見出し画像

『僕らの力で世界があと何回救えたか』上演台本

はじめに

2019年にタカハ劇団で上演された『僕らの力で世界があと何回救えたか』の戯曲を公開しています。
「横書きだと読みにくい!」「脚本のフォーマットで読みたい!」という方は、記事の最後にPDFファイルを貼り付けておきますので、そちらをダウンロードして下さい。

※戯曲の著作権は高羽彩に帰属します。この戯曲を許可なく掲載・上演することを固く禁じます。掲載・上演に関するお問い合わせはタカハ劇団 info@takaha-gekidan.net まで、お問い合わせ下さい。

あらすじ

元アマチュア無線部の三人が、9年ぶりに母校で再会する。
薄暗い校舎、今はもう廃部になってしまった無線部の部室の片隅で、
古ぼけた無線機から懐かしい声が聞こえてくる。
それは9年前に失踪したきりになっていたもう一人の部員、リョウタの声だった――

ともだちがいなくなった。
いなくなったきり、みつからなかった。
ともだちの不在をおきざりにしたまま、僕らはおとなになった。
でも最近おもう。
ほんとうにおきざりにされたのは、僕らだったのかもしれない。


登場人物

朝利(あさり)
板垣(いたがき)
望月(もちづき)

池谷(いけたに)
生島(きじま)

横内(よこうち)
ゆうきかおり

朝利祐子(あさりゆうこ)

舞台設定

太平洋側の湾に面した、小さな漁村――沖浦市。
そこにある夜の高校。
校庭に面した窓からは簡素な町並み、さらにその先に海が見える。
湾には「沖島」が浮かび、その上に「沖浦市沖島アジア高エネルギー加速器実験機構」通称、「研究所」がそびえ立っている。
時折、研究所から実験開始を告げるサイレンが聞こえ、警告灯が光る。  

〇オープニング

暗闇。
どーーーーっという、地響きのような波音。
広大な空間にひしめき合う風の音。
それらが、真夜中の海辺に一人立っているような、心細い気持ちにさせる。
雨合羽の人々が、水面にライトを当てながらなにかを探している。
暗闇に舞う、黄色いレインコート。
風に揉まれるうち人の姿になる。
風に翻る裾。
それを見つめるように、朝利が呆然と立ちつくしている。

朝利「こう……棒があるんです。はい、(手で示し)棒です。それでその両端 に、黄色いレインコートを着た人と、俺が立ってるんです。で、よくわかんないですけど(言い直して)変なんですけど、俺はもうわかってるんですね。もうすぐ、どっちかが落ちて死ぬって。それで…………。ホッとするんです。よかったあって。俺が落ちれば、彼は死ななくてすむんだって。なんだ、よかったって」

朝利、倒れ込むようにして、
暗転。


〇1.市役所公用車内


雨降る夜道。
運転席に横内、後部座席にゆうきが乗っている。
時折、街灯が二人の頬をかすめていく。
横内の携帯が鳴る。
横内それを気にし舌打ちするが、出ない。
携帯鳴り続ける。

横内「(人当たりよく)いいんですか?」
ゆうき「え?」
横内「よかったんですか? こんな遅くに」
ゆうき「あ、いや、お願いしたのこちらですし。すみません、わざわざ駅まで。これ公用車ですよね」
横内「そんなたいしたもんじゃ(笑)」

車体には「沖浦町」の文字。

横内「この時間になるとね、もうバス無くって」
ゆうき「あ、ですよね」
横内「すみません田舎で。吃驚するでしょ? 東京は凄い遅くまでバス走ってますもんね。電車もね。この辺はね、外出ようと思ったらもう車しかなくて。自家用車かバス。バスはこどもたちの帰宅時間にあわせて終わっちゃうでしょ。いやぁ~東京は便利でいいなあ」
ゆうき「あー、便利みたいですね」
横内「え?」

携帯の音途切れる。

ゆうき「普段あまり、電車もバスも」
横内「ああ! そうですよね! 先生ですもんね!」
ゆうき「ただの引きこもりで」
横内「何言ってるんですか先生!」
ゆうき「いやいやいや(気恥ずかしくて)」
横内「でもね……ふふ。駅出来るんですよ、沖浦にも」
ゆうき「そうなんですか」
横内「来春ですけどね。本当は研究所の稼働スタートに会わせて駅も開業したかったんですけど、ちょっとずれちゃって」

研究所のサイレンが遠くで聞こえる。
木立の隙間から研究所の灯台が見えるので、
ゆうきはそれを必死で目で追う。

ゆうき「あれ……」
横内「あ、見えました? アレがアジア高エネルギー加速器実験機構ですよ。立派でしょう? あの研究所のおかげでね、沖浦は生まれ変わるんですよ」
ゆうき「へえ……」
横内「やっぱアレですか? 作家先生って言うのは、皆さんずっとおうちにいらっしゃるんですか?」
ゆうき「いや、そんなことないですよ。私が引きこもりなだけで」

