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適用拡大 >>追加試算ですよ

ちょっと前(今年の4月)のものですが、こんなものを見つけました。日本総研の西沢和彦氏のレポートです。昨年12月に社会保障審議会の年金数理部会に提出された、2019年財政検証の追加試算についての解説です。

追加試算については、今年の正月に下の記事を書きました。

追加試算について簡単におさらいすると、現行のマクロ経済スライドによる給付水準の調整だと、報酬比例(厚生年金)より基礎年金(国民年金)の方が調整期間が長くなり、給付水準の低下が大きくなるので、所得再分配機能が低下してしまう、という問題点が指摘されていました。

そこで、国民年金と厚生年金の間で財政調整を行うことによって、調整期間を一致させ、基礎年金の給付水準の低下を抑えようというのが、追加試算の目的です。

下の表が、追加試算による給付水準を示したものです。現行制度だと、報酬比例が2025年に調整終了し、2019年度からの所得代替率は0.8%ポイントの低下(25.3%→24.5%)で収まっています。しかし、基礎の方は調整期間終了が2046年になり、所得代替率は9.9%ポイント(36.4%→26.5%)も低下してしまいます。

一方、調整期間を一致させる追加試算だと、調整期間は共に2033年で一致し、基礎部分の給付水準が改善し、全体でも4.6%ポイント(51.0%→55.6%)の改善となります。

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西沢氏は、この試算結果に対して以下のようにコメントしている。

こうした試算結果が示す将来像だけをみれば、誰も反対しない夢のような案である。

いや、私は追加試算には賛成しないし、これは夢のような案でもありません!!

基礎年金の給付水準を改善する改革案は、追加試算の前にすでに示されているのです。それは、何度も言っていますが、適用拡大です。

下の表が、適用拡大を最大限に進めた場合の所得代替率の改善を示したものです。追加試算とほぼ同じ所得代替率の改善となっています。

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さらに、適用拡大は以下の点で、追加試算よりも優れています。

■ 非正規労働者のセーフティネットが充実する。
■ 国民健康保険から協会けんぽ、健康保険組合に移るので、国庫負担が減少し、基礎年金部分の給付水準が向上することによって生じる国庫負担の増加を相殺できる。
■ 社会保険料を負担できない生産性の低い企業が淘汰されることによって、国全体の経済成長につながる。
■ 正規、非正規にかかるコストに差がなくなり、労働市場がより公平となる。

それにもかかわらず、西沢氏のレポートでは適用拡大について全く触れていません。まさか、適用拡大は今般の改革で骨抜きにされた事業所規模要件の緩和で終わりってことはないですよね。

もしかしたら、追加試算も適用拡大も両方やれば良いということでしょうか。

しかし、適用拡大は経済界からの反発が予想されることから、一筋縄ではいかず、制度改革のためのリソースとエネルギーをすべてこれに集中させる必要があるのではないでしょうか。

下の日経の記事でも、追加試算を取り上げていますが、適用拡大については全く触れていませんね。

もしかしたら、西沢氏や日経は経済界の負担増に対して忖度しているのでしょうか。そんなことはないと思いますが、これからは、追加試算について取り上げる時は、適用拡大についての評価も是非して欲しいと思います。

また、追加試算以外に、給付水準の調整を着実に進めるための、マクロ経済スライドのフル適用を主張するのはよいのですが、それになぜ、支給開始年齢の引上げを加えないといけないのか理解に苦しみます。

給付水準の調整は、マクロ経済スライドのフル適用が実現すれば、十分なはずで、現受給者ともうすぐ支給開始年齢を迎える世代にとって有利となる支給開始年齢の引上げは、西沢氏が問題視する世代間格差を広げることになってしまうのではないでしょうか。

年金制度改革の柱は適用拡大ですから、私たちもメディアや専門家が理由も示さずに追加試算に世論を誘導することのないように注視する必要がありそうですね。

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