ウェルビーイングとは何か一論理・大局観・直観の3つの理解の視点から

 Well-beingとは、心理的・身体的・社会的に「良い状態」であり、Well-beingを決定する心理的要因は次の3つのカテゴリーに分類できる。

●Well-beingの心理的要因

⑴ I(個人的なこと)
 ●目標がある ●やりたいことができる ●自分だからできると思う
 ●自分を好きでいられる ●好きな本を読む、音楽を聴く
 ●読書やゲームに没頭する、など
⑵ WE・SOCIETY(他人との関係性や社会的なこと)
 ●感性を共有できる ●人に認めてもらえる ●頼れる友人がいる
 ●他者と認め合える ●家族を大切にする ●他人と自分を比べない
 ●あえて空気を読まない ●適度に一緒にいない、など
⑶ UNIVERSE(超越的な世界との関わり)
 ●世界が平和であること ●多様な価値観を受け入れる ●社会に貢献する
 ●世界の本質を追求する ●美しい景色を見る ●自然との一体感を得る
 ●アイドルやアーティストへの敬愛、など

●大学生のWell-beingに関するアンケート調査

  1300人の大学生アンケート調査によれば、全体の73%を占めたのは、「やりたいことができる」「おいしいものを食べる」「自分を好きでいられる」など「I」に属する要因。次に多かったのが、「家族や友人と過ごす」「人に認めてもらえる」など「WE・SOCIETY」に属するもので、24%であった。
 このカテゴリでは、他者との関わりを大切にすることを挙げる人がいる一方で、「他人と自分を比べない」「空気を読まない」など、他者と関わらないことを重視する人もいた。
 「UNIVERSE」に属する要因は約3%で、「自然との一体感を得る」など、大いなる存在を感じ、ネガティブな状態から解放されることに関する回答が多いのが特徴であった。
 さらに、一人が挙げた3つの回答を、3つのカテゴリの組み合わせとして比較すると、すべて「I」の要因を挙げた人(I/I/I)は、全体の37%、「I」の要因を2つと「WE・SOCIETY」の要因を1つ挙げた人(I/I/WE)は一番多く44%であった。
 全体の中で約6割の大学生は「WE・SOCIETY」の要因を1つ以上上げていた。つまり、半数以上の大学生が、自分が「良い状態」であるためには、他人との関係性が大切になると考えていることが分かる。
 また、回答終了後に得られた感想には、「自分のウェルビーイングについては、これまで考える機会がなく、深く考えるきっかけになった」という声が多くあった。他にも「周りの人と回答を見せ合ったとき、ウェルビーイングは人それぞれ違うという印象を受けた」など、自分と他人の違いに気づいたという感想も目立った。
 このように、ウェルビーイングを曖昧なまま考えるのではなく、その要因に分類することで、自分や家族、友人や同僚の「良い状態」をより具体的に捉えることができるようになる。

●「ロジック」「大局観」「直観」の3つの理解

 ウェルビーイングという言葉の語源は、「well(満足の)」と「being(本質)」である。満足の意味は今日1日の単位で考えるのか、人生全体で考えるのかという時間軸で変わる。今日の失敗は嫌なことであるが、人生全体で考えると「難が有ることは有難い」と感じられることもあるからである。
 戦後行われてきた国民生活選好度調査によれば、生活の満足度には変化はなく、戦争・貧困・病気の三大苦が大きく改善されても、意外なことに満足度への影響はなかったことが判明している。
 公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹氏は、「理解」には「ロジック」「大局観」「直観」の3つの形態があり、それぞれの観点で、ウェルビーイングとは何かについて考察している。
 「ロジック」によるアプローチでは、まずウェルビーイングを測、要因を分析する。測定に関しては、国連が毎年150以上の国・地域を対象に行っている幸福度調査の結果をまとめた「World Happiness Report」が参考になる。
 ちなみに、2019年の報告書では日本は58位であった。この調査における幸福度と最も関連が高いのは「1人当たりのGDP」で、収入や年収が上がるにつれて幸福度は上がるということになる。
 さらに関連度が高いものは2番目に「困ったときに頼れる人がいるか」、3番目に「平均寿命」、4番目に「自分の人生を自由に選べる感覚」と続く。しかし、こうした観点からウェルビーイングを理解するのは難しい。
 例えば、20世紀で最も研究された病である心臓病には、かかりにくい人の特徴として、「高収入」「友達が多い」「非喫煙者」など、マクロ、メゾ(マクロとミクロの中間)、ミクロを合わせて100個以上の要因が明らかになっている。
 それにもかかわらず、未だに発病する理由の半分も解明できていない。仮にすべての要因を理解しても、それらの相互作用が複雑すぎて制御不能になり、データを使って何かをしようとしてもモグラ叩きになるだけで、叩けば叩くほど新しい問題が出てきてしまうからである。そう考えると、ウェルビーイングをロジックとして理解することは難しい。

●京都の「間」を描いた狩野派の『洛中洛外図』

 では「大局観」でウェルビーイングを理解するアプローチはどうか。この手法を、狩野派が描いた『洛中洛外図』という絵画を例に考えてみると、京都の街を描いた本作は、橋や衣服、履物といった各「要素」は非常に細かく描かれている一方、絵画全体で見ると大部分が雲で覆われている。
 この不思議な構図の裏にあるのは、ある種の「ごまかし」で、日本の画家は、京都とは何かを要素ごとに分解して再構築することは不可能だと判断した。そこで、ビッグピクチャーとしての京都と、いくつかの詳細な要素を描き、その間を「間(ま)」として描いたのである。
 石川氏によれば、これは物理学者がよく使う手法で、両者をの間を行き来しながら現象を理解していくと、物の見方がやがてロジックから解放されていくという。

●人生100年を「春夏秋冬」として捉える

 そこで、石川氏は人生をビッグピクチャーとして「春夏秋冬」として捉え、100年の人生を25年ごとのビッグピクチャーに区切り、人生最初の25年は、肉体的に成長する「春」。次の25年は、精神的成長が進み、働きながら家族を扶養する「夏」。
 さらに、肉体的にも精神的にも成熟した「秋」になると、人生100年時代のの本番がやってくる。例えば、ノーベル賞受賞者たちが受賞のきっかけとなる研究を始めた年齢はおよそ40歳から50歳だと言われている。
 またアメリカで雇用を生んでいるベンチャー企業は、社会経験もスキルも人脈も築いた50歳前後の人間が創業していることが多い。50歳までに蓄えた力を使って、本当にやりたいことを始めるのがこの「秋」なのである。この時期に働いて築いたものが「冬」である75歳以降の自分を支える基盤となる。私は5日後に73歳になるので、「秋」の終わりから「冬」に向かっている時期といえる。
 3つ目は「直観」による理解である。「見ればわかる」が大切なこのアプローチでは、ロールモデルを見つけることが大切である。石川氏は『さんまのご長寿グランプリ』というテレビ番組に出ていたあるお爺ちゃんを観て「これだ」と感じたという。これが「直観的理解」で、日本的ウェルビーイングの「満足の本質」が閃(ひらめ)いたのであろう。
 「満足の本質」を直観的に理解する日本的ウェルビーイングについて考えるには、「和」と「能」から「日本的」とは何かについて考察する必要があるが、次のnoteでこのテーマについて論じたい。
 
 


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