横内の携帯鳴る。

横内「(電話出て)はい横内。今運転中。(電話切ろうとするが)運転中だって。いや切る気ないなら『今電話よろしいですか』って聞くなよ、マニュアル人間が。いいよ、なに。……いや運転中だけど。え、じゃあ切るよ? なんだよ! どうせ喋るんなら『運転中なのにいいんですか?』って聞くなって! ……うん。組合がまだごねてんの? いやそれはさあ、現場でなんとかしてよ。今俺に言われたってなんにも出来ないよ。ちょっと、次長に代わって」
ゆうき「明日から運転開始ですっけ」
横内「え? そうですよ? 試運転はもうやってるみたいですけどね。サイレン聞こえましたでしょ。(電話に向け)あ、もしもし? うーん。岩見さんには連絡した? いや、しろよ~。組合との間にはあの爺さんに入ってもらってるんだからさ。寝てるんだろどうせ、年寄りだから。起こせばいいだろ、こっちだって金払ってるんだから。……とにかく、そっちのことはたのんだから。明日、会場に組合の連中がずらりなんてことだけは勘弁してよ? はい。はーい」

横内、電話切る。

横内「すいませんね、どうも」
ゆうき「何か問題ですか?」
横内「いえいえいえ! これから我々市職員をはじめ、住民一丸となって沖浦を盛り上げていきますから! ゆうき先生みたいな人気の作家先生にご協力いただけて本当に嬉しいですよ!」
ゆうき「いやそんな、何も出来ませんよ?」
横内「またまた。明日の市長とのトークイベント、チケットの売れ行き凄くいいらしいじゃないですか! 東京からも若いお客さんたくさん来られるみたいで! ライトノベルって言うんですかね? 最近は凄い人気なんでしょ? おかげさまで、明日のサイエンス祭は、大成功間違いないってもうみんなで浮かれちゃって!」
ゆうき「あの、イベントの後は」
横内「あ、もちろんお約束通り、研究所の取材は手配してありますから! じゃんじゃん取材して、じゃんじゃん書いていただいて! 沖浦を舞台にしたアニメなんか出来たらいいじゃないですか!」
ゆうき「そんな期待しないで下さいね?」
横内「いやでも、ライトノベルって、アニメになる小説なんですよね?」
ゆうき「ええ?」
横内「うちの観光課なんか大盛り上がりですよ! いや楽しみだなぁ!」
ゆうき「全部がアニメになるわけじゃ」
横内「ええ? ライトノベルなのに? さすが、うれっこになる人は姿勢が謙虚ですね! アレ、あの人とかにやってもらったらいいじゃないですか。ハヤオ」
ゆうき「ハヤオ?」
横内「宮崎駿」
ゆうき「いや、ハヤオはラノベ、やらないんじゃないですかね?!」
横内「ええ? やればいいのにね、ハヤオも。そろそろ新境地開拓したっていいでしょう。いい年なんだから、いつも同じような絵のアニメばっかやってないで、ねえ?」
ゆうき「……そうですね(めんどくさくて)」
横内「明日、取材の前に、祭もご案内しますよ。アイドルちゃんも呼んでますし、テキ屋もたくさん来ますし、町民が有志でイベントブースやってたりしますから、科学っぽい感じの!」
ゆうき「科学っぽい感じ」
横内「まさにこの沖浦が科学の町として生まれ変わる! そういう様子も是非、作品に盛り込んでいただいて」
ゆうき「がんばります……」

再び横内の携帯に着信。

横内「はい横内。だから運転中だけどいいよって! なんで起きねえんだよ! 死んでんじゃないの? いやもうさ、それは合意済みじゃない。その一点で押すしかないよ。明日の祭でなんかあったら損害賠償ものだよ? そういえって。向こうはごねたいだけなんだからさ……うん……うん……」
ゆうき「あの、ほんとに大丈夫なんですか? 電話、運転」
横内「ああ、もうこの時間は誰も通りませんから。狸とか、猪ぐらいで」

と、横内急ブレーキ。

横内「わっ! なんだよ! すみません!」
ゆうき「あ、いえ……」
横内「(電話に)ああ、なんでもないっ。すぐかけ直すわ!」

横内、引き続きゆうき車外へ。
ビニール傘から雨が滴る。

横内「ああ……狸だ」
ゆうき「……」
横内「どうします?」
ゆうき「ええっ……」
横内「まあいいか……」

横内、狸の死骸を拾おうとしゃがむ。
と再びサイレン。
研究所の灯台が光る。
ゆうき、灯台を見つめる。

ゆうき「あんな小さな島に……」
横内「(狸はほうっておいて)秘密基地みたいでかっこいいですよね! あの沖島から、世界的な発見がじゃんじゃんされるんですよ! 燃えませんか? 作家先生として! どうですか!」
ゆうき「そうですね」
横内「さ! 行きましょう! 会場はこの先の沖浦高校になってます。設営の取材がなさりたいってことでしたら、作業時間の終わらないうちに!」
ゆうき「はい」

