従業員に対して訴求すべき内容が、厚労省によってまとめられています。

事業主に対する訴求内容は以下の通りです。
・適用拡大の対象企業の企業規模要件が、2022年10月に100人超、2024年10月に50人超へと緩和されていく。
・被用者保険加入は労働者にとってメリットが大きく、求人の魅力を高め、人材の確保につながるものである。
・適用拡大の対象企業でなくても、労使合意に基づき任意で適用拡大対象となることができる。
・適用拡大による保険料負担の増加に対応するために、生産性向上を促す助成金、補助金が用意されている。

従業員に対する訴求内容は、被用者保険に加入することによって負担と保障内容の変化について、以下のスライドにまとめられています。

適用拡大の対象となる短時間労働者を、現時点の属性(図表左から、国民年金第1号被保険者、国民年金第3号被保険者、国民年金非加入者)で区分して、それぞれの属性ごとに被用者保険加入による保険料負担と保障内容の変化についてまとめられています。

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適用拡大と言うと、とかく「パートタイム労働者の手取りが減る」というような、上の図表の真ん中のカテゴリー(第3号被保険者)だけを取り上げた情報が多いので、注意が必要です。

実際、各カテゴリーの割合は、以下の通りです。適用拡大の対象者に占める第3号被保険者の割合は4分の1程度で、第1号と非加入者が4分の3を占めているのです。

つまり、多くの短時間労働者にとって、適用拡大は負担が減り、保障が充実するものなのです。

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また、先の図表では、第3号被保険者には「扶養家族分の保険料が不要となる」というメリットがなく空欄になっていますが、例えば、夫が転職や退職で健康保険を抜ける場合などは、妻が家族を扶養に入れることもできます。これからライフプランが多様化する時代ですから、第3号被保険者の妻が健康保険に加入していて助かるケースも出てくるでしょう。

資料3-1・3-2「被用者保険の適用拡大に関する効果的な周知・広報業務(総論・各論)」

こちらの資料は、適用拡大に関する広報事業を入札によって受注した博報堂が作成したものです。

下のスライドは、資料3-1の最初のページに載っていたものです。

おー、さすが博報堂!なんかいい感じです。

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そして、次のページは、被用者保険加入前後の負担と給付と給付の変化について説明したものです。

①の第1号被保険者については、被用者保険加入によって負担が減り(79.2万円減)、給付が増える(126.9万円増)ことが示されています。一方、②の第3号被保険者については、負担の増加(150万円増)に対して、給付の増加(126.9万円増)が下回ってしまうことが示されています。

したがって、②の第3号被保険者については、「収支のプラスマイナスだけでは決定的な訴求が難しい」として、「傷病手当金などの安心」を伝えていくことが大切と書かれています。

ここは、傷病手当金だけでなく、他にも遺族年金・障害年金の保障が拡大するなど、被用者保険は生活のリスクに備えるための保険で、老齢年金の受取額だけで比較することは誤りであることを、第3号被保険者だけでなく、第1号被保険者にも、さらにはすべての国民に理解してもらう必要があるのではないでしょうか。

また、先程も述べた、妻が健康保険に入っていると夫が転職や退職のために健康保険を抜けた時に家族を扶養に入れることができるなどのメリットがあることも伝えるべきでしょう。

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適用拡大特設サイトについて

来年1月には、適用拡大の特設サイトが公開される予定とのことです。下の画像は、サイトのトップページに使うものの例として、出されたものです。

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見てお分かりのとおり、左側が労働者で右側が事業主をイメージしたものです。労働者側の写真は、第3号被保険者のイメージのようです。

博報堂からは、先の資料で示された通り、第3号被保険者に社会保険加入のメリットを理解してもらうことが、その他の短時間労働者も含め、制度の周知につながると考えて、第3号被保険者をメインターゲットとしたとのことです。

