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山井センセイ、勘違いしていませんか?

11月22日に開かれた衆議院厚生労働委員会で、立憲民主党の山井氏が、再び在職老齢年金制度の見直しに対する異議を述べていました(下の動画のリンクで10番目に登場します)。

山井氏の主張していることは、前回(10月30日)と同じで、極めて近視眼的で長期にわたる年金制度の改革に必要な大局的な視点が欠けているものです(詳細については下の投稿をご参照ください)。

そして、今回の質疑の中で、山井氏が在職老齢年金制度(在老制度)について誤解を招くような発言をしているので、それについて指摘をしたいと思います。

在老制度見直しの誤ったイメージ

まず、誤解をしている(或いは誤解を与えている)部分というのは、質疑の中で使われた、今回の見直しによる影響を図示した下のスライドに表れています。

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このスライドは、動画のスクリーンショットなので見づらいのですが、この図を引用した新聞記事(10月31日東京新聞)に使われていたものが下の図です。

山井氏はこの図を用いて、「受給者全体のわずか1.5%の高所得者の年金を増やし、残り98.5%の低中所得者の年金を減額するもの」として、在老制度見直しを金持ち優遇と断じて反対している訳です。

しかし、この図は正しくありません。なぜなら、

(1)在老制度の見直しによって、所得代替率が低下する影響は、高所得者にも及ぶが、下の図では高所得者以外だけが影響を受けるように表されている。

(2)高所得者の「見直し前の年金額」は、その一部または全額が減額されているので、高所得者以外よりも年金額は低くなっているはず。そして、それが今回の見直しによって、高所得者以外の年金額に近づいていくものなので、図の点線で表されている凸型のイメージは誤解を招くものである

在老見直しイメージ

このように誤ったイメージ図を用いて、在老見直しに反対しても、どれだけの説得力があるのでしょうか。

見直しの基準額は平均的な年金額と賃金

ここで、在老制度について誤解を招かないように、もう一度基本から確認していきましょう。

在老制度(65歳以降の場合)とは、厚生年金の月額と賃金の月額の合計が基準額(現在47万円)を超えると、超えた分の2分の1が厚生年金から減額されるものです。

基準額というのは、年金と賃金の合計額に対して適用されるものです。

そして、今回基準額の見直し案として提示された「51万円」の根拠は、現役男子の平均月収(43.9万円)と、65歳以上の年金受給者の平均年金額(7.1万円)の合計額となっています。

現時点では、65歳過ぎても現役並みの収入を得ている方は少ないので高く感じるかもしれませんが、これから高齢者の就業がさらに進めば、年齢に関係なく、働きに応じて賃金の水準が決められるようになるかもしれません。

そうすると、年金と現役男子の平均月収の和である「51万円」を得ている人を、特別な金持ちと捉えることは、これからの時代にそぐわないのではないでしょうか。

また、在老制度で減額の対象となっている人以外にも、「お金持ち」の人はいる訳です。例えば、

・現役時代高収入で相当の資産を築いて既に引退している人
・相当の不動産収入や株式の配当収入がある人
・雇用されるのではなく、個人事業主として相当の収入を得ている人

給与所得者だけが高所得者として年金減額の対象となることは、あまり公平な制度とは言えないでしょう。

在老制度の見直しは、平均的な賃金収入と年金収入がある人が、年金減額の対象とならないようにし、繰下げ受給のメリットを受けることができるようにするもので、決して「金持ち優遇」という訳ではありません!

在老見直しによって賃金が抑えられる?

また、山井氏は、質疑の中で以下のような発言もしています。

日経新聞にも書かれております。51万円まで基準額を引き上げても、どうなるか。高齢者を再雇用する場合は、年金の水準も参考にしながら給料の水準を決めるのが一般的。この慣行が変わらなければ、働く高齢者の年金減額を緩和しても、企業側が給料を中期的に下げていく可能性がある。つまり、51万に上げても、年金増えるんだったら、給料カットしていいやって事で、結局給料が下がって、労働者の収入は増えない可能性もある。

元ネタの日経新聞の記事は見つかりませんでしたが、これは反対ではないかと思います。

そもそも、賃金は従業員の働き方や業務内容で決まるもので、年金の多寡によって決まるものではありません。

しかし実際には、厚生年金が月額10万円の従業員がいたとすると、会社は「年金が減額されるとイヤだろ?」と言い包めて、賃金を基準額の47万円を超えないように37万円するケースが多いはずです。この場合、基準額が51万円になれば、少なくとも賃金は41万円まで上がる可能性はある訳です。

同じく厚生年金の月額が10万の人がいたとして、この人は年金の減額は気にせずに自分の仕事に見合った41万円の給料をもらっていたとします。そうすると、基準額が47万円の場合は年金が2万円減額されて、総収入は49万円になります。

そこで基準額が51万円になれば、減額は解除され年金は8万円から10万円に増えますが、この時会社は「年金が2万円増えたから、給料を2万円減らしてもいいか?」なんて言えるわけがありません。正当な理由なく労働条件の不利益変更を行うことはできないからです。

そうすると、在老制度の見直しによって、労働者の賃金が抑えれられるという説は間違いで、ここでも山井氏は勘違いをしています。

適用拡大こそが改革の柱

質疑の中で山井氏は、低年金者のことも問題として取り上げていました。でも、低年金者の年金水準を改善するのに最も効果的なのは、厚生年金の加入対象を拡大する「短時間労働者の適用拡大」なのです。

山井氏はなぜ適用拡大に対してもっとエネルギーを注がないのでしょうか。在老制度の見直しを阻止することによって、所得代替率が0.1%プラスになるよりも、適用拡大の企業規模完全撤廃によって得られる効果(0.4%~0.5%)の方が大きく、適用拡大のさらなる拡大に繋がれば、4%ポイント~5%ポイントの改善が期待できるわけです。

在老制度の見直しの方が、「1%の金持ちのために99%の庶民が犠牲」という分かりやすいアピールができるのでしょうが、そんな近視眼的な空しい議論の仕方は止めて欲しいところです。

山井センセイに向かっていって欲しいのは、低年金者の給付水準改善を妨害する下のような業界団体です。

質疑の冒頭では、「年金を政争の具にはしない」と仰っていたのに、最後の方では、加藤大臣を論破できずに頭に来たのか、「在老の見直しを総選挙の争点にする」と息巻いていました。

繰り返しますが、在老制度だけを取り上げて年金改革を語ることは止めて下さい。政治家ならば、他の改革案も含めたトータルでの議論をして欲しいといます。


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