横内、再び狸の死体をかたづけようとして、

横内「あれっ!」
ゆうき「どうしました」
横内「狸、いなくなっちゃいましたね。驚いてひっくり返ってただけかあ」


○2,沖浦高校:無線部部室


研究所の、妙に間の抜けたサイレン音が聞こえてくる。
古い机が乱雑に積み上げられた教室。
朝利、板垣、望月、池谷が居る。
朝利、ガラクタの山を漁っている。
校庭からは、祭の会場を設営している音、
ステージ音響をチェックしている音などが聞こえてくる。

校内放送「サイエンス祭実行委員会よりお知らせです。校内に残っている女子生徒は、十時までに、完全下校してください。ただいま、正門、西門、中央階段、体育館渡り廊下は資材搬入専用通路となっております。風紀委員会からお知らせです。本校在校生は、作業時学校指定ジャージを着用して下さい。繰り返します……」

強い風に窓枠が揺れる。
池谷は、妙なコードの出た小箱を手にしている。

望月「職員室」
板垣「ダメだよ」
望月「あの、アレは? 実験室」
板垣「きーびしいんじゃないかな?」
望月「図書室」
板垣「ダメダメ」
望月「保健室」
板垣「ダメ」
望月「トイレ」
板垣「ダメだろ(笑)」
望月「男子トイレだよ?」
板垣「あー……」
池谷「いやダメでしょ。バカか」
望月「え~」
池谷「トイレにこんなもん(小箱)置いたら、あんたたちそれ盗聴だよ?」

板垣、望月、「やれやれ」と顔を見合わせる。

池谷「なに」
望月「いや先輩、そこから?」
池谷「は?」
望月「板垣ちょっと説明してよ~」
板垣「いや俺言ったけどな(笑)」
望月「言ってたけどね、さっき」
板垣「わかりやすく説明しますけどね、それは、発信器」
池谷「ええ?」
板垣「そこから発信した電波を、こっちのアンテナで拾うの」
望月「出すだけだから。集音器ついてないでしょ」
板垣「集音器ってのはマイクのことね」
望月「見ればわかるけど」
池谷「……(憮然)」
望月「なんでそれで盗聴って発想になるかな。オタクねー」
池谷「オタクって言わないで」
望月「無線ってモノを根本から理解してないでしょ」
板垣「偏見があるし」
望月「ある。無線なんてやってる人間は盗聴趣味の特殊性癖嗜好者なんだわキモーい」
池谷「おもってないよ」
板垣「よくないなそれは。教育者としてよくない。正すべき」
池谷「いたがき」
板垣「はい、すいません」
池谷「とにかくトイレは無い」
望月「はぁ~(ため息)」
板垣「悪いね、どうも」
池谷「早く決めないと。明日十時にはお祭りスタートしちゃうんだからさあ」
朝利「あったあったあったあった!」
望月「あ、マジでマジでマジで?」

板垣と望月わらわらと朝利によっていく。
朝利、ガラクタの中から無骨な無線機を取り出す。

朝利「アイコムのIC―720~!」
板垣・望月「おお~」
池谷「ねえ、ちょっとぉ~」
朝利「(埃を吹く)ふぅっ! ふぅっ! ふぅっ!」
板垣・望月「やめろやめろやめろ」
朝利「これ繋いでいいんだよね?!」
板垣「ああ、大丈夫なはず」
望月「(何かを喋りたそうだがむせている)」
朝利「うぇ~い(配線をなにやら弄り始める)」
板垣「動けばね」
朝利「これもうほとんど化石だろ~」
望月「(会話に加わろうとしているがむせている)」
朝利「(配線しながら)アンテナは?」
板垣「屋上」
朝利「そっちもまだ生きてんだ~! 激アツ~! マイクは?」
板垣「それ使っていーよ」
朝利「イヤホン? スピーカー?」
板垣「スピーカーがいいよ」
朝利「この時間だとどうだろな~」
板垣「マサさんとかいっちょんちょん(144)あたりでラグチューしてないかな」
望月「(咳き込みながらも会話に加わりたそうなので)」
板垣「なになになになに~」
朝利「テンション上がるよねぇ!」
望月「き…かん…しえん……」
板垣「離れろ離れろ離れろ」

三人、埃を避けるように散らばる。
朝利、窓を開ける。

朝利「あ、雨だ……」
池谷「えー」
   
校庭からポップミュージックのイントロが聞こえてくる。

朝利「あ、もしかして吉峰蘭来んの?」
望月「え、マジ? どこ!」
朝利「今はいないよ(笑)」

朝利、窓を閉めるが、望月はそのまま外を見ている。

望月「気合いはいってんなー。後輩諸君走り回っちゃって」
朝利「ステージなんか作っちゃってー」
望月「アレ外注業者?」
板垣「学校行事じゃないからね。沖浦上げての一大イベントだもん」
望月「外人増えたな」
板垣「今このへん仕事あるもん」
朝利「電源入れるよ」
池谷「いやちょっと」
朝利「(おおげさに)はい~?」
池谷「これどうすんのって~」
板垣「あ~」
望月「じゃあ、屋上は?」
朝利「入れまーす」