これに対して、厚労省の事務局や委員の方からは、3号だけが適用拡大の対象者ではないので、検討を要する旨の発言がありました。私もその通りだと思います。

適用拡大の対象となる短時間労働者は、第3号被保険者だけでなく、第1号被保険者や60歳以上の国民年金非加入の方もいて、その中で一番多いのが第1号被保険者ですから、第3号被保険者を強調しすぎると、制度が誤解されることになりかねません。

また、真ん中に配置された「社会保険のあんしんをもっとみんなに!」というロゴと、「あんしん招き猫」というキャラクターは、洗練された印象をうけます。

ただ、キャラクターについては、下のような既存のものもあり、何か年金広報のためのキャラクターとして統一してもいいのではないかなぁと感じました。

年金のミカタ2

他に、資料の中には、公的年金保険の仕組みを視覚的に理解してもらうために、下のようなインフォグラフィックが提案されており、なかなか良いのではないかと思いました。

年金インフォグラフィック

このサイトは、適用拡大の対象となる短時間労働、事業主、そして国民全体のそれぞれに向けて、必要な情報を提供する構成にするそうです。

例えば、短時間労働者向けには、適用拡大によって厚生年金に加入した方たちにインタビューした動画を載せることが検討されているようです。ここでも、インタビューを受ける方たちが、第3号被保険者に偏らないようにして欲しいところです。

個人的な思いつきですが、民間の保険会社のCMのように、不幸にもけがや病気で、障害年金や傷病手当金を受けた短時間労働者の声も入れてみてはどうでしょう。保険の広報という意味では、民間の保険会社のイメージ戦略が役に立つかもしれません(日頃、そのようなCMに疑問を感じているのですが)。

国民全体へのメッセージとしては、適用拡大は、対象となる短時間労働者のセーフティネットの拡充だけでなく、受給者全体の給付水準の改善につながり、特に基礎年金の給付水準が改善されるということを伝えるべきではないかと思います。

でも、委員の中には、国民全体を対象とした情報提供は、対象範囲を広げすぎではないかという意見がありました。確かに、適用拡大の当事者ではない国民を、どのように特設サイトに誘導するのかという課題もありますね。

その他感想

委員の方からは、いろんな意見が出ていましたが、一つ印象に残ったものが、委員の中で自らが中小企業の経営者でもある方が、第3号被保険者の就業促進を阻んでいる主な理由は、夫の勤務先が支給する扶養手当であるということを発言していました。

妻が第3号被保険者から抜けると、夫の給料の扶養手当がなくなるので、夫が妻が3号でいることを望んでいて、妻はそれに従っているということでしょう。

しかし、先に述べた通り、夫が転職や起業するために被用者保険を抜けるとか、パートの傍ら家事もこなす妻が病気やけがで働けなくなる、あるいは不幸にも亡くなってしまうというリスクに対する備えとして、妻が被用者保険に加入することを、もっと前向きに考えるべきではないでしょうか。

また、「3号は保険料を払わずに基礎年金を受給できる」と思い込んでる方が多いと思いますが、実は、「夫が支払う保険料の半分は妻の分」という解釈が正しく、万一離婚した場合には、(大雑把にいうと)夫自身が受け取れるつもりでいた厚生年金の半分は妻のものとなってしまうのです。

このダメージを小さくするには、妻自身に厚生年金に加入してもらう方が良いのです。これも、離婚という人生におけるリスクの備えとして考えてみてはどうでしょう。詳しくは、下のコラムをご覧になってください。

検討会の最後に、高橋年金局長から結びのコメントがありました。今回の適用拡大に関する広報の目的は、企業規模要件の緩和に向けて対象となる短時間労働者と事業主が早く準備を進めるよう促すことと、適用拡大の重要性を世間に広め、企業規模要件の完全撤廃から更なる適用拡大に向けてのステップであるということを仰っていました。

今後も適用拡大の広報についての動向に注目していきたいと思います。

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