人生最大の危機を乗り越えた一年を振り返る

 大晦日の朝を迎えた。今年一年を振り返ると、9月に体調を崩し、生まれて初めて入院した。9月14日に様子がおかしいと感じたモラロジー道徳教育財団秘書室長が財団の車で私を渋谷の自宅マンションまで送ってくれた。
恒例の明治神宮ラジオ体操にも早朝から参加して普段通り出勤した私の急変の電話連絡が秘書室からあり、妻は大変驚いたという。
 5月から毎朝2時半ころに起床し、毎朝3時間ほどかけてnoteに4000字前後の論考を投稿し、73年間の人生で最も執筆意欲が旺盛で最も多くの文章を書いた充実した半年であったが、いま改めて振り返ってみると、8月31日から9月20日までは拙稿ではなく妻の詩を掲載しており、この3週間、体調を崩していたことが分かる。
 この間にも投稿したことがあるが、誤字脱字が目立ち、長い文章が書けず削除せざるを得なかった。進行中の出版計画も中止となり、自宅待機を命じられた。体調が改善する契機となったのは、9月21日に東大大学院の光吉俊二特任准教授が突然自宅を訪問され、「四則和算」の講義を熱く語られたことであった。
 元気のなかった私の心に光明が差し込み、火が付いた。「認知症」になったといううわさが周囲に一気に広がったために、病状に配慮して同日に開催された重要な会議の案内が送られてこなかったが、参加したところ、皆驚いた表情で、私の席に駆け寄り涙目で「良かったですね」と何人もから声を掛けられ、こんなにうわさが広がっているのかと私自身が驚いた。
 いつもと変わらぬ元気さで長時間発言したので安堵した様子であった。9月28日にも外務省で重要な会議に参加し、9月29日に職場での健康診断を受け、特に異常はなかった。9月30日には髙橋史朗塾で講義を行い、夜の懇親会にも参加し、体調に異常はなかった。
 9月21日以降、体調は回復したので、病院での検査を熱心に勧められたが、私も妻もその必要性を感じなかったので承諾しなかったが、職場復帰のためには検査を受けて客観的に証明する必要があると判断し、10月5日にMRI検査を行ったところ、頭蓋骨と脳の間に血がたまる「慢性硬膜血下腫」と診断された。膜の中の血を吸いとるか、頭全体を開いて血の入った膜全体を取り除くか、という手術の選択を迫られ、前者を選んだ。
 10月6日に入院し、血を取る手術を行った。手術後、溜まっていた血85CCを容器に入れ、「お持ち帰りになりますか?」と主治医から尋ねられたが、「置く所がありませんから」とお断りした。手術中、意識ははっきりしていたが、幼い頃から「大丈夫、大丈夫、必ず良くなる」と親から声をかけてもらったことが思い出されて、手術中不思議な高揚感に包まれて微笑を浮かべていられたことは、「もう何があっても大丈夫」という自信につながった。
 10月11日に、理学療法、認知療法、運動療法の検査を行い、ほぼ満点に近かったが、1問だけ迷い、3つの部屋に連れていかれていつもと違うエレベーターを使用したため、少し戸惑ったことが、診断書には「注意障害」「方向性障害」が見られると書かれて驚いた。しっかり診断してもらえれば「注意障害」も「方向性障害」もないことは明白なのに、病院に対する不信感がますます強くなった。
 11月6日にCT検査を行ったところ、少量の血が残っていたため、漢方薬を飲み、12月18日の同検査でほぼ完治と主治医から診断され、一件落着した。12月22日に5カ月ぶりに廣池理事長に面会し報告したところ、予定の昼食会
を快気祝いの会にしていただき嬉しかった。
 いま改めて振り返ってみると、手術前の時期にもかかわらず、9月23日から中断していたnoteの投稿を再開し、会議や講演も21日以降は全く異常なく行えたことは不思議なことであった。その意味でも21日の光吉訪問は運命的出会いであったと言える。
 私が代表者となってモラロジー道徳教育財団道徳科学研究所の共同研究として今年から始めた「ウェルビーイング教育研究会」の第2回研究会を10月13日に開催し、光吉氏の講演を予定していたため、11日の検査結果が悪ければ退院できない、という際どいタイミングであったが、幸い2日前に退院できてホッとした。
 第3回研究会には同大学院の鄭雄一教授から工学的アプローチによる「道徳のメカニズム」について講演していただき、同大学院の「道徳感情数理工学」講座の中核研究者であるお二人の「数理工学」という科学的視点から見た「道徳」論は実に斬新な画期的な内容であった。
 また、麗澤大学の「SDGsと道徳」という科目の特別講義を私と岸本吉生氏で担当させていただき、SDGsとウェルビーイング、「常若産業甲子園」について講義し、大きな反響が学生レポートとして寄せられたことも画期的なことであった。
 2年後にモラロジー道徳教育財団は100周年を迎えるが、こうした新たな研究成果を内外に問う企画を提案したいと考えている。3年間で髙橋史朗塾の基礎固めもできたので、来年からは、基礎講座と応用実践講座の2本立てにして、新たな視点に立ったウェルビーイング実践講座や常若実践講座、歴史教育実践講座、親学実践講座、「祈りプロジェクト」などに取り組んでいきたいと考えている。また、日本道徳教育学会と日本感性教育学会、日本家庭教育学会での共同研究発表にも取り組みたい。皆さん、良き年をお迎え下さい!
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?