と、スピーカーから大音量で雑音。
全員驚く。

池谷「なに!」
望月「おい~」
朝利「(ボリューム下げて)ごめーん」
望月「初歩的ミス~」
板垣「ちょっと~鈍ったんじゃないの?」
朝利「しばらく運用してなかったからな。ゴメン、しばらくはヘッドホンでいい?(自分のカバンからヘッドホンを出す)誰か見つけたら教えるから」
板垣「うん」
朝利「えー……CQCQCQ、(以下、周りの台詞の進行にかまわず続ける)。こちらJA2YPN、ジュリエット、アルファ、トゥー、ヤンキー、パパ、ノベンバー。どなたかいらっしゃいませんか? こちら、沖浦高校アマチュア無線部です。CQCQCQ、こちらJA2YPN、ジュリエット、アルファ、トゥー、ヤンキー、パパ、ノベンバーです。9年ぶりの運用です。どなたかいらっしゃいませんか?」
望月「だから、屋上」
池谷「え?」
望月「屋上はおけないんですかって」
池谷「ダメダメ。屋上なんか。立ち入り禁止。なんかあったとき責任問題んなる」
望月「いやちょっともぉ~。やめる?」
池谷「ええ?」
望月「先輩が、学校からもなんかサイエンスっぽい出し物しないといけないって言うから、わざわざ帰ってきたんだよ? おれたち。もうちょっと協力的な態度見せてもらえないとさ」
池谷「……」
板垣「まあまあまあまあ」
望月「板垣も、安請け合いしちゃって」
板垣「校長に言われちゃったら、俺らだって、ねえ?(池谷に)」
望月「先輩も、すっかり丸くなっちゃって」
池谷「ええ?」
望月「教師の言うことなんてとりあえず意味が無くても反抗してたのに」
池谷「意味なくはないよ」
板垣「そこはほら俺たちも仕事だからさ。ねえ?」
望月「お前は変わらんね」
板垣「え?」
池谷「……それは?」
望月「あ?」
池谷「朝利君のやってるそれは? 凄いなんか、無線って感じでかっこいいじゃん。それをさ、祭にきた子供達にやらせれば?」
望月「だから、無線機の運用は資格がいるんだって。逮捕されるよ? え、ホントにちゃんと説明した?」
板垣「いや、俺言ったけどなあ」
望月「だから、免許がない素人でも出来る、発信器探しゲームやりましょうってはなしになったんでしょうが。なのに発信器置く場所がないってさ、正直疑うよ? やる気を。俺の有休なんだと思ってるわけ?」
板垣「まあまあまあまあ。(朝利に)どう? 誰かいた?」
朝利「んー、ちょっとわかんないなぁ」
板垣「みんなやめちゃったのかなぁ」
朝利「まあ、俺たちもこの9年ろくに運用してなかったしね。あ、じゃああれやる?」
望月「ん?」
朝利「ミニFM」
望月「うわなっつ!!」
朝利「(歌)えっふえむ。おーきうらこうこう~」
板垣「うわやめて恥ずかし~」
池谷「なにそれ」
板垣「(照れながら)いや、無線部でね、法に触れないレベルの微弱電波をつかってラジオ番組作ってたのよ」
望月「だいたい半径50メートル圏内ぐらいで。生放送、放送時間未定で、誰も聞いてねーって言う(笑)」
朝利・板垣「(歌)えっふえむ。おーきうらこうこう~」
池谷「いやだから何それ」
望月「番組オリジナルジングル」
朝利・板垣・望月「えっふえむ。おーきうらこうこう~。88メガヘルツ~。俺たちの~言葉伝える~。青春は~行き過ぎる光ではない~(終わりそうで終わらない不安定なメロディー)遠き今日も輝き続ける~めあて星~」
池谷「うるせーしなげーし」
板垣「あ、長い?」
池谷「ジングルでしょ?」
朝利「みんなの意見取り入れてったらどんどん長くなっちゃったんだよね」
望月「めあて星~のところは、エレカシリスペクトね」
池谷「なんか、メロディーも聞いてて不安定になるしさぁ」
板垣「え、そう?」
池谷「凄いセンスだね」
朝利「いいじゃんやろうよ! 沖高FM! 生放送で祭の実況してさ」
板垣「おお!」
朝利「各ブースから代表者にゲストで来てもらって、出店内容とか説明してもらって」
板垣「いいじゃんいいじゃん」
望月「ああ~この合い言葉を言ったらクレープ半額~みたいなことする?」
板垣「これ結構いいんじゃない?」
池谷「それってどうやって聞くの?」
板垣「トランシーバーで」
池谷「いや持ってないじゃんだれも」
望月「もちろんラジオでも聴けるけど」
池谷「いやだから、持ってないでしょいまどき」
朝利「じゃあ、学校のスピーカーから流す」
池谷「それただの校内放送じゃん。あくまで無線部としてさ、科学体験的なイベントにしてもらわないと」
朝利「校内放送だって、広義で考えれば無線と関係ないと言えないこともないわけなくもない」
池谷「はあ? とにかくダメだよ。校内放送は、放送委員の子達がなんかで使うって言ってたし」
板垣「ああ、そうね」
望月「嘆かわしいね~。こんだけ学校上げててんやわんやしてるのに、現役生からは科学系イベントの出店いっさい無しか」
池谷「しょうが無いじゃん、いまどき」
板垣「無線部もとっくの昔に廃部になっちゃったし」
望月「サイエンス祭が聞いて呆れるよ」
板垣「間に合わせだもん」
朝利「(無線機弄りながら)青春は~行き過ぎる光では無~い~、遠き今日も輝き続ける~めあて星~、ブル~スプリ~ング~」
池谷「まだ続くの?! その曲」
朝利「いいじゃんやろうよ~俺たちだけでもさあ~」
望月「余裕があればね」
朝利「やったー! リョウタって、連絡取れてないの?」
池谷「え?」
板垣「そりゃ、取れてないけど……」
朝利「何してんだろあいつ。リョウタがいればね、もうちょっとやりようあったかも知れないよね。簡易アンテナ立てて、電波のカバー範囲広げたりしてさ。あいつたしか第二級陸上無線技術士もってたでしょ?」
板垣「ああ、そうね……」
朝利「なにしてんだろ、まじで。SNSとかも全然やってないみたいだしさぁ。まさかマジで無線一本で乗り切ろうとしてるとかないかな? ありえるよね~、あいつのことだったらさ~」
望月「ま、そうだな」
池谷「……」
朝利「あ、見つけた!」
   
