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僕にとってのコロナによる損失

「旅の出会い」

それぞれが選択をし、それぞれが捨て、それぞれが拾いに行く。
その先で出会う同じく迷い人。

あなたのストーリーをお聞かせください。
あなたが此処に居る答えを、あなた自身が持っていなくても。
決意、高揚、焦燥、逃避、挫折、あなたのそのストーリーを全てお聞かせください。

合わさることのない人と、人として交わることの嬉しさよ。

Takaesu Naoki noteマガジン「To Be Original~アメリカ横断記」より

先週沖縄県では、新型コロナウイルス感染拡大防止のまん延防止等重点措置が5月31日まで延長されました。
引き続き不要不急の外出が自粛され、飲食店は20時までの時短営業となっています。

飲食店関係者の方々が苦しいのはもちろんなのですが、僕が個人的に痛いな~と思っているのは「新しい出会いとの機会損失」です。
冒頭で引用したのは僕がかつて旅をしたときに、旅の出会いの素晴らしさを伝えたかった文章です。
普段生活をしているだけでは決して会うことのなかった人たちと、人として接することができる旅は素晴らしいと思うのです。

僕にとってそんな出会いができる場所がカウンターBarなのです。
カウンターに並んでしまえば、社長さんも季節労働者も外国人も同性愛者も、老若男女問わず(20歳以上ね)いち個人として話をすることができます。
彼らのストーリーを聞くことができなくなることは、重大な機会損失なのです。

蜜を避けた方法として、屋外でイベントチックに小規模で人脈を広げられるような会を開こうとも思っていますが、Barのような偶発的な出会いに心はときめくのです。


最後に、ラオスのBarでの出会いの一幕を紹介して今日は終えたいと思います。

「人と人との交差点」

僕はよくBARに行く。
1人カウンターに腰掛けると、そこは普段出会わない人達との出会いの場になる。
職種も年齢も性別も関係ない。
お酒を通じて語り合えば、皆が友人として交わることができる。
僕が好きなBARはそんな場所だ。


僕はここラオスのビエンチャンで、「SAKURAN」という名前のBARに通った。
和風な名前に惹かれながら、恐る恐る入ってみると、時間がまだ早かったのか、カウンターに2、3人が座っているだけだった。

カウンター越しに接客してくれたのは、ヌードゥという20歳の女の子だった。
目鼻立ちのはっきりとした黒髪の娘だ。
つたない英語に照れ笑いする仕草が可愛らしかった。

法学科に通う彼女は翌日テストがあるのだという。
「だから大変よ~。あ、ちょっと待ってね。」
そう言ってバッグから取り出したのは、”F”の印が押してある紙切れ。
どうやらある科目の評価点らしく、Fは最低評価にあたる。

そして彼女はまた照れ笑いをするのだった。


ヌードゥにラオス語を教えてもらいながらラオスビアを飲んでいると、欧米風の男性が1人店に入ってきた。
僕の隣で同じくラオスビアを黙々と飲んでいる。
彼がおかわりを注文したタイミングで乾杯をねだり、それから話がはずんだ。

スウェーデン出身の彼は元ジャーナリストだった。
アジアを中心に駆け回り、今は所属していた会社を辞めて再就職に動く前に気ままに旅行をしているところだという。
「僕は今、人生を楽しんでいるのさ。」
スウェーデン人は静かに呟いた。
ジャーナリスト時代の話しをあまり語りたがらない彼の言葉は、ある種人生の疲れを内包しているような気がした。
背中がやけに淋しい。


そうこうしているうちに、反対の隣関から日本語が聞こえてきた。
見ると、年配の日本人男性が2人楽しそうに会話をしていた。

「ラオスにはお仕事でいらしたのですか?」
僕が日本語で話しかけながら乾杯をねだると、彼らはかなり驚いた様子だった。
確かに旅行中、日本人に見られないことが多々ある。
実際、ヌードゥは僕のことをタイ人だと信じて疑わなかった。

のころは60代半ばの年齢だろうか。
2人して旅行に来てBARに繰り出す、なんてイカした先輩なんどろう、と思った。

僕は年配の人の話しを聞くのが好きだ。
昔の苦労話も、古き良き時代の話しも、「今の若い人は…」という愚痴ですら、価値ある話しに思える。

彼らの出身が長野県ということもあり、山の話しなった。
そしてそれは僕の名前が有名な登山家に由来していることを告げた時だった。
急に2人して口をつぐみ、淀みなく流れていた会話がほんの一間滞った。

2人一度だけ目を合わせた跡、1人の方が優しい笑みをうかべながら言った。
「実は、今回私たちは本当は3人で来るはずだったんです。
もう1人の奴は山岳会に所属していて、なんとも山が好きなやつだった。
ところが、旅行の計画が進み、出発も2か月をきた頃、やては農作業中にトラクターに挟まれて死んじゃったんです。
突然の死に、私たちも驚き悲しみましてね。
旅行の中止も考えましたが、一番楽しみにしているのは彼だったから。
今回の旅行は彼の分も楽しもうと、そう思ってやって来ました。
きっとやつもついて来ていますよ。
山にゆかりのある貴方になら言っても良いかなと思い、こんな話をしてしまいました。」

胸がつまる。


誰かの人生を垣間見る時、
強烈に人そのものに惹かれることがある。

僕らが一日に何百何千とすれ違う人たちも、
いざこうして腹を割って話をしてみれば、
誰も彼もがドラマを持っていて。
傷を一つ一つ背負いながらも進んでいく姿に、
人って良いな、って思ってしまうのです。

そんな出会いを求め、
今宵は何処のBARで酒を酌み交わそうか。

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