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23.コールドな仕打ちに何かムカつくぜ。

コールドなホワイト企業の冷たさは内面を抉ってくる。指導と称するコールドな追い詰め方は、まるで陰湿な苛めを見ているようだった。同時期に配置された派遣や契約社員に対する、表面は正当な指導を装った事実上の苛めを見ていてイライラする。

恐らくだが、次の更新で自主都合による契約終了に持ってこうとしているのだろう。人間の本質など変わらない。分かりにくくなったか、形を変えたか、潜っただけだ。

精神的に疲弊していくPR部隊の同期の面々。最初32名だったPR部隊だが、半年後には9名にまで減ってしまっていた。かつて所属していた優良ブラック企業の場合、ブラック企業堕ちしたのも外部環境の急激な変化が原因だ。確かに労働時間や賃金などの指標はブラックだったかもしれないが、人は温かく、助け合いが合った。

一方、Z社は……。

ある日帰社すると、同期の契約社員のSHさんが、事務所の入口スグのデスクの島で3人の管理職とマネージャー、サブマネージャーの5人に囲まれていた。SHさんの隣には、OJTを担当していた2年目の若手社員が起立したまま弱り切った表情で俯いている。

どうやら、営業先の会社からクレームが入ったみたいだ。自分のデスクに戻ると、K主務が「はじまったよ」と小さな声で囁いてきた。

「何ですか?」
「追い込みだよ追い込み」
「えっ?」
「辞めさせたいんだよ」
「あ~」

要は、契約更新を希望しているSHさんを切りたいというのが本部の考えみたいだ。隣で怒られている2年目の若手社員は、SHさんに「私のせいで」という罪の意識を植え付ける為の演出なのだそうだ。

「えっそうなんですか?」
「うん、年中行事だからね」
「でも、なんでですか?」

K主務がさらに小さな声になり、「PR部隊PJがさ、失敗だったから潰したいんだよ」と教えてくれた。

どうやら、本部の思いつきで始めたPR部隊という名のビル倒し・軒倒しの営業が殆ど効果が無く、WebでのPRの方が圧倒的に効果が出たという理由で、そちらにリソースを集中するという決定になったのだそうだ。

「すごいだろ。SHさんさ、今日、管理職3人がさ、チェック表を挟んだバインダー持って、営業に同行したんだぜ」
「えっ? そうなんですか?」
「そう、指導と称してさ、ああやって追い込んでいくんだよ」
「あ~」
「田島君はさ、成約上げてるからさ、だから追い込みの対象外みたいだけど……」

K主務が肩を叩く。

「マジで変に粘らない方がいいよ」

俺は日報を打ち始めるが、SHさんの様子が気になって仕方無かった。確かにブラックでは無い。でも、正当な手続き、正当な指導、正当な対応という外面の覆いの向こうに、物凄く冷たい何かを感じる。

結局SHさんは翌週から会社に来なくなった。SHさんが来なくなった翌日、サブマネージャーから、「田島君はいつまで続けるの」と聞かれたので、「やりたい事があるので、次の更新で……」と語尾を濁すと、笑顔で「そっか、残念だけど、それがいいかもね」と含みのある言葉で返された。

何かムカつく会社だぜ。

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