板垣、望月、無線機に駆け寄り、

板垣「だれ?!」
望月「マサさん? 知ってる人?!」
朝利「や、外の、スタッフさんたちのインカム」
望月「ちょ、聞かせろ!」

朝利、ヘッドホンの片耳をひっくり返して、望月そこに片耳つける。

板垣「俺も俺も!」

朝利、もう片方もひっくり返して、そちら側に板垣耳をつける。
(三人の顔が団子のように連なった状態)

板垣・望月「おお~……」
朝利「いや俺が聞けないわ!」

朝利、素早く身をかがめるとヘッドホンから離れ、
急いでイベント用に持ってきた八木アンテナに接続された
ハンディ機にイヤホンを繋ぐ。

板垣「聞こえる聞こえる~」
望月「朝利! はやく!」
朝利「あー! きたきたきたぁ!!」
池谷「なにしてんの?」
朝利「お前には、聞かせん」
池谷「はあ?!」

三人、耳を澄ませる。

望月「あー……」
朝利「ふふっ」
板垣「めっちゃ怒られてる~」
池谷「ねえ」
望月「……伊藤だ。怒られてるのは」
朝利「伊藤~」
板垣「伊藤、分電盤の上にステージ立てちゃったのか~」
朝利「だっる~」
望月「……しかし伊藤選手まったく動じない」
板垣「応答無しだよ」
朝利「メンタル鬼か」
朝利・板垣・望月「ふふふふふふ……」
池谷「結局盗聴じゃん」

池谷、男性陣がまったく無視するので諦めて携帯を弄り始める。

板垣「ああもう頭領凄い怒っちゃってるよ」
朝利「伊藤~謝っとけ~」
望月「(カイジのナレーション風に)だが、伊藤、微動だにしない!」
板垣「日に三十時間の鍛錬という矛盾のみを条件に存在するメンタル!」
朝利「なにそれ」
板垣「グラップラー刃牙。知らない?」
朝利「しらねー(笑)」
望月「……いやこれ伊藤、インカム外してるな」
板垣「インカム意味ね~!」

朝利、窓を開け大声で、

朝利「伊藤! 謝れ!」

遠くから、「すいませんでした~」という声。
朝利、満足して窓を閉める。

池谷「いや、無線いみなー」
朝利「(嬉しそうに)何人かいっせいにバッてこっち見たんだけどアレ全員伊藤なのかな?」
池谷「あんたがいきなり大声出したからだよ」
板垣「いややっぱり血湧き肉躍るものあるな、これ」
池谷「前から不思議だったんだけどさ~、無線の何が楽しいわけ? スマホ一つで何でも調べられる時代にさぁ」
望月「俺からすれば演劇部の方が謎だけどね」
池谷「はー? 演劇は芸術だろうが」
朝利「(キリッとして)ネットの情報って言うのはさ、それを知りたいって人の所に届くワケじゃん。つまりはじめから約束された、相思相愛の情報なワケよ。でも本当に情報を伝えたい相手って誰だと思う? それは、俺のことを知らない、俺が何を思っているか知らない、片思いの相手にこそ届けたいわけ。無線ってのは、誰がいるかもわからない真っ暗な海原で一人『だれかいませんか~』って叫ぶところから始まるわけ。それに答えてくれる人ってのは、もともと俺の話なんか聞く気が無い相手なのよ。そういう人と繋がる快感。無線こそ、俺たちが本当に欲しているコミュニケーションツールなワケ」
望月「受け売りじゃん」
朝利「はははー」
板垣「ねえ、それリョウタのマネ?」
朝利「そういうワケ」
板垣「似てねー(笑) どっちかっていうと、ハローバイバイの関じゃん」
望月「(物まね)もう世界は新しい次元に移行し始めたってワケ。いい加減気付けってこと」
朝利「めっちゃ似てる……」
池谷「え? 似てた? 今の似てた?!」

