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適用拡大によって就業調整は行われているのか?

みなさん、こんにちは。年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。

私は、毎月公表されている「厚生年金保険・国民年金事業月報」の統計で、年金額改定の賃金データの基となる、厚生年金加入者の標準報酬月額と標準賞与額などをチェックしていますが、2月末に公表された2022年10月のデータには、それとは別に注目する点がありました。

それは、2022年10月1日から施行された、被用者保険の適用拡大の対象範囲を拡大する改正の効果です。

適用拡大は、週の労働時間が20時間以上30時間未満、賃金が月額8.8万円以上などの条件を満たす短時間労働者を、保障の手厚い被用者保険(厚生年金と会社の健康保険)の加入対象とするものです。

この適用拡大、2022年9月までは、従業員数501人以上の企業が対象でしたが、2022年10月からは、従業員数101人以上にその範囲が拡大されました。

と、改めて説明するまでもなく、適用拡大が年金制度改革の柱であることは、こちらの投稿で繰り返しお伝えしてきたところです。

今回の法改正によって、厚生年金の加入者数が増えることになりますが、その内容について見ていきましょう。

厚生年金の加入者数が33万人増加

まず、厚生年金全体での加入者数の推移をご覧ください(共済加入者は含まず)。

厚生年金保険・国民年金事業月報のデータより作成

厚生年金の加入者数は、一定の規則性をもって推移しています。毎年4月に大きく増加し、それが年度中に逓減しています。これは、4月は、学校を卒業した新入社員が厚生年金に加入するため増加し、その後は、高齢者の退職によって逓減していくという感じでしょうか。

これが、2022年10月には、通常とは異なる大幅増加を示しています。これは、言うまでもなく適用拡大の効果でしょう。通常は、数万人の減少なので、それを考慮すると適用拡大によって35万人~40万人程度の方が厚生年金に加入したことになります。

次のグラフは、適用拡大の対象となる短時間労働者の推移です。短時間労働者は、週の労働時間が20時間以上30時間未満で、賃金の月額が8.8万円以上といった条件を満たす人たちです。

厚生年金保険・国民年金事業月報のデータより作成

短時間労働者の数は、徐々に増加してきましたが、2022年10月に16万人と大きく増加しました。ただ、厚生年金全体での増加数の半分くらいです。そうすると、残りの半分は、就業時間を延ばして週30時間以上とし、厚生年金に加入した方と推測されます。

それでは、次に厚生年金に加入した方たちの加入前の被保険者区分について見ていきましょう。

国民年金3号の推移

下のグラフは、被扶養者である国民年金3号の加入者数の推移です。3号の加入者数は、共働き世帯の増加に伴い、年々減少しており、特に4月は、夫が年度末に退職するケースが多く、それによって扶養から外れるために、他の月より減少幅が若干多めになっています。

厚生年金保険・国民年金事業月報のデータより作成

そして、2022年10月は、通常のトレンドより減少幅が大きく、10万人の減少となっていて、そのうち7万人程度が適用拡大による影響と考えられます。

国民年金1号の推移

今度は、国民年金1号の加入者数の推移です。こちらも、一定のパターンで推移しています。毎年4月は、学生が卒業し就職、厚生年金に加入するため大きく減少し、後の月は、20歳の誕生日を迎えた人たちが順次加入するために増加していくという構図です。

厚生年金保険・国民年金事業月報のデータより作成

そして、2022年10月は4万人の減少となりました。これは、雇用されて働いているにも関わらず、就業時間が30時間未満のため厚生年金に加入できなかった人たちが、適用拡大によって加入してきた結果でしょう。通常は4万人程度の増加なので、適用拡大の影響は8万人程度と見積もられます。

就業調整は行われたのか

上記のデータを見ると、今回の適用拡大によって厚生年金に加入した人は、35万人~40万人程で、厚生年金加入前の被保険者区分は、国民年金1号が8万人程、国民年金3号が7万人程と見積もられ、そうするとそのいずれでもない、未加入者(すなわち60歳以上の高齢者)が残りの20万人~25万人ということになります。

これは、下のグラフで厚労省が示していたものと、ちょっと異なります。理由はよく分かりませんが、今後出てくる情報に注目したいと思います。

出典:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律 参考資料集(厚労省)

また、厚労省の試算によると、今回の法改正で厚生年金に加入する人は45万人でした。すると、今回の厚生年金加入者の増加数は、これをやや下回るもので、それが就業調整による影響なのかもしれません。

しかし、それでも多くの人が就業調整せずに厚生年金加入し、就業時間をむしろ増やしているわけですから、そのような動きがこれからも広がっていくといいのではないかと思います。

それ皆さん、ごきげんよう!

おまけ:FIWAみんなのお金チャンネルで適用拡大についてお話しさせていただきました。よろしければ、ご視聴ください。


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