2030年に求められるスキル一AIが代替できないものは何か

 1998・1999年に行われた学習指導要領の改訂で導入された「総合的な学習の時間」は、教科横断的な学習を進めるための取り組みであった。学力低下論争やその後の「PISAショック」による影響、「総合的な学習の時間」に向けた事前の研究や準備、周知活動の不足などにより、その意義が十分に理解されなかったが、環境や国際、地域などのさまざまなテーマに沿った学習を教科横断的に行うことで、既存の各教科科目の学習との往還を繰り返す中で、それぞれの理解を深めていくという先駆的な取り組みであったといえる。
 2017・2018年に行われた学習指導要領の改訂では、「見方・考え方」を全ての教科・科目に設定している。「見方・考え方」は各教科などに固有の視点や考え方である。この「見方・考え方」については、学習指導要領の整理としては、資質・能力を獲得する上で「働かせる」ものであって、「見方・考え方」自体は資質・能力ではなく、従って、学習評価の直接的な対象ともしないことがあるとされている。
 一方、「エビステミックな知識」は、ラーニング・コンパスにおいては「知識」の一類型とされているが、「見方・考え方」と、内容的にはほぼ重なるものである。各教科が実社会、実生活にどのように役立っているのか、各学問分野の専門家だったらどのように考えるのか、ということは、「見方、考え方」と「エピステミックな知識」の、いずれもが目指すところである。
 ラーニング・コンパスにおけるスキルは、伝統的な認知的スキル、メタ認知スキル、ソフトスキル、非認知スキルなどと呼ばれる様々なスキルを含む概念として検討されてきた。伝統的に重視されてきたのが認知的スキルであり、知識と合わせて、狭義の学力と同義に捉えられることもある。
 一方、「21世紀型スキル」の動きが盛んになる中で脚光を浴びたのが、ソフトスキルや非認知スキルであり、このような多様なスキルをどのように分類し整理していくのかが課題となっている。
 とりわけAIの発達は、社会に対して大きな影響を与えるものである。それによって、そもそも人間の果たすべき役割とか、AIと人間がどのように共存していくのかということについても考えなければならなくなっている。
 特に重要になってくるのが、認知スキルの一つである創造性(創造的思考力)である。今後、AIによる仕事の代替がさらに進んでいくと考えられるが、その例外となるのが創造性を必要とする仕事である。現在のAI技術を前提にすれば、「新奇なアイディアや優れたアイディアを考えつくことができる力」や「創造的な方法で問題を解決する力」を必要とするような職業については、代替される可能性は低いといえる。
 AIの時代を迎える中で、メタ認知に関するスキルは、より重要になってくると考えられる。AIは特定の分野や領域については圧倒的な知識を有しているとしても、文脈や主観に基づいた情報を理解することができないし、また、不確実性があったり、曖昧な状態においては、十分に対応することができないからである。
 AIは特定の仕事を効果的に実行することはできるし、複雑さや不確実さにある程度対応していくこともできるが、目標や文脈が明確でない場合には、アルゴリズムがうまく働かず、機能停止に陥ってしまいかねない。その意味では、AIよりも人間の方が、より柔軟に対応していくことができると考えられる。
 今後より重要になってくるのは新しいスキルを継続的に獲得し、自らのスキルを常に更新していく力と「融合的スキル」である。「融合的スキル」とは、「創造性やアントレプレナーシップ(起業家精神)、技術的なスキルの組み合わせであって、新たに登場してくる新しい職業へのシフトを可能にするスキル」である。
 OECDによれば、「非認知スキル、ソフトスキル、性格スキル」などの社会・情動的スキル、すなわち「目標の達成、他者との協働、感情のコントロールなどに関するスキル」が求められており、個人内情動スキルと対人関係の社会的スキルの両面が統合的に捉えられるようになった。
 ゴールマンは「情動的知能」という概念を打ち出し、自己意識、自己調整、モチベーション、共感性、社会的スキルという5要素を挙げた。社会の高齢化が進むにつれて、ヘルスケアに対する需要が増大するすることが想定され、単に物理的なお世話をするだけでなく、気配りや社会性、高齢者に対する敬意などの社会・情動的スキルがより重要になると思われる。こうしたスキルは、AIによっては代替できないからである。


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