板垣、ヘッドホンを机に戻そうとしかけて、もぞもぞと瓦礫の山をさぐる。

板垣「あ、あ、あ、」

板垣、机の山の陰から、タバコの吸い殻がぎっしり詰まったペットボトルを取り出す。

板垣「あーーーーー……。やなもんみつけちゃったこれ」
池谷「げぇ……」
望月「今時いるんだ、タバコ吸う高校生」
板垣「どうします?」
池谷「いいよっ」
板垣「へ」
池谷「ほっとこ」
朝利「へー」
池谷「これ以上ごたごたに巻き込まれたくない」

池谷、朝利から空き缶を奪い取る。
と、横内とゆうきがやってくる。
池谷、慌ててタバコを隠す。
朝利も、横内に背を向ける。

横内「さ、先生どうぞ! こちらが元アマチュア無線部有志達による出店ブースでございます」
望月「ええ?!」

望月、一人驚いて後ずさる。

板垣「あ、お疲れ様です」
横内「どうも先生! お疲れ様でございます! 今回はご無理を言いまして!」
板垣「いえいえいえ」
横内「池谷先生もお疲れ様です!」
池谷「あっどうも」
横内「(ゆうきに)先生、こちらが沖浦高校教諭の池谷先生と板垣先生です。今回はお二人からのたっての希望で、サイエンス祭の重要なテーマである科学! 科学的教育展示であるところの無線体験会を企画していただいております」
ゆうき「へー!」
板垣「まあ、はい。そういうことになってます」
横内「で、あとは……」
板垣「OBです、二人とも、無線部の」
ゆうき「ああ」
横内「ぼっちゃん!」
朝利「あ……。おひさしぶりですー」
横内「(駆け寄り)こっちについたら連絡下さいって俺何度も言いましたよね?!」
朝利「そうだっけ?」
横内「いいましたよ!! (自分の携帯を出し)電話も! ほらメールも! ラインだって漫☆画太郎のスタンプ付きで送ったじゃないですか!」
ゆうき「ぼっちゃん?」
池谷「あ、市長の息子さんなんです」
ゆうき「ああ」
横内「いや俺今回はいらっしゃらないかと思って……。あっ! もうさっき前園社長帰っちゃいましたよ! どうします? いまからでも社長のご自宅にごあいさつに行かれますか? 俺役所の車で来てるんで送りますよ?」
朝利「いいよもう、遅いし」
横内「だけど! 坊ちゃんを前園社長にちゃんと引き合わせるようにって俺朝利先生から言われてるんですよ!」
朝利「そっちが勝手に決めたことでしょ」
板垣「なんか約束あった?」
朝利「いや別に?」
横内「ぼっちゃん!」
朝利「いやその坊ちゃんってのやめてー?」
横内「今春からぼっ……朝利さんがおつとめになる予定の会社社長にごあいさつに行かれるんです」
板垣「おまえこっちに戻ってくるの? やったー」
池谷「へー!」
板垣「え? でもさ、去年からお前アニメの専門学校入り直したんじゃなかったっけ」
朝利「やめちゃった」
板垣「またあ?」
朝利「思ったよりおもしろくなかった」
板垣「そういって、デザインの専門もやめちゃったじゃん。大学も中退したし」
横内「そんなぼっ……朝利さん、いよいよ定住ということで」
池谷「はーん。よかったんじゃない?」
ゆうき「あの……」
横内「はい?」
ゆうき「よかったら私も紹介……」
横内「ああっ! すみません!」
望月「ゆうき先生ですよね?」
ゆうき「あ、はい」
望月「わーーーーーー!」
池谷「わっなんだ吃驚したぁ!」
望月「ゆうきかおり先生ですよね! ラノベ作家の!」
板垣「あ! ええ?!」
望月「俺、本全部持ってます! 握手してもらってもいいですかぁ?!」
ゆうき「あ、はい」
池谷「(こそっと)え、誰?」
望月「(握手にいたる前に)『異世界に行ったらドラゴンとスライムが助けを求めてきたのでひとっ風呂浴びて魔王倒してきた』のゆうきかおり先生だよ!」
池谷「えっ……異世界、行かれたんですか……?」
望月「ちげえよ! 愚図!」
池谷「愚図!」
望月「タイトルだよ!」
池谷「えっ長っ! ていうかそれタイトルで落ちまで全部説明しちゃってますよね?」
板垣「ラノベのタイトルってAVぐらい長いから」
池谷「いやしらないけど」
望月「略して『ドラフロ』! (握手して)泣きました……」
ゆうき「わーうれしー」
望月「えっ……なんで? ……なんでですか?」
横内「明日、朝利先生とトークセッションしていただくことになってて」
望月「えっ行きます! 絶対見に行きますー!」
朝利「えっ、ミニFMは? 一緒にやろうって言ったじゃん!」
望月「ごめん余裕無いわ」
朝利「(すごい睨む)」
ゆうき「あ、なんか凄い睨まれてる」
望月「やめろ! 目を潰すぞ!」
朝利「ひぃぃっ」
池谷「え、望月君てこんなだったっけ?!」
横内「あとは、次回作の取材ですよね?」
望月「取材?!」
横内「沖浦を舞台にしたアニメの原作書かれることになって」
ゆうき「いや書きません! 違いますよ?!」
望月「(きいておらず)う……そ……(倒れる)」
池谷「ええ?! ちょっと望月君! 望月君!!」
望月「まじかー……俺も沖浦帰ってこようかなー……」
ゆうき「わ……どうしよう。(横内に)あの、アニメ原作とか書きませんよ?!」

