第6次環境基本計画案の目的に明記されたウェルビーイング

  昨年5月から連載を始めたnote拙稿に「いいね」のメッセージを送ってくださった方が4500を越えました。毎朝明治神宮参拝前に投稿していますが、読んでいて下さる方が増えていることは励みになります。

 昨日自民党本部で開催された日本ウェルビーイング計画推進特命委員会において、環境省から昨年5月から中央環境審議会で審議され、4月に閣議決定予定の第6次環境基本計画案について報告された。
 同計画は約6年ごとに見直され、現在の第5次環境基本計画は、同審議会の審議を経て、平成30年4月に閣議決定。地域資源を持続可能な形で活用し、自立・分散型の社会を形成しつつ、地域間で支え合う「地域循環共生圏」の創造を目指す方針を打ち出した。
 最も注目されるのは、環境基本計画の「目的」に、「幸福度」「ウェルビーイング」という言葉が初めて次のように明記されたことである。

<「環境保全」を通じた、「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」、「人類の福祉への貢献」>

 ちなみに、環境基本法第1条には、「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする」と書かれている。
 第6次環境基本計画のビジョンのキーワードである「循環」という科学と「共生」という哲学の2本柱を統合した「循環共生型社会」を目指し、地下資源依存から「地上資源基調」へ、環境負荷の総量を削減し、良好な環境の創出、個人と地域・企業の取り組みと国全体の経済社会の在り方、地球全体の未来を同心円として捉え、我が国の伝統的自然観に基づき、人類が生態系の健全な一員になって、人と地球の健康の一体化(プラネタリ―ヘルス)を目指している。

●地球の「3つの危機」
 「循環共生型社会」とは、環境収容力を守り、環境の質を上げることによって成長・発展できる文明、を意味している。人類は気候変動(年平均気温が観測史上最高)、生物多様性の損失(人間活動に起因し、過去の大絶滅より絶滅速度が速い)、汚染(世界の排水の8割は未処理のまま放出)の「3つの危機」に直面していることを踏まえて、第6次環境基本計画の基本方針として、将来にわたって「ウェルビーイング/高い生活の質(市場的価値+非市場的価値)をもたらす「新たな成長」を掲げ、「変え方を変える」6つの視点として、以下を提示している。

●「変え方を変える」6つの視点
①ストック重視:フローに加えてストックの充実が必須
②長期的視点重視:目先ではなく、長期的視点に立った投資が重要
③本質的ニーズ重視:供給者のみならず、国民の本質的ニーズへの対応が必
 要
④無形資産・心の豊かさ重視:高付加価値化のための無形資産(心の価値)
 投資の拡充が不可欠
⑤コミュニティ・包摂性重視:国家、市場、コミュニティのバランスが必要
⑥自立・分散型の追求:一極集中・大規模集中型の経済社会システムからの
 転換
 また、「政策展開」としては、以下の4本柱を提示している。

①科学に基づく取り組みのスピードとスケールの確保
②ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ等の施策の統合・シナジ
 ー
③政府、市場、国民の「共進化
④「地域循環共生圏」の構築による「新たな成長」の実践・実装
 さらに、環境・経済・社会の統合的向上の高度化のための6つの戦略として、以下を提示している。

①「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するクリーンな経済システムの構築
②自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
③環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
④「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康
 で心豊かな暮らしの実現
➄「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実
 装
⑥環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献

●ウェルビーイングの向上以前の問題一SDGsの目標間の関連性
 環境は人類の存続のための基盤であり、その上に社会・経済が成り立っている。環境負荷の増大により自然資本が臨界的水準を下回ることがあれば、人類の生存そのものが脅かされる事態となり、ウェルビーイングの向上以前の問題となる。
 この点について第6次環境基本計画案は、次のように指摘している。
 
「近年の環境危機の顕在化は、いわゆるSDGsのウェディングケーキの図に象徴されるように、経済社会活動が、自然資本(環境)の基盤の上に成立し、自然資本の毀損が経済社会活動に悪影響を及ぼすとの認識を世界的に定着させつつある」「今や環境と経済は対立、矛盾する関係ではなく、基盤である環境とその上で成立する経済は、いわば『同期』『共進化』していくべきものとなった」(第1部第1章の3)
「持続可能な社会、すなわち本計画でいう循環共生型社会の構築のためには、健全で恵み豊かな環境を基盤として、その上で経済社会活動が存在していることを前提に、経済の成長や社会基盤の質の向上等を主たる目的とした取り組みが環境負荷の増大につながらないようにすることが必要不可欠である」「自然資本が、臨界的な水準を下回る(人類の経済社会活動が地球全体または公害のように地域的な環境収容力を超えてしまう状態)ことになれば、そもそも人類の存続、生活の基盤を失う恐れがある」(同第2章の2)
「SDGsの目標間の関連性については、環境を基盤とし、その上に持続可能な経済社会活動が存在している」(同第2章の3)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?