AI時代に必要な4つの力と子育ての在り方

    AIとの本格的な共存時代を迎える子育てはいかにあるべきか。元リクルート編集者で、モンテッソーリ教師・家族カウンセラーの菅原陵子氏は、まず幼年期は「根っこを強くする」ことに徹するべきだと指摘する。「触ってみたい」「嗅いでみたい」など、子供の五感を強くすることが大切であり、子供が出会う体験は五感を深化させるチャンスと言える。
 親が「ついつい口や手を出してしまう」「ついつい答えを教えてしまう」などの過保護・過干渉がチャンスの芽を摘むことになることに十分留意する必要がある。中学・高校受験のカリスマ家庭教師の西村則康氏は、「家庭での会話やお手伝いが様々な化学反応を引き起こす」と指摘する。
 大切なのは、早期教育よりも「いつもの生活」であり、親は「何で?」と問うことを習慣化すると、子供は言葉を口に出すたびにその理由も探すようになる。それだけ深く思考する癖がつくのである。
 日常でのコミュニケーションはクリティカルシンキングを鍛える。それはAI時代に必要な「考える力」「伝える力」の基盤になる。今、難関中学校の入試では従来のように知識の蓄積を試すのではなく、思考力や創造力を試す傾向が強まっている。それを伸ばすのは日常でのコミュニケーションである。
 子供にはできるだけ自由な時間を与え、様々な体験を提供し、好きなことに没頭させることによって創造力が高まり、新しいことに挑戦する力が磨かれ、集中力が拡張し、「問題を見つけ課題を設定する力」が育つのである。
 本noteで何度も紹介してきた東大大学院の光吉俊二特任准教授(AIロボットPEPPERの音声開発者)や鄭雄一同大学院教授(医学と工学を融合し、道徳のメカニズムを解明)等が先駆的役割を果たしている「文理融合」が中学・高校・大学で進んでいる。
 簡単なプログラミング作業や事務作業はAIに任せ、人間はAIを使いこなす側に立ち、「問いを立てる力」や編集力・創造力・表現力などが人間に求められる。
 アルバ・エデュ代表理事の竹内明日香氏によれば、AI時代に必要なのは、第一に「問いを立てる力」である。共感を呼ぶプレゼンテーションのコツは「考える・伝える・見せる」の三つで、さらに「広げる(情報収集)・深める(問いを立てる)・選ぶ(情報を取捨選択したり、抽象化したりする)」段階を経て、「自分の意見を述べる」へと進む。
 「考える」段階では、自分の「好き」「思い」の力を信じ、「伝える」段階では、原稿は読まないで、聴き手を見ながら最後までよく通る声で伝え、「見せる」段階では、文字は少なく、自分の言葉で語ることが大切であるという。
 第二に必要なのは「創造する力」である。AIは過去の膨大なデータを参照して回答を出すが、関連の無い要素の掛け合わせは苦手で、意外な掛け合わせは人間しかできない。ゼロからの創造でなくても、今すでにあるものを掛け算や光吉俊二氏が発明した「四則和算」等によって新しい価値を創造すればよい。
 第三に必要なのは「つながる力」である。「つながる力」は、チームで各自が強みや個性を発揮しながら課題を解決する中で生かされる。AIにも共感性の再現は可能だとする見方もあるが、人間が五感を駆使して瞬時に発揮する「共感力」にはかなわない。
 第四に必要なのは「やんちゃの力」で、イキイキワクワクしながら常識の殻を破る力のことを指す。過去のデータを基にしたAIのまじめな回答には面白みがない。イノベーション(革新)は、はみ出した才能から生まれるケースが多い。「やんちゃ」も人間力の一つで、人間だから発揮できる力である。
 これらの四つの力を発揮するには「話す力」が重要になる。そして「話す力」を養う過程で強化される思考力、判断力、表現力、成功体験は、AI時代の子供たちにとって「生きる力」の土台になる。
 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を説得するにはロゴス(論理的に話す力)・パトス(熱意を伝え共感を得る力)・エトス(信頼される力)の3要素が必要だと説いた。これまでの日本の教育では、ロゴスが一部教えられているにすぎず、パトスとエトスはさらに弱い。
 何げない家族間の会話でも、自分を主語に、なぜそうしたいのか、理由や思いを伝えるように心掛けることが大切である。思いもよらない答えが返ってきたら、「面白い考え方だね」などと褒めると、子供は怖がらずに自由に自分の意見を表現できるようになる。話す力は、子供たちにとって「人生を切り拓く力」になるのである。

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