横内の携帯鳴る。

横内「はい横内です! 朝利先生お疲れ様です! あっいらしてますよ? はい、はい。わかりました。あと坊ちゃんも来てました。(電話口で大声を出されて、携帯を耳から離す)はい。わかりました、勿論です! ではのちほど。(電話切る)ゆうき先生。いま市長の朝利先生が学校に着かれたと言うことなんですけど、よろしければ一緒にごあいさつに行っていただいて、そのまま明日のお打ち合わせが出来ればと思うんですが」
ゆうき「あー……出来れば、もうちょっと彼らにおはなし聞きたいんですけど」
望月「えっ!」
横内「あっ、取材。あ、そうですね、はいわかりました! そしたら朝利先生には先に挨拶回りに言っていただいて。あの、俺また声かけに戻りますんで」
ゆうき「すみません」

横内、出て行こうとするとそこに生島現れる。

生島「あっ」
池谷「生島先生」
横内「……」
生島「あ、思いがけず大人数で」

朝利と望月だけ、ギョッとしている。

横内「(板垣に耳打ち)あんま、変なこと喋らせないでくださいね」
板垣「あっ、ええ、はぁ」

横内去る。

板垣「あの人、すっかりおばさんの秘書気取りだね」
池谷「次期市長、狙ってたりして」
朝利「え……あ、うん……」
板垣「?」

生島、手持ちぶさたな感じで入室。

生島「あ、君たち来てたの。ひさしぶり」
望月「……さしぶりです」
朝利「あ、はい……どうも……」
生島「(気もそぞろで)…………。ま、じゃ、あの、がんはってね」

生島、踵を返す。

板垣「あっ、生島先生」
生島「はい」
板垣「あの、これ……(ゆうきを気にしつつも)。ですよね?」

板垣、吸い殻の入ったペットボトルを、生島に差し出す。

生島「あっ、あははははは、うん、そう。ごめんね」
池谷「(呆れて)ええ~」
板垣「ですよね! これアイコスですもんね! かっこつけてタバコ吸う高校生が、アイコス吸わないですもんね」
生島「はははは、そうそう、ごめんごめん。喫煙所が遠くてさ」
板垣「なあんだ、もう、よかったぁ! ってよくないですよっ。校内全面禁煙っ」
生島「はい。ね、じゃああの……。大変失礼いたしましたー」

生島、ゆうきにもなんとなく会釈し、去る。

板垣「(空き缶)持ってかねーのかよ」
池谷「ったくもー! 心配して損したぁ!」
朝利「びっくりしたぁー!」
板垣「え?」
朝利「俺、生島先生死んだと思ってたからさあ」
望月「あ、俺も! なあ?」

