新著の構成案と講演レジュメ

今月は教師を対象とした日本発ウェルビーイング教育の講演に力を注いでいる。全日本教職員連盟の第40回教育研究全国大会とモラロジー道徳教育財団の第60回道徳教育研究会(全国68会場で約1万名が参加)である。前者では「日本モデルのウェルビーイング教育」、後者では「感知融合の道徳教育一日本発のウェルビーイング教育と道徳教育一」がテーマである。
 前者の大会理念は「美しい日本人の心を育てる」、大会主題は「新しい価値を創造する力を育む教育実践」で、私は「我が国と郷土の歴史や伝統・文化への理解を深める学習指導」をテーマとする第一分科会の助言者として、山口・徳島・福岡の小学校教諭の実践発表について指導助言を行い、講演を行った。その内容については明日以降の本「ノート」で紹介したい。
 来月発刊予定の歴史認識問題研究会の研究誌『歴史認識問題研究』第13号に「日本発のSDGs・ウェルビーイング教育についての一考察⑵」(26頁)が掲載される。また、今年中に新著『ジャパン・ウェルビーイング(仮称)』をまとめ、来年1月にモラロジー道徳教育財団から出版する予定である。その構成案は次の通りである。

新著『ジャパン・スピリット』の構成案

第1章 なぜ、世界の価値観はウェルビーイング重視へ転換を始めたのか
 第1節 SDGsが抱える根本的課題
 第2節 SDGsを補完する日本の哲学・思想
 第3節 持続可能な社会実現の核となる「幸福を感じる心と力」
第2章 日本モデルのウェルビーイングとは
 第1節 日本人の不幸せ感の元にあるもの
 第2節 文化により異なる幸福の成り立ち一日本の文化的幸福観と集団的  
     幸福観
 第3節 日本の日常にあるウェルビーイング(神社、祈り、言葉、自然観
     感性、和など)
第3章 今日から始めるウェルビーイング向上
 第1節 人生における幸福のキーワードから実践の手がかりを探る(感
   謝、寛容、道を求める、調和、協調、志を立てる、幸せを感じる心)
 第2節 家庭教育とウェルビーイング(子供に幸福と生き甲斐、ポジティ
   ブな徳性を育てる)
第4章 自分よしの幸せから抜け出して、思いやり連鎖・幸せが循環する世
    界へ
 第1節 日本発、仲良く(平和に)幸せに(持続可能に)生きる知恵
 第2節 日本モデルのウェルビーイングの国際発信の在り方
 第3節 ウェルビーイングと道徳的な生き方の関係
第5章 特別対談「常若・志道和幸」「祈りプロジェクト」の国際発信
 ●田中朋清・石清水八幡宮権宮司との対談

最後に、前述した道徳教育研究会の講演レジュメを掲載する。

感知融合の道徳教育一日本発well-beingと道徳教育一  

                             髙橋史朗

<「感知融合の道徳教育」の先行研究>

⑴    学会発表(日本道徳教育学会8回、昨年の100回大会で「ラウンドテーブル」発表)

⑵    教育研究全国大会講演「日本モデルのWell-being教育」「SDGs・well-beingを日本発の「常若・志道和幸」教育として実践する一日本人の美しい心「志を立て、道を求め、和を成し、幸福を実感」する教育の試み」(全日本教職員連盟、令和5年8月5日、令和4年7月31日)

⑶    論文①「脳科学から道徳教育を問い直す一新たな道徳教育学の樹立を目指して」『モラロジー研究』84号、2020

論文②「感知融合の道徳教育についての一考察」『道徳教育学研究』創刊記念論文、同

論文➂「道徳性の芽生えを育む道徳教育の今日的課題一「臨床の知」と「科学の知」の融合一」『モラロジー研究』87号、2021

<先行研究とのつながり>

①    感性と知性を相互補完的に捉えた「情動学」の原点に立脚

②    脳科学などの科学的知見に基づく家庭・道徳教育研究会(事務局は日本家庭教育学会)及び「ウェルビーイング教育研究会」(事務局は道科研)の最新知見に立脚

③    「感知融合の教育」の6つの視点「感じる」「気づく」「見つめる」「深める」「対話する」「協力し働きかける」を「主体的・対話的で深い学び」の3つの軸に位置付ける(図参照)

④    SDGs・ウェルビーイングを日本の感性価値観から捉え直す日本発の感知融合教育の提唱(図参照)一モラロジー道徳教育財団HP「道徳サロン」拙稿連載30・43・54・60・62・66・67・69・73~76,78・79参照

1 感知融合の「常若・志道和幸」道徳教育の理論

 平成5年に通産省生活産業局が編集した「感性社会における企業、産業に関する研究会」報告書は、21世紀の社会は個人や企業が「感性」を重要な座標軸とする「感性社会」が展望されるとして、日本の「道の文化」や伝統技術等の「伝統的価値の再発見」が必要であると強調している。これを受け継いだ経済通産省は平成28年に「世界が驚く日本人の感性・価値観」のキーワードとして、「道を求め」「和を成し」「間を見出す」を提示した。

 自然から「間」を見出した日本人は、「和」を成すことを求めて、心(内なる自然)と体、そして体と環境(外なる自然)を一つにしようと努め、精神を磨き、身体感覚を整え、礼儀作法を生み出し、こうした「和」を目指す日本人の生活観の中から「道」を求める思想が生まれた。二律背反する欲求の間のニュートラルな状態に自らを置く感性が「間」であり、「道」とは、対立する感性を繋ぎとめ、心と体を整える価値観の体系といえる。

これをベースにして、SDGsを日本の「常若」思想で捉え直し、well-beingを「幸福学」とアドラー心理学で捉え直した、感知融合の「常若・志道和幸」教育の理論と実践の試みについて発表したい。アドラー心理学の中核である「共同体感覚」の3要素は「自己受容」「他者信頼」「貢献感」であり、ポジティブ心理学やwell-being研究で統計的に検証されている。

Sustainabilityを「持続可能性」ではなく、「とこわか(常若)の世」と訳した廣池千九郎150周年記念第12回地球システム・倫理学会学術大会の問題意識を継承し、古いものが新しいものに置き換わり、「常に若い」状態が保たれる「常若」という日本古来の持続可能な価値観、自然観に基づく「常若産業宣言」を採択した宗像国際環境会議の「常若」プログラムを授業実践に活かすことを試みた。

「幸福学」研究の第一人者である前野隆司慶応義塾大学教授は「幸せの4因子」として、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありにままに」を挙げているが、アドラーが提唱した共同体感覚の①創造的自己②目的論➂主観主義④対人関係論⑤全体論と深い関係にある。

幸福学の基礎は身体的・精神的・社会的に良好な状態であり、これらが調和するWell-beingの構成概念は、⑴身体面(生活のリズム等)、⑵心理面(幸福感、安心感等)、⑶社会面(対人関係等)、⑷自分の未来を創造する力(夢・目標等)に分類(図参照)される。⑴のリズム(律動)には、言葉、音楽、体操のリズムという意味と、「規律」という道徳規範の二つの意味が含まれている点に留意する必要がある。つまり、リズム運動が道徳規範の形成にもつながることを示唆しているといえる。

 ⑵の中核は幸福感であり、⑶の中核は「和」であり、⑷の中核は「志・夢・目標」である。この4つの視点を、髙橋史朗が提唱する「感知融合の教育」の6つの視点と融合させ、「主体的、対話的な深い学び」として構造化すると、次のように整理できる。

 縦軸がSDGsを「常若」思想を“継承“して「志を立て、道を求め」、横軸がwell-beingを「和を成して」共生さらに「共活」(共に違いを活かし合う)、「共創」(共に新しい秩序を創る)へと”発展“させ、両軸がクロスする点が「幸福感」である。また、「主体的な学び」は「感じる」「気づく」「見つめる」、「対話的な学び」は「深める」「対話する」,「深い学び」は「協働し働きかける」として構造化できる。

2 第4次教育振興基本計画の2本柱(図)と「個別最適な学び」「協働的な学び」

3 新学習指導要領におけるESDの位置づけと3つの実践課題(図)

      ⑴    ESDは何を目指すのか(図)

      ⑵    「ホリスティックESD宣言」(2007)一「伝統文化の交響的継承」「子     「子供たちに伝える前に前に、大人たちがESD文化を体現して生き        な   なくてはならない」➡「伝達」「交流」から「主体変容」へ(図)

4 脳神経倫理学が解明した道徳の神経基盤(図)と道徳性の3本柱(図)

⑴    道徳性の3本柱
⑵    ミラーニューロン(情動的共感)一道徳的心情
⑶  メンタライジング(認知的共感)一道徳的判断力

5 感知融合の「情動学」(図)

6 ポジティブ心理学・アドラー心理学・幸福学の共通点一ウェルビーイングの科学的研究

7 SDGs文化推進委員長に任命された石清水八幡宮権宮司

8 SDGsを補完する日本の哲学・思想

 ⑴    SDGsが抱える根本問題
 ⑵    SDGsを「常若」思想で捉え直す
 ⑶    SDGsの経済圏・社会圏の土台は生物圏(図)
 ⑷    生物圏の目標は「生命誌」の視点から捉え直す
 ⑸    社会圏の目標は「自然との和」の視点から捉え直す
 ⑹    経済圏の目標は「共同体との和」で捉え直す
 ⑺    「誰一人取り残さない」は「処を得る」「志を遂 げ」で捉え直す    ⑻「多様性に通底する価値」➡「対話」とは「対決」「試練」「変容」
⑼    「日本精神」の3本柱一①神道、②皇道、➂武士道(ブラッドフォード・スミス論文)
⑽    「王政復古の大号令」と十七条憲法
⑾    「天地の公道」(横井小楠)
⑿    「道理の媒介者」(天野貞祐)

9 SDGsからWell-beingへ一「地球倫理」とGNH・GDWの新たな指標(図)
  ⑴    廣井良典京大教授「地球倫理」(図)
  ⑵    内田由紀子(同)「集団的幸福」「文化的幸福」がWell-beingの日  本モデル(図)
  ⑶    日本文化から学ぶWell-beingの教訓(図)
  ⑷    まんが日本昔話はWell-beingの宝庫(図)

10 中村桂子「生命誌絵巻」から見た生命の連続性(図)➡生命に対する畏  敬の念のパラダイム転換➡「細胞死」を「理観」させる(図)➡南方曼荼羅の「異なるものの調和」(図)➡「翼と根っこ」を育てる(図)

11 大谷翔平「目標達成表」を支えている4つの精神と原田隆司(別紙)

  ⑴    志一夢・目的・目標
  ⑵    道一「守破離」の精神=「型」が磨かれた「技」の体系化が「道」  一「礼儀」、森信三「躾の3原則(挨拶・返事・整理整頓)
  ⑶    和一「思いやり」「仲間を思いやる心」「愛され・信頼される人間」「逆境との和(廣池千九郎「和の諸相」」➡堂安選手「逆境大好き」➡「和して同ぜず」
  ⑷    幸一「プラス思考」「運」「難有」➡「感謝」「ピンチに強い」

12 「幸せ4因子」のワーク(図)とWell-beingを「志道和幸」で捉え直した道徳授業(図)

13 「常若産業甲子園」の先駆的取り組み

 

 

 

  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?