LGBT理解増進法論議に欠落している視点

欠落している「ジェンダー平等」論議
 LGBT理解増進法をめぐる5月12日の合同会議における推進派18名、慎重派11名の白熱した議論には「ジェンダー平等」についての本質的な議論が欠落している。自民党は平成28年、安倍政権下で発表した「性的指向・性自認の多様な在り方を受容する社会を実現するためのわが党の基本的考え方」の中で、「ジェンダー・フリー論とは全く異なる」と明記している。
 安倍政権下に策定された男女共同参画第2次基本計画においても「ジェンダーフリー」という用語は原案からすべて削除された。平成17年7月23日付読売新聞社説によれば、「政府が男女共同参画社会基本法の法案を作成する段階で、ジェンダー・フリーの視点は否定された」のである。
 男女共同参画は「男女の差の機械的・画一的な解消を求めているものではない」「『男らしさ』『女らしさ』や伝統文化などを否定しようとするものではない」「一部に、画一的な男女の違いを無くし人間の中性化を目指すという意味で『ジェンダーフリー』という用語を使用している人がいますが、男女共同参画社会はこのようなことを目指すものではありません」という政府見解が内閣府によって明らかにされている。
 平成18年1月31日付で「ジェンダーフリー」に関する上記の政府見解が発表され、「児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育」等は「極めて非常識」と明記された。
  これらの公的見解を踏まえる必要がある。男女の性差を解消して男女の逆転や中性化を目指す「ジェンダー・フリー」は男女共同参画社会の実現をむしろ阻害するものである。「性差別意識」の解消は必要であるが、我が国の教育界では「ジェンダーフリー」を性差意識の解消と誤解したために混乱が広がったのである。
先天的「セックス」と後天的「ジェンダー」の区別と差別の境界
 「ジェンダー」とは、「社会的・文化的に形成された男女の定型」を意味し、「セックス」に基づく「自然的・生物学的な性差」は先天的なものであるから解消できないが、後天的につくられた「ジェンダー」は社会的に解消できる。
 男女の区別と差別の境界については慎重に検討しなければならない。「ジェンダー」には積極的な意義があり、これが失われたら人間は生きていけない。ジェンダーフリー論者は女子差別撤廃条約を根拠に、男女の「区別」が「差別」につながると主張するが、男女を「区別」することによって子供の人権や個性が尊重され、アイデンティティーが形成されることも事実である。
 ところが、男女の性差は常に男性が支配し、女性が抑圧されるという敵対的な構造を持つというマルクス主義の理論が加わり、人間社会の至る所にある全ての現象に内在している「男女の定型」イコール「ジェンダー」を全て打ち壊し、男の女に対する「抑圧システム」からの解放を目指す「ジェンダーフリー」理論が出来上がり、過激な性教育団体によって推進されてきたのである。
 ちなみに、内閣府男女共同参画局の月刊誌『共同参画』昨年1月号の表紙には「フランス革命の次は日本のジェンダー革命だ!」という見出しが堂々と掲載されている。私は男女共同参画会議の有識者議員を4期8年務めたが、劇的な変化だ。
 男女の社会参加の「機会の均等」を目指す「男女共同参画」と「性差意識」の解消を目指す「ジェンダーフリー」を混同してはならない。長谷川三千子埼玉大学名誉教授は、SDGsが掲げる「ジェンダー平等」は「トンチンカン」な目標と厳しく批判し、「すでに本能の壊れかけた人類が文化的性差を手放したりすれば、やがて人類そのものが『持続不可能』となること必至」と警告している。
活動家や過激な性教育団体に悪用されないガイドラインの作成
 
当事者4団体の「修正理解増進法案についての抗議・要請書」が指摘した「性別セックス」と「ジェンダー」の混同という根本問題について「正しい理解」を増進するガイドラインを作成する必要がある。
 また、「性同一性」「不当な差別」の明確な定義を示し、女性の不安を解消し、マジョリティーに対する「逆差別」という人権侵害もあってはならない。
 髙鳥修一・青山繁晴・和田政宗議員は慎重・反対意見の方が圧倒的に多いのだから「部会長一任」に断固反対し、同合同会議は閉会後も「反対が多いのだから、一任はあり得ない」というヤジ・怒号が鳴りやまないという異常な幕切れとなった。
 安倍元首相はこの問題の政治的利用を強く懸念されたが、多くの議員が過激な活動家や運動団体に悪用される危険性を強調した。これに対して推進派の議員は「立法化によって活動家や運動団体の悪用に対する抑止力になる」と反論したが、そのためには「過激な性教育」をさせないための「正しい理解」のガイドラインを作成し、中教審答申に基づく「性教育の歯止め規定」を踏まえるよう明記する必要がある。
 


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