板垣と池谷、顔を見合わせる。

板垣「……なにをいうかね君たち」
朝利「え~? でもねえ? 死んだよねえ」
望月「死んだ死んだ」
池谷「やめなさいよ」
朝利「三年ぐらい前に、ねえ?」
望月「そうそう」
朝利「病気かなんか」
望月「癌だっけ?」
朝利・望月「タバコの吸いすぎ!」
池谷「ちょっと~、不謹慎!」
朝利「何と勘違いしてんだろ俺……」
ゆうき「マンデラエフェクトですね」
望月「あっそうですよね! マンデラエフェクト!」
朝利「なるほどねー」
池谷「なんそれ」
朝利「しらない」
ゆうき「ネルソン・マンデラっていたじゃないですか。南アフリカの民主化運動やった」
板垣「へー……それがマンデラエフェクトかあ」
ゆうき「いやちがう。これは、ただのネルソン・マンデラの話」
板垣「はあ」
ゆうき「ネルソン・マンデラって、ホントは二〇一三年に亡くなってるんだけど、かなり多くの人がネルソン・マンデラは一九八〇年代に死んだって思い込んでたって事件があってさ」
池谷「マンデラ可哀想じゃん」
ゆうき「実際の出来事とは異なる記憶を、複数人が持つ共通してもつ現象を、マンデラエフェクトっていうの」
朝利「あ、わかるー。俺も筑紫哲也が死んだとき、あ~鳥越俊太郎死んだな~って思ったもん」
ゆうき「それはただの人違い。実際に見たの初めて~」
望月「さすがですね! あの、作家先生って言うか」
ゆうき「ごめんなさい。それやめてください」
望月「え?」
ゆうき「先生って言われるの苦手なの」
望月「あ、はい」
ゆうき「ほら、先生先生って呼ばれてる人間って、大抵ろくでもないじゃない?」

板垣と池谷、顔を見合わせる。

望月「いや、ホントそうですよね」
板垣・池谷「……」
望月「あの、次回作の取材って、次はどんな作品なんですか? やっぱりファンタジーですか? それか、SF。で、あの本当に沖浦が舞台になるんでしょうか」
ゆうき「うん、それは多分」
板垣「わーすげー……」
ゆうき「あ、でもアニメにはならないよ」
望月「え!」
ゆうき「ファンタジーでもSFでもなくて、ノンフィクション」

遠く、研究所のサイレンが聞こえる。
ゆうき、窓から沖島を臨む。

ゆうき「凄い盛り上げようだよね。たかが研究所ひとつにさ、町を挙げてのまさにお祭り騒ぎじゃない」
板垣「それはもう、研究所誘致は市民の悲願でしたから……」
ゆうき「ねえそれってホント?」
板垣「え?」
ゆうき「君たちっていくつ? 君は?」
望月「25です」
ゆうき「あ、じゃあここ三人は同い年ね? あなたも?」
池谷「私はひとつ上ですけど」
ゆうき「ちょうど研究所の建設が始まった頃、高校生だよね」
板垣「はい」
ゆうき「まだしがらみのない高校生だった君たちから見てさ、あの研究所ってどういう存在だった? やっぱり大人達と同じように喜んでた?」

板垣、望月、池谷、話しづらそう。

朝利「そんなことないですよ」
ゆうき「そう?」
朝利「反対してる人いました。研究所が出来れば、汚水も出るし水温も変わっちゃうから、もう漁は出来なくなるし、漁協組合の人とか結構反対してましたよ」
ゆうき「そうなんだ」
朝利「俺たちだって、ねえ?」
板垣「いいよ別にそんなこと言わなくて」
朝利「リョウタって言うのがいて、あ、俺らの友達なんですけど。めっちゃ正義感強くて。海が汚れるし。この辺の友達、結構家が漁師やってる奴も多かったから。リョウタが、俺たちで研究所建設をとめようって言って署名集めたり。あ、俺たち無線部じゃないですか。だからラジオで、あのミニFMって言うんですけど、ラジオを使って色んな人に自分たちの意見を伝えようとかしたり。ね! なんか結構頑張ったよね!」
板垣「うん……」
ゆうき「へえ! 一緒にやってたんだ」
朝利「はい」
ゆうき「でも君さ、朝利市長の息子さんだよね?」
朝利「……」
ゆうき「君が研究所建設に反対してることって、お母さん知ってた?」
朝利「……」
ゆうき「研究所誘致に一番積極的だったのってお母さんだよね? その成果が認められて市長になったんでしょ? 君が研究所建設に反対してること、お母さんはなんて思ってたのかな?」
朝利「詳しいことはリョウタに聞いて下さい!」
ゆうき「え?」
朝利「研究所のこととかは、やっぱリョウタが一番詳しかったんで! うわーなんだよリョウタ、今日来ればな~。あいつめっちゃ喜んでゆうきさんに色々話すと思いますよ?」
ゆうき「そうかな」

朝利、無線機を弄って、あたふたとヘッドホンをつけたり外したりする。

朝利「あ、やっぱちょっと電波の飛び悪いな! 雨だからかな?」
板垣「え、あ、わかんない」
朝利「俺ちょっとアンテナ見てくるわ。屋上の鍵借りていい?」
板垣「あ、はい」

朝利、板垣から鍵を受け取ると教室を飛び出していく。

ゆうき「どういうこと?」
板垣「……」
ゆうき「リョウタ君のことは私も調べたんだ。彼ってその、反対運動で」
望月「そうですね。ラジオで反対意見を放送するんだっていって」
ゆうき「海に出たんだよね」
板垣「はい。その方が電波が遠くまで飛ばせるっていって」
ゆうき「そこで嵐に遭って……その……リョウタ君、亡くなってるんだよね?」

遠くで雷鳴。
研究所のサイレンが鳴り響く。

ここから先は

35,104字 / 1ファイル

¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?