鎮守の森に内在する普遍的哲学を活用した日本発ESD文化の国際発信

 グテーレス国連事務総長から「日本人がもっと哲学の部分を充足してほしい」と、石清水八幡宮の田中朋清権宮司に「SDGs文化推進委員長」就任を依頼されたという。依頼された背景について田中権宮司は次のように述べている。

「SDGs文化推進委員長」を国連事務総長から依頼された背景

<SDGsは、ともすればうわべだけのものになりがちです。それは、本質の哲学が明示されていないからです。世界の平和と持続可能性を考えたとき、日本の古来培ってきた鎮守の杜の知恵に内在する伝統的価値観や哲学を、教育や文化を通じて世界中の人たちと共有することが最も平和への近道ではないかと思っています。
 例えば、日本の戦国時代においても、武士たちはお茶の席に刀を持ち込むことは決してしませんでした。日本人の根底には、受け継がれてきた伝統と知恵を人と人との付き合いに落とし込んでいく和の精神が流れています。農耕文化を通して、自然の恵みをいただく中で育んできた、生かされていることへの感謝やおかげ様の心は、茶道や武道、和歌などの「道の文化」を生み出し、日本人の民族性、精神性を高めてきました。
 日本をはじめ世界中で神道の精神や神々をモチーフにしたアニメである『君の名は』やジブリなどの作品が流行しました。日本の各地には、町や村の中心に鎮守の杜があって、ご先祖様がつないでくれた文化が、人々に仲良く幸せに生きる知恵を与え、さらに温故知新の思想を以てアップグレードしながら、過去から現在へ、そして次の世代へとつなげてきたのです。そうした文化の連続性の本質にあるのが親から子への「愛」です。
 現代において世界中の人たちが求めている本質的な価値は日本の哲学であり、それは世界と共有が可能です。神道的な概念というのは、日本独自のものではなく世界中の人たちが共感できる信仰以前のものです。宗教というから対立的に捉えてしまいがちですが、哲学だと考えれば、世界の国々と通じ合っていくことができます。>

ユネスコESD国際会議の「ホリスティック・アプローチ宣言」

 ユネスコESD(持続可能な開発のための教育)国際会議では、伝統と近代、グローバリズムとナショナリズム、普遍性と特殊性の歴史的対立のディレンマを克服し、二つのベクトルの交錯と接合による和解への未来志向について協議が行われ、経済、社会、環境の3本柱の土台は文化であることが明らかにされた。
 また、伝統的な知恵や技能か、近代的な知識や技術化という二律背反の思考にからめとられることなく、伝統と近代の「あいだ」や「かかわり」を丁寧に見ていくことによって、伝統文化と近代技術の融合の象徴として、南太平洋諸島の団扇(うちわ)が紹介された。
 そして、同国際会議は「ESDへのホリスティック・アプローチのための宣言」として、次のように指摘した。

<現代社会へ単に適応させるために教育するのではなく、何が子供の全人的な発達のために適しているのかを注意深く考え、学びの環境をデザインしていくこと…社会の開発に適した子供(人材)の育成ではなく、子供の成長に適した社会の開発を求める…文化的多様性を維持することが、ESDにとって力強い基盤となる。…伝統文化を、現代のグローバルな社会の現実を踏まえて創造的(交響的)に継承していくためには、その文化の最善のものと克服すべきものを見極めていく眼を持つことが大切である。…子供たちに伝える前に、大人たちはESD文化を自ら体現して生きなくてはならない。そのような大人の存在そのものが、子供の存在を育てる。>

●ユネスコシンポ最終公式声明「文化の多様性と通底の価値」

 さらに、ユネスコ創立60周年記念国際シンポジウム「文化の多様性と通底の価値」の最終公式声明は、次のように指摘した。

<対話のための理想的な場としての「道』の概念は、ユネスコに事業により長い時間をかけて育成されたものである。「和」の概念とは、「異なるものの調和」であると同時に、「和解に基づいた平和」を意味するものであり、「和して同ぜず」とは同化するすることなく調和することを意味している。これらすべての価値は人類社会の共有遺産と言えるだろう。対話とは対決であり、試練であり、変容であり、通底する価値に身を投じるための手段である。中でも協調すべきは、対話の持つ改善力である。>

このシンポと公式声明をリードしたユネスコの松浦晃一郎事務局長(当時)は、「対話と交流は、相互の受容、両者間の互恵が前提」と述べているが、「美しい日本人の心」の根底にある「和」の精神と「道」の文化をユネスコに導入し、ユネスコ事業に生かしてきた先人の長年の積み上げがあったからこそ、事務総長から「SDGs文化推進委員長」に依頼されたのである。
SDGs文化推進や「主体的対話的で深い学び」「多面的多角的思考」などにこの「和」の精神と「道」の文化、「多様性に通底する価値を探る」ことの実践化が私たちに求められていることを肝に銘じたい。

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