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20.コールドなホワイト企業の部品人間になる。

日常生活のあれこれを定型でこなしている内に、段々生活にリズムが出来てくる。何というか心地良いリズムというか、生活に張りを与えるリズムというか、こうやって段々、習慣として定着していくのだろうな。

今は不良ブラック企業時代みたいにイライラもしないから、酒やギャンブルに逃げる必要も無いので崩れない。仕事は中々疲れる仕事だし、時々スイッチオフになる時もあったが、奮起してto doリストは必ずこなすようにした。

生活習慣の立て直しは想像以上に上手く行った。何しろ元々出来ていたわけだから、妨げていた何かが取れた瞬間に普通にスッと戻れたのかもしれない。そして、この頃から歪な現状肯定・自己防衛の為の屁理屈作りといった現実逃避を必要としなくなっていった。

湘南紳士塾を退寮して2ヶ月目。新しい派遣会社に登録した。すぐに求人広告系の企業Z社に派遣される事になった。Z社は求人広告を扱う会社だが後発企業。フリーペーパーの代理店からスタートした企業だが、現在はネット求人広告に注力中で、俺はそのPR部隊の部署に配置される事になった。

やる事はシンプルだ。要は事実上のビル倒し(飛び込み営業)で、エリア内にある事務所・店舗をピックアップして、1社1軒にネット求人広告のパンフレットを持参し説明に上がる。それを1日80件~120件こなす。正直、意味があるのか微妙な気もするが、とりあえず俺は言われた事をやるだけだ。

Z社は、株式市場への上場を目指しているようなホワイト企業だけあって、給与に待遇はしっかりしている。だが、いざ職場に行ってみて思うのは、とにかく人間関係がコールドで、仕事環境もすごくコールド。本社での研修を終えて配属された初日に、全員の前で新入りの挨拶はしたものの、殆どの社員が作業の手を止めぬままコクリと首を下げる程度。

明らかに俺に興味が無い。1人だけ気さくに声を掛けてくれる社員さんが居たが、基本、OJT担当や、PRスタッフを管理する担当者を除けば、事務的伝達以外の交流がほぼゼロだし、私語禁止なの?というくらい仕事以外のコミュニケーションが無い職場だ。

OJT担当のK主務に話を聞いたら、とにかく社員も派遣もパートも流動性が高く、長く務める人が居ない。また正社員はやたら異動が多いらしく、いちいち人間関係を構築した所で「何のメリットも無いから」という理由とそもそも「人間関係が面倒」と感じる人が社内に多いが為に、このようなコールドな感じになったのだそう。

凄い職場だなと思ったが、その分、それぞれの仕事の分担や目標が明確に設定されているそうで、それぞれがそれぞれの仕事だけをこなせば成果が上がるシステムらしい。何だかサッパリ分からんが、社長が工学部出身のMBAだそうで、経営システムとして凄く注目を浴びているんだそう。

OJT担当のK主務も、このシステムに魅力を感じ、Z社に転職したそうで、3年勤め上げたら独立するそうだ。独立後は、実家のリフォーム会社で、その仕組みを導入し、属人性を出来る限り廃したシステムにして業界に革命を起こしたいのだと語ってくれた。何だか俺にはよく分からんが、そんな部品人間みたいに仕事をして楽しいのだろうか?


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