ウェルビーイングを中核とした道徳教育の理論と実践の体系化・構造化

新教育振興基本計画の2大基本方針
 文科省の中央教育審議会は3月8日、次期教育振興基本計画に関する答申を取りまとめた。同基本計画は、教育基本法の理念の実現と、教育振興施策の総合的・計画的な推進を図るために、5年に1度策定される。
 今年度から始まる第4次基本計画では、基本方針の2本柱として、「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を提示した。
 今後期待したい人材の資質・能力として、「主体性」「リーダーシップ」「創造力」「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「表現力」「チームワーク」等を挙げた。
 また、「日本社会に根差したウェルビーインぐの向上」について、「多様な個人それぞれが幸せや生きがいを感じるとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるものとなること」で、「幸福感」「学校や地域でのつながり」「協働性」「利他性」「多様性への理解」「社会貢献意識」「自己肯定感」「自己実現」などを調和的・一体的に育成する。
 こうした内容を踏まえて、次の5つの基本方針を明示している。
⑴ グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
⑵ 誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
⑶ 地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
⑷ 教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
⑸ 計画の実効性確保のための基盤整備・対話

 「創り手」には社会の維持という視点ではなく、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」と定義されるagency(エージェンシー、「当事者性」「主役性」)の視点が組み込まれている。
 その背景にはOECD「学びの羅針盤」2030が示した羅針盤、すなわち児童生徒の知識、スキル、態度及び価値を発達させる中で、自らがウェルビーイングな望ましい社会の実現を目指して、「未来の創造に向けた変革を起こす能力・行動特性」(新しい価値を創造する力、対立やジレンマに対処する力、規範に照らして自らを律する責任ある行動をとる力)を身に付けていくという基本的考え方がある。
「個人と社会のウェルビーイング」の倫理基盤は何か
 他者や社会と関わる中で、自分の進むべき道や方向性、在り方を探求していくためには、「モラル・エージェンシー」(望ましい社会の実現を目指して変革を起こす倫理的基盤)が重要になる。
 教育目的としてウェルビーイングが提示され、「個人と社会のウェルビーイング」を実現するための倫理基盤が重要課題となっている。近代の学校は、経済成長の手段として位置づけられたが、経済成長のための「開発」が地球環境を破壊し、「持続不可能な社会」をもたらした。
 そこで、経済、社会、環境の基盤である文化の価値を創造的に継承し、「包括的成長」を図る枠組みとして「ウェルビーイング」の指標が提示されるに至ったのである。
 「誰一人取り残さない」「個人と社会のウェルビーイング」をいかに実現していくかが、教育方針の中核として位置づけられ、ウェルビーイングを中核とした学校教育、道徳教育が時代の要請となったのである。
 平成29年告示の学習指導要領に明記された「豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となる」という個人と社会のウェルビーイングという視点を第4次教育振興基本計画で踏まえつつ、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」という教育方針が新たに加わったのである。
 それ故に、「個人と社会のウェルビーイング」を実現するための倫理基盤は何か、「日本社会に根差したウェルビーイング」とは何かを明確にし、この視点に立脚した道徳教育の理論と実践の体系化、構造化を急ぐ必要がある。モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所の「ウェルビーイング教育研究会」並びに、髙橋塾で共同研究に取り組み、学会発表を積み重ねていきたい